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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
幕間【2】 新人転生者の激情
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76話 殺意の信念


 突き付けられた現実に発狂したショウヤは、近くの荒廃した壁に向かって何度も頭をぶつけた。


 何度も、何度も。

 やがて壁は崩れ、額から流れる血をそのままにショウヤは膝をつく。


「俺がこの町を離れなければ……みんなを守れたかもしれないのに……」


 止まない後悔に項垂れていると。

 ふと、彼の背後から複数の足音が聞こえた。


 弱々しく振り返ると、そこには甲冑を来た兵士が三人。


「ん? なんだ、声がすると思えば……まだ生き残りがいたのか」

「くく、なんだよその泣きっ面は。家族を守れなくて悔やんでいるのか?」

「心配するな、お前もすぐに連れて行ってやるよ。小僧」


 そして呆然とするショウヤを嘲笑しながら、兵士達は腰に下げた剣を抜く。


「簡単に死んでもつまらんからな。時間をかけてじっくりいたぶってやろう。せいぜい苦しみもがいてくれ」


 と言いながら、兵士達はショウヤを囲むようににじり寄ってきた。


 その無邪気なる悪意を目の当たりにしたショウヤは、怒りの矛先を見つけたことでわずかな安堵が芽生える。


 ――ああ、よかった。殺す相手が見つかって……。こいつらがやったんだな。ライラを、みんなを。


 そして静かに立ち上がると。


「【聖戦武器召喚セイクリッドデバイス】」


 ショウヤは召喚スキルを唱えると、彼の周りを取り巻くように、複数の武器が浮遊しながら壁となった。


「な……なんだこいつ、魔導士ソーサラーか?」


 剣を構えていた兵士は、突然魔法を唱えたショウヤにたじろぎ後退するが。


「『デュランダル』、貫け」


 ショウヤは近くを浮遊していた大剣を遠隔操作し、腹部目掛け甲冑ごと兵士を貫いた。


「ごあっっ!」


 何も抵抗出来ぬまま、兵士は貫かれた腹部を見やり驚愕する。

 するとショウヤは兵士の元まで近寄り、刺さったままの大剣を掴むと。

 そのまま腕を振り上げ、兵士の肉骨ごと真っ二つに断ち切った。


「ひっ、ひぃいいい!」


 目の前で仲間がやられたことにより、二人の兵士は死の恐怖が芽生える。

 足がすくみ、四つん這いで逃げ去る兵士達だが、ショウヤは逃がしはしない。


「こんなものじゃねえだろ。村の皆が受けた痛みは」


 そう言いながら、ショウヤは自身に取り巻く複数の武器を操作し、二人の体に無造作に貫いた。


「あがっっ!」

「ぐあああ!」


 何度も引き抜いては、再び刺し込む。


 兵士の意識が途絶え、絶命しても尚、死体が穴だらけになっても尚、剣で、槍で、斧でそれを突いた。


 何度も何度も何度も何度も……。


 憎悪を込めて、ショウヤは死体に向かって刺し続けた。


 するとそこへ、ショウヤの後を追って来たジェイクは、その異様な光景に目を瞑りながら彼の元へ近寄り。


「……ショウヤ」


 およそ正気ではない彼のオーバーキルを、いたたまれない気持ちで眺めた。


「ショウヤ、その者達はもう死んでいる。これ以上は無駄だ」


 だがその言葉は届かず、というよりジェイクの話をごまかすように、ショウヤは近くの剣を手に取り、自らの手で機械のように刺し続ける。


「こいつらのせいでみんなが死んだんだ。みんなが受けた切り傷と同じだけ、こいつらにも味わわせてやらないと」


 彼の表情は変わらず、壊れたような虚無の目をしていた。


「っっ……もうやめろ! こいつらはただの一兵卒だ。替えの利く駒をいくら痛めつけても結果は変わらんぞ!」


 ショウヤの肩を掴み静止を促すジェイク。すると。


「そんなこと分かってんだよ! けど、じゃあこの怒りはどこにぶつければいい? 村を襲撃した指揮官はどうせここにはいないんだろ! 今! この瞬間俺の怒りを収めるにはどうしたらいい!」


