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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
幕間【2】 新人転生者の激情
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74話 画策する者、幸福を抱く者


 とある町で。


『コルデューク、聞こえるか?』


 活気沸く闘技場コロシアムの特等席で、コルデュークは葡萄酒を片手に男の念話に応える。


『あ? なんだよ、今いいとこなんだから邪魔すんじゃねえよ』


 中央の広間には、巨大な魔獣と剣闘士と思われる男が対峙し、今まさに一戦を交えようとしている最中である。


『アルベルトが死んだ。つい先日のことだ』


 すると、グラスに口をつけようとしたコルデュークの手がピタリと止まる。


『おい、マジかよ。あのじいさん、不死身じゃねえのか?』


『アルベルトが死を迎えた時、お前も近くにいたようだが?』


 そしてコルデュークは先日のことを思い出す。

 彼の家は半壊しており、その姿は見えず。

 事情は知らずとも、何やら妖精達と揉めていたということを。


『まさかアルベルトを見殺しにしたわけではないだろうな?』


『おいおい俺を疑ってんのか? たしかに直近でじいさんの家に向かったのは俺だけどよ~、ただ薬を受け取りに来ただぜ? そしてその時はすでに家が荒らされていた後だった』


 と、男の疑心暗鬼に弁解をするコルデューク。


『何故そのことを私に報告しなかった?』


『じいさんが死ぬだなんて微塵も思ってなかったからだよ。それにあんただって謎のJPS機能みたいなスキルで俺らを監視してるだろう? 人に罪を着せるより、あんたが真っ先に気づいて事態の収束に努めるべきだったんじゃねえのか? なあ、オールドワン』


 念話の相手は転生者を統率する者、オールドワンからだった。


『俺はこれでもあんたに言われたタスクはこなしているつもりだ。命令されてもいねえ事柄を強要されても知ったこっちゃねえんだよ』


 と、強めに言い放ちながら葡萄酒を一気にあおる。


 そんな時、闘技場の中央では魔獣の攻撃を受けた剣闘士がその場に倒れ、一瞬でケリがつく光景が映された。


「くあ~マジかよ! 大穴狙いで人間側に賭けてたのによ~。一噛みで呆気なく死にやがって、クソ弱ぇ野郎だな!」


 歓声とブーイングが入り交じる中、オールドワンそっちのけで盛り上がるコルデュークに、念話越しに溜息が聞こえた。


『……お前は本当に自由だな』


『くひひ、命令以外は自由に生きていいと言ったのはあんただろうに』


『呑気な奴め。……もう一つ悪い報告がある。アルベルトが確保していた魔鉱石を取られ、セシルグニムに献上されたようだ』


『ほう、それで?』


『それによりセシルグニムのマナ枯渇問題が解消され、崩落の期日がまた遠のいた』


『くひひ、そいつは残念だったな』


 愉快そうに念話を聞き、再びグラスに葡萄酒を注ぐ。


『笑い事ではないぞ。他世界と空間を繋げる我らの目的が延期になるのだから。お前も元の世界に帰る時期が遅くなるぞ』


『はっ、俺は他の奴らと違って別に帰りたいとは思ってねえよ。秩序に守られたクソつまんねえ世界より、リアリティのあるゲームの世界のほうが断然面白いからな』


 と、軽く受け流す。


『まだこの世界を現実だと受け入れていないのか? ここはお前の言う作り物の世界じゃない。お前は元の世界で死を迎え、新たに転生したのだ』


『ひひ、お前らはな。俺は違う、死んでねえよ。この世界によく似たMMOの中に入り込んだんだ。お前らと違って選ばれたんだよ。あんたの言う地母神様にな』


 まるで聞く気のないコルデュークに、オールドワンは反論を諦めた。


『だがまあ、安心しな。セシルグニムの件についてはあんたに言われるまでもなく手を打ってあるぜ?』


『どういうことだ?』


 コルデュークはニタリと笑みを浮かべる。


『なあに、この間あんたらの誘いを断った新入りに手伝ってもらうのさ。そのお膳立てをしておいたよ』


『タケバ・ショウヤのことか?』


『ああそうとも。きっと自ら進んで協力してくれるだろうぜ。あいつは正義感が強いからな』


 さんざめく周囲の中、不敵に笑うコルデュークは念話を断ち切り、次の試合を心待ちにしていた。












 同時刻、とある国の離れた農村にて。


「ショウヤ様、見て下さい。こんなに立派なトマトが実りましたよ」


 ショウヤの付き人、ライラは畑に実ったトマトを手に、満面の笑みで呼びかける。


「うん、もう収穫していい頃合いだな。みんなが頑張ってくれたおかげだよ」


 と、農作業をする皆に労いの言葉を加えるショウヤ。


「何言ってるんですか、領主様の知恵のおかげでしょうに」

「そうですよ、私達だけではここまで作物も育てることは出来ませんでした」


 村人は逆に、ショウヤに敬意を称して礼を述べるのだ。


 ウィンラテルからの避難民を養う為に、今まで以上に作物の自給率を上げる努力をしてきた。

 その甲斐あって、ようやく彼らの飢えを凌げるくらいには収穫量が上がり、品質も上等なものへの改良に成功する。


 ――いや~前世で農業の知識を知ってて良かった~。まさかこんなところで役立つとはね。


 と、ショウヤは実家にいた頃の野菜畑を思い出し、しみじみ心の中で呟く。


 ――親父に感謝だな。あと母さんにも。


 そして次第にホームシックになる。


 ――元気かな、二人共。数少ない学友は何してるだろうか。


 平凡な日々に退屈していたはずなのに、気が付けばあの頃が輝かしく思う。


 同時に、未だ記憶が蘇らない自分の死因が気になった。

 どういう経緯で自分は死に、どうやってこの世界に来たのか。

 その理由はまだ分らぬまま。


「ショウヤ様? いかがされました?」


 そんなことを考えていると、ライラが不思議そうに尋ねてきた。


「……いや、なんでもないよ。たまに、家族に手紙でも送りたいなって思っただけ。今の暮らしも悪くないぞって、俺は元気に生活してるぞって、みんなに伝えられたらいいなと思ってさ」


 けれど次元を超えた場所にいるショウヤにその術はなく。

 彼の思いは決して届かない。


 それでも彼は前向きに生きていこうと決めた。


 温かく人情味のある村人に囲まれ、気の良い貴族に助力してもらい。

 自分を慕ってくれる彼女がいる。


 ――大丈夫、大丈夫。俺はここで生きていくんだ。みんなと一緒に。


 様々な人に支えられここまでやってきた。

 そんな彼らの優しさを噛みしめ、先の不安を振り払う。


 そう思っていた時。



「領主様、ここにいらっしゃいましたか」



 奥から訪ねてきたのは、見慣れない男性。

 おそらくは町のほうからやって来た者だとショウヤは思う。


「どうかされましたか?」


「ええ、私は公爵様に使いを頼まれた者でして。あなた様をお迎えに上がった次第でございます」


「ジェイクさんが?」


 手紙も寄越さず、何事だろうと思いながら。


「分かりました。わざわざ使いを出すくらいだから急用なんでしょう? すぐに向かいますよ」


「助かります。ささ、こちらへ」


 と、男は荷馬車へ案内する。


「そういうわけだから、ちょっと出かけてくるよ。ライラ、留守番よろしくな」


「かしこまりました。お早いお戻りを期待しています」


 そう笑いかけるライラに胸が熱くなり、なるべく早く帰ろうと心に誓う。




 それが悲劇の前兆だとは、その時ショウヤは知る由もなかった。





ご覧頂き有難うございます。


もう二話ほど続く予定です。

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