77話 新たな依頼
アルマパトリアから帰還して数日のこと。
セシルグニムの飛行船停泊所にて。
「んん~…………ひっさしぶりのぉ~」
ポロは体をすぼめて溜める様に唱えると。
「仕事だぁああ~!」
ピョンと大きく飛び跳ね嬉しさを表現する。
「それも水の都、アスピド! 僕初めてだからすごい楽しみなんだ!」
陽気にはしゃぐポロの姿に船長らしき威厳はなく、見たままの無邪気な子供そのものであった。
「人魚に魚人、海女精に歌鳥人、他にも色んな種族が暮らしているんでしょ? その人達が作る魚料理は絶品なんだって!」
周りにいた船員は、ウキウキするポロの船長復帰を微笑ましく見つめる中、メティアは煙草を咥えながら溜息を漏らした。
「ようやく運送ギルドから免停を解かれて浮かれる気持ちも分かる。私も船長代理の仕事がなくなって楽出来るさ。そんなめでたい時に水を差すようだけどね……」
と、背後に立つセシルグニム騎士団副団長、サイカに視線を向けながら。
「どうしてまた王の依頼を受けることになったんだい?!」
涙目でサイカを指差し不満をポロに向けた。
先日リミナから献上された魔鉱石、『紅炎石』をこの国の地中に埋まる『浮遊石』へエネルギー供給させたことにより、当面の間、セシルグニムのマナ枯渇問題は解消された。
数カ月前にオニキスから渡された『反魂石』も数年分の魔力供給が満たされたが、『紅炎石』はそれをはるかに凌ぐ魔力量であった為、控えめに見積もっても向こう十年は国の延命が成された。
その功績を称えてリミナには勲章と実家に多くの謝礼金が渡され、国とハルチェット家に太いパイプを確立する。
そして彼女の助けとなったポロもフリングホルンの運送ギルドから免許停止処分を解除され、再び仕事に復帰する形となった。
と、そこまではメティアも納得のサクセスストーリーであったが。
セシルグニムの王、ロアルグは彼らの誠実さに加え、元より知っていた戦闘経験を鑑みてポロに新たな依頼を頼んだ。
それはセシルグニムの王女、アルミスを水の都アスピドへ送り届けるというもの。
理由はアスピドを領地とする海上の国、テティシア国の第一王子と会談をする為だった。
というより、主に縁談である。
空の国と海の国、両国の王族同士の結婚が成立するにしろ見送るにしろ、テティシアとの親交を深める為に執り行われる此度の顔合わせは、両国の未来を決める重要な日になる。
そんな国の要である人物を安全に送迎するという使命に、メティアは再びプレッシャーに苛まれるのだった。
「いや~まさかこんなに早くアルミスにお見合いの話が来るなんてね」
見知った者だけに、ポロは感慨深く頷く。それに対し。
「呑気に言うな。これでもし『黒龍の巣穴』の時みたいにイレギュラーな襲撃があったらどうする? 空の魔物に襲われたら? 空賊に狙われたら? 王女様の身に何かあったら今度こそ私達の首が飛ぶよ?」
と、確定していない未来への不安を抱くメティア。
ポロは頬を掻きながら、頭を抱えるメティアを説得する。
「僕の復帰早々、ネガティブな感情に浸るのやめようよ。もう引き受けちゃったんだから覚悟を決めよう。ねえ、サイカ」
そしてアルミスの付き人として、護衛の任を言い渡されたサイカに話を振る。
「……まあ、今回はお前達の強さを信頼しての依頼でもある。この間の件は我々の落ち度もあり、転生者なる者達の妨害も重なって姫様に危険が及んだが、それでも無事に生還出来たのはお前達飛行士のおかげだからな」
サイカは相変わらず固い表情のまま、それでもポロに話を合わせる。
だが気分はあまり良くない様子であり、そんな彼女にポロはそれとなく尋ねた。
「サイカ、もしかしてアルミスの結婚話に乗り気じゃない感じ?」
ポロは反論されると予想して言ったのだが、サイカは静かに頷き。
「そうだな、あまり気乗りはしない」
と、素直に返した。
「姫様とは付き合いも長く、情が湧くのも当然だが、それとは別に、テティシア領で悪い噂を耳にしているのでな」
「悪い噂?」
ポロは首を傾げると。
「……最近、アスピド周辺で頻繁に謎のテロ行為が起きているの知っているか? 突然敷地全体を爆破される悪質なテロだ。そして狙われるのは決まって研究所、それも海洋生物や魔道具を研究している場所に限る」
溜息を吐きながらサイカは答えた。
「それだけならまだいい。しかし、ある情報屋がその無くなった研究所を調べたところ、非公式で魔物の量産や人体実験を行っていることが明らかになったらしい」
ポロは「ふ~ん」と呟くと。
「……それに国が関与しているんじゃないかって懸念があるわけだね?」
サイカの心境を察したようにポロは答えた。
「そうだ。その話が本当だとしたら、とてもじゃないが快く姫様を嫁がせる気は起きないだろう?」
「うん、僕もどうせならアルミスには幸せになってもらいたいもん」
「陛下にもその話は伝わっていてな、だからこそお前達に依頼したのだろう。縁談を無下には出来ないが姫様の安全も気になさっておられる。私一人だけでは姫様を守り切れぬやもしれん。そこでお前達が選ばれたのだ」
ポロは「なるほど」と頷き状況を理解する。
「そういうわけだからメティア、頑張ろう?」
「何がそういうわけよ。その話ですでに安全さが失われているんだけど?」
踏ん切りがつかないメティアだが、王直々の命である為、もはや依頼を拒否する事は不可能。
ポロは項垂れる彼女をなだめていると。
ふと、停泊所の奥から眼鏡をかけた男が現れ、表情を変えぬままその男はポロに近づいてきた。
「やあ、久しぶりだね、ポロ君」
「ノーシス?」
ポロに声をかけた男は、同じフリングホルンの飛行士、ノーシス。
主に情報伝達を仕事とする、運送ギルドの連絡部隊、その船長である。
「船長会議で顔を合わせた時以来か。調子はどうだい? ギルドから君の免許停止処分が解除されたと聞いたが?」
「うん、復帰早々、国の依頼でアスピドに向かうことになったんだ」
楽しみな様子でノーシスに返すポロ。
「ふ~ん、水の都か」
「ノーシスこそ、こんなところでどうしたの? 仕事?」
「まあ仕事と言えばそうなんだが……実は丁度、僕も君に仕事の依頼をしようと思っていたところなんだ。しかも偶然なことに、行き先は同じアスピドさ」
キョトンとしながらポロはノーシスを見つめる。
「どんな依頼?」
すると、ノーシスは奥に手を向け。
「簡単なことさ。彼女をアスピドまで送ってくれるだけでいい」
ノーシスに紹介されて飛行船の陰から現れたのは、鳥のような翼を生やした赤い髪の少女だった。
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