 体を震わせながら、憤る拳を死体に叩き付け叫ぶ。


「俺は誰を殺せばいいんだっ!」


 なんと返すべきか迷いながらも、ジェイクはショウヤに告げる。


「……その甲冑に刻まれた紋章……おそらくセシルグニムの者だ」


「……セシルグニム?」


「空に浮かぶ空中都市だよ。……しかし妙だ。あそこは我が国との貿易を結んだ友好国だったはず。それに、セシルグニムを統治するロアルグ王が無益な争いを生むとは思えん」


 ロアルグの人となりを知っているだけに、ジェイクは自分で言っておきながらその発言に自問する。


「この男らの装備している甲冑が何よりの証拠だが、この者達がセシルグニムの差し金である確証はない。調べようにも、遺体がその有様ではな……」


 そしてショウヤが怒りに任せて惨殺した死体を難しい顔で見ると。


「……なんでもいい、その国の奴らが襲撃したんだろ? この村を」


 光を失ったような瞳で、ショウヤはぼそりと呟く。


「そいつらを野放しにしたら、また別の町に被害が出るかもしれない」


 そう言って、ショウヤは力無く歩き出した。


「待て、まさか一人で報復に行くつもりではあるまいな?」


「だったらなんだよ? 一人のほうが動き易いし被害も最小限だろ」


「国を相手にするのだぞ? 一度町へ戻り、王に確認をとるべきだ!」


 ジェイクはショウヤの腕を掴み彼を止めるが。


「それはジェイクさんがやってくれ……。俺は、我慢出来そうにない」


 ショウヤはその手を振り払い、ジェイクの顔も見ずに去ってゆく。


「ショウヤ……」


 心が壊れたその姿に、胸を締め付けられながら後ろ姿を眺めていると。


 ふと、気配もなく彼の前に一人の女性が現れた。




「なら、あなたの復讐に手を貸してあげましょうか?」




 突然現れた女性に、ショウヤはじっと視線を合わせると。


「……たしか、ルピナスって言ったか? なんの用だよ」


 左程驚きもせず、以前会った顔に無気力なまま返した。


「つれないわね。だから、あなたの手助けをしにきたのよ。同郷のよしみでね」


「仲間への誘いを断った奴に手を貸す程、あんたらは暇してんのか?」


「辛辣ね。警戒する気持ちも分かるけど、あなた一人で事を成すのは不可能よ。あの国を支援する後ろ盾はなかなかに強固だもの」


 と、無策なショウヤに諭すように告げる。


「セシルグニムを攻め落とすのは私達にとっても好都合。あなたとは良い協力関係を築けると思うの」


 そして互いのメリットを提示すると。


「だからもう一度言うわ。私達の仲間になって」


 手を差し伸べ、今一度彼を勧誘するルピナス。


「……それが俺に手を貸す見返りか?」

「ええ、それでも足りないというのなら……そうね」


 と、ルピナスは奥に倒れるライラに指を差した。


「あなたの大事な人を一人、蘇らせてあげてもいいわ」


 すると、憔悴したショウヤの目がわずかに見開いた。


「蘇らせる? ……出来るのか? そんなこと」


「正確には霊魂を操り、無理やり元の器に括りつける【死霊術ネクロマンシー】だけどね」


 そうルピナスは念を押す。


「【蘇生術リザレクション】と異なるのは、完全な人間には二度と戻れないということ。食事も睡眠も必要としない分、不死者アンデッドとして存在し続ける。分類としては魔物と認定されるわ」


 もうライラは人間ではいられなくなる。

 ゾンビとして、この世に存在し続ける。

 それでも、ショウヤは願った。


 ――たとえ人間じゃなくなっても、もう一度ライラと生きれるなら……。


 そんな希望を抱き、ショウヤはルピナスに頷く。


「分かった、あんたに従うよ。だから彼女を助けてくれ」


 無数の帰らぬ命の中で、ショウヤは自己優先度に準じてライラを選んだ。


 するとルピナスは微笑を浮かべ。


「任せて、あの子の霊魂は私が必ず呼び戻してあげる。それと、これからよろしくね、ショウヤ」


 無防備なショウヤの手を取り、新たな仲間の加入を喜ぶルピナス。

 その二人のやり取りを見るジェイクは、正体の知らない彼女を訝しく思う。


「おい、ショウヤ、本気なのか? やはり王に指示を仰いだほうが……」


 だが、その静止は届かず、ショウヤはジェイクに告げた。


「ジェイクさん、後のことは頼むよ。俺はちょっと出かけてくる」


 そう言って、ショウヤは亡くなったライラの元へ近寄り、彼女の体を大事そうに抱えながらルピナスへ差し出す。


「ライラを元に戻すのが先だ。そしたらなんでもあんたの言う通りにしてやるよ」


「その条件でいいわ。それじゃあ、ここではなんだし場所を変えましょうか」


 そして二人は【空間の扉(ポータル)】に包まれ、荒廃した村から消えていった。


「ショウヤ……お前は……」


 純粋な正義感を持った少年の姿はもはや無く。

 そこにいたのは、復讐心に囚われた者の姿。


 ジェイクは彼の行く先を憂い、滅びた農村を一人徘徊した。





ご覧頂き有難うございます。



次回より第三章へ突入します。宜しければご覧下さい。

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