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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第一章 世界の支柱、『黒龍の巣穴』攻略編
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7話 マナに愛された王女様


 王との謁見を終えて、三人は再び客間に戻ろうと城内を歩く。


「くっ……大きな仕事が終わったと思ったら、今度は黒龍の住処に行くことになるなんて……明らかにレベルが違いすぎるだろ」


 更なる大仕事が圧し掛かり、心身共にげんなりするメティア。


「我が王の命だ、泣き言は許さん」


 前方を歩くサイカは萎れるメティアを睨み付けながら。


「貴様らの仕事は内部の探索ではなく外での待機及び輸送だ。前線で戦うわけではないのだからまだマシだろ。それに私を含めた我ら国の兵の者も護衛する。何も心配はいらない」


 当たり強く言いながらも、メティアの心境を配慮し、気を遣う。


「そうは言うけどね、入り口周辺にも魔物がウジャウジャいるらしいじゃないか。魔導飛行船を駐機している間に魔物に囲まれてエンジンでも破壊されたらお仕舞いじゃない」


「そうならない為に貴様らが選ばれたと聞いているが?」


「それがプレッシャーだっつの!」


 などと、不毛な文句を飛ばすメティアだが、当の船長が王の依頼を受けてしまった以上取りやめることはもはや出来ない。

 国家の危機を前に、逃げることは許されないのだ。




 今回依頼を受けた魔鉱石採掘は六日後に行われる。

 それまでに人員の厳選と物資の補給、脱出経路の確保などの準備をしなければならない。


 ポロ達の隊で『世界の支柱』クラスの魔物を相手に出来るものはほとんどおらず、彼らにも生活がある以上無理強いは出来ないのだ。


 しかしそれは大した問題ではない。

 メティアが最も懸念しているのは……。


「それに黒龍って言ったら『原初の魔物(オリジン・モンスター)』の一角でしょ? もし遭遇したら、私達人族なんて羽虫程度に消されるわよ」


 天災級の魔物が住処としている場所に向かわなければならないということ。

 人の力ではどうにもならない生物、それが『原初の魔物(オリジン・モンスター)』である。


「いちいちうるさい女だな、私よりもずっと長生きしているわりに胆の据わらん奴め」


 サイカは覚悟の決まらないメティアを適当にあしらっていると。


 通路の奥からカツカツとヒール音が鳴り響き。

 突然、曲がり角から人が飛び出し、前方を歩いていたポロと衝突した。


「きゃっ!」

「んむっ?」


 あわやポロは視界を覆うふくよかな胸部に吸い込まれると。

 穏やかな表情で、そのまま顔をすり寄せた。


「申し訳ありません、急いでいたもので…………あら?」


 身分の高い者が着用するドレスをまとったエルフの少女は、ポロの気持ち良さそうな顔を眺め。


「まあ、なんて可愛らしい獣人様」


 スンスンと鼻を付けながら埋もれるポロを、思わず抱きしめる。

 だがそれを見たサイカは血相を変え、吸い付くように密着するポロを引きはがした。


「貴様! 陛下に無礼を働いただけでは飽き足らず、姫様にまで危害を加えるか! 今すぐ離れろこのエロ犬め!」


「姫さま?」


 メティアは目の前の彼女を見つめ、サイカに聞き返す。


「この方はセシルグニム第一王女、アルミス・レアロード・セシルグニム様にあらせられるぞ!」


 仰々しくエルフの少女に手を向けるサイカに、メティアは血相を変えて頭を下げた。


「お、王女様っ? ……うちの船長が大変なご無礼を! 本当に申し訳ございません!」

「あら、気にしないで下さい。ぶつかったのは私のほうですので」


 王女はメティアにそう返すと、彼らに興味を持ったアルミスはサイカに尋ねる。


「船長……ということは、この方々が例の?」

「はい、『黒龍の巣穴』攻略の移動を担う、フリングホルンの飛行士です」


 すると、アルミスは目の色を変え、再びポロへ近づき彼の両手を握る。


「お願いです! 私も『黒龍の巣穴』に連れて行って下さいまし!」

「えっ……?」


 ポロはキョトンとアルミスを見つめた。


「姫様! またそのようなことを……あそこは大変危険な場所だと何度言えば分かるのですか!」

「けれどサイカは行くのでしょう?」

「私は国を守る為に行くのです。観光気分で魔物の巣窟へ行きたがる姫様とは志が違います!」


 サイカの言葉にムッとしながらアルミスは反論する。


「私だって目的はあるわ。最深部にある巨大な魔鉱石を一目見てみたいもの。そうしなきゃいけない気がするの」

「それが観光気分だというのです。どのみち魔鉱石は城に運ばれる予定なのですから、その時ご覧になれば良いでしょうに…………というか姫様、今は経済学を習う時間では? 何故このような場所に」


 と、サイカはアルミスと討論を繰り広げていた最中に、ふと、何故姫様がこの場所にいるのかが気になった。


「あっ、大変、ロアールから逃げてる途中だったの」


 ちなみにロアールとは、アルミスの座学専属講師を務める老執事である。


「姫様、またロアール様の授業を抜け出されたのですか? 今すぐお戻りください」


 しかしアルミスは「それでは皆様、ごきげんよう」とドレスをたくし上げ早々に駆けだした。


「ちょっ、こら! 姫様!」


 サイカはアルミスを捕まえようと手を伸ばすが。

 その瞬間、アルミスは音もなく姿を消した。


「くっ……おのれ!」


 すると、アルミスは廊下の外、中庭で再びその姿を現す。

 それを見たメティアは目を丸くし。


「今の……まさか空間移動?」


 高レベルの魔法を目の当たりし、唖然とした。

 サイカは頭を抱えながらメティアに返答する。


「……姫様は魔術において天賦の才をお持ちだ。たった三年で、全属性の魔法を習得したのだ」

「全属性!?」


 それはこの世界において極めて稀なケースである。

 魔法の種類は人によって得意不得意が必ずあるものだからだ。


 普通マナの元素エレメントは火、水、地、風、雷、光、闇のどれかの属性に偏るもの。


 そして属性が偏れば、相反する属性は身体に合わず苦手とするのが常であり、それは魔導を極めた大賢者ですらその法則は破れない。

 だがアルミスは、その法則を無視して全ての属性を使用することが可能な、天才だった。


「だから……姫様が本気を出せば城の者で捕まえられるものは……」


 と、その時。

 空間移動を駆使しながら逃げるアルミスの上空から、人影のようなものが飛来し。


「たった一人しかいない……」


 颯爽と地面に着地した男は、いとも容易くアルミスを捕らえ、抱きかかえる。


「捕まえましたよ、姫様」

「もう、レオテルス! いつもいいところで現れるんだから!」


 捕らえられたアルミスはあえなく城の中へ帰される。

 ポロはその銀髪の青年を見つめ、直感で理解した。


「あの人、すごく強そうだね」


 ぼそりと、そう呟いた。

 するとサイカは「当然だ」と返し。


「あいつはレオテルス・マグナ、我らセシルグニム騎士団の、団長だ」


 表情は変えずとも、どこか誇らしげにその青年を見つめた。





ご覧頂き有難うございます。

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