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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
幕間【2】 新人転生者の激情
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75話 悲劇は突然に


 隣町まで向かうこと数時間。

 ショウヤはようやくジェイクのいる屋敷に到着した。


「では私はこれで。公爵様によろしくお伝えください」

「? ああ、ありがとうございます」


 ――この人はジェイクさんに顔を見せないのか?


 そんな疑問を抱きながら、ショウヤは門を潜った。

 門番に自分が来たことを伝えてもらい、ジェイクを呼び出すと。


「ショウヤ? 急にどうした?」


 何故か驚いたようにショウヤを見るジェイクの姿。


「いや、どうしたって……ジェイクさんが俺を呼んだんじゃ? 使いの者まで寄越して」


「使いの者? 私は知らんぞ」


 互いに疑問符が浮き出る二人。


 ――じゃああの人は一体誰なんだ?


 そう思っていると。


「まあせっかく来たのだ。茶でも飲んでいけ。丁度コルデュークという男について調べていたからな。経過報告をしようじゃないか」


 と、ジェイクが提案し、ショウヤは客間のソファーに腰かけた。


「……それで、何か分かったんですか? あいつは自分のことを行商人と言っていましたが」


「うむ、それも違法な魔道具や人身売買を主にする闇商人だ」


「人身売買……」


 そのワードに、ショウヤは気分が重くなる。

 自分がこの世界に来たての頃に、訳も分からず売り飛ばされた苦い過去がある為。そしてライラもその被害者である為。


「その他にも、各国の重役者と裏での取引、それに兵器開発や人体実験を生業とする関係者とコネクトを持っているとか」


「幅広過ぎだろ……」


 聞いているだけでコルデュークの危険さが際立ち不快な気持ちになる。


「私も王に謁見した際、そのことは伝えた。だが本当に敵国と繋がっているとしたら、その男を捕らえた事をきっかけにして、争いの火種になりかねん。事を慎重に運ぶなら、我が国で大々的に手配書は出せないだろうな」


「くそ、やっぱりあの時色々吐かせるべきだったな……」


 と、自分の行動に後悔するショウヤ。


 その時だった。


「旦那様! 只今北の方角から大規模な煙が上がっているとの報告がありました!」


 突然使用人の男が二人の前へ駆け付けた。


「煙?」


「はい……その、位置的に……ショウヤ様が治める領地らしく……」


 と、言い辛そうに男はショウヤの顔を窺う。

 すると、ショウヤは血相を変えて走りだした。


「ショウヤ、待ちなさい!」


 ジェイクの言葉も聞かず、屋敷を出てから一心不乱に街道をひた走る。


 ――嘘だろ、違うよな? 冗談だろ?


 鼓動が早くなり、息継ぎを忘れる程の焦燥感に駆られ、冷や汗が止まらない体に鞭打ちただただ走った。


 その途中、ショウヤの横を一頭の馬が並走する。


「待てと言っているだろう。人の足ではどれだけ時間がかかると思っている」


 騎乗していたのは、ショウヤの後を追ってきたジェイクだった。


「乗りなさい。最短距離で向かおう」


 ジェイクが手を差し出すと、ショウヤは頷きその馬へ飛び乗る。


「村の、みんなが……ライラが……」


 後ろに乗るショウヤは不安に押し潰されそうになっており、ブツブツと独り言を呟いていた。

 やがて見えてくる複数の黒い煙に、ジェイクは深呼吸をしながら、ショウヤに告げる。


「ショウヤ、この先で何を見ても、正気を失うなよ?」


 ジェイクは念を押す。

 彼はこの光景を幾度となく見てきた。


 町が襲われた時、戦場で合戦を繰り広げた時。

 そして自分が留守の際、妻と娘を家ごと焼かれた時。


 彼は知っている。

 遠くで立ちのぼるあの煙が見えた時、そこはすでに命が消えゆく只中であると。











 そしてジェイクの予感は的中した。


 数時間前にショウヤが見た農村は、すべてが変わっていたのだ。

 煙だらけの道に、崩壊する建物、荒々しく潰された畑。

 その行く先に転がる、かつて村人だった者達。


「あ……あ、ああ……………」


 焼け焦げ、流血し、串刺しになった屍。


「ああ…………あ……なんで?」


 死屍累々。少し前まで自分に笑いかけていた村人達が、惨たらしくぞんざいに討ち捨てられている光景が続いていた。


「どうして……なんで……」


 ショウヤは馬から降り、周囲に転がる魂なき器を見やる。


 老若男女問わず、村人達もウィンラテルの避難民達も、皆等しく望まれない死を遂げていた。

 中には見せしめなのか、縄で縛られ磔にされた死体も複数目に映り。


 ショウヤはその場で嘔吐した。


「がはっ、ごほっ……うぅ……」


 それでも現実は逃がしてくれず、飽く事無く己にその惨状を見せつけてくるのだ。


「ショウヤ……」


 彼の傷心する姿を心配し、そっと肩に手を添えるが、反応はなく。


「これはおそらく……お前の留守を狙った襲撃だろう。とするなら、お前の強さを知っての事。そしてこの跡を見るに、どこかの国から派遣された軍隊……」


 だが、ショウヤにその言葉は耳に入らず。


「はっ! ライラ!」


 そして思い出したように、ライラが待つ我が家へ駆け出した。


 ――頼む、頼む、無事でいてくれ!


 心の中で何度も願い、張り裂ける思いで崩壊した家の扉を蹴り飛ばし中へ入った。


「ライラ! いるか? いたら返事をしろ!」


 家中をくまなく探すが、彼女の姿は見えず。


「なあ、生きてるんだろ? なあ、なあって!」


 何度叫べど声は返ってこない。


「くそ……なんで、なんで……」


 やがて力が抜けたように家から出ると。



「…………ああ」


 風が舞い、煙で良く見えなかった視界がクリアになり。

 家を出た先で見えたものに愕然とした。


「……ライ……ラ」


 そこには、子供を庇うように覆い被さったライラが、複数の刃で貫かれた光景が目に映った。


 プルプルと震える体をよたつかせ、彼女の元まで近寄り。

 瞳孔が開いたままピクリとも動かない彼女と子供を抱きしめた。


「ううぅ……ライラ……みんな……」


 無駄と知りつつも治癒魔法をかけるが、結果は変わらず。


 血が出るほど唇を噛み締め、行き場のない怒りが頭の芯まで湧き上がる。

 それは魔力と共に村中へ響き渡る咆哮となり、ショウヤは腹から叫んだ。



「ああああああああああああああああ!!」



 澄んだ心はどす黒く塗り潰され、悲しみは怒りへと変換される。


 ここが彼の分岐点。


 平穏を望んだ彼が復讐心に飲まれ、修羅へと変わる瞬間だった。





ご覧頂き有難うございます。


明日、明後日は休載致します。

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