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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第二章 妖精達の楽園、アルマパトリア編
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73話 懐かしき魔導飛行船


 昼過ぎ、ハルチェット家の屋敷に来客が訪れる。


「はい、どちら様でしょうか?」


「え~と、フリングホルンの運送ギルドに所属する、船長代理のメティアです」


「はあ……」


 面倒くさそうに挨拶を交わす訪問者に、応対するメイドはキョトンとしながらメティアを見つめる。


 ――黒エルフ? それに飛行士がわざわざ屋敷へ訪ねてくるなんて、何の用かしら?


 そんな疑問に駆られながら。


「リミナ・ハルチェットさんの家で間違いないですか?」


「はいそうですが、お嬢様とお知り合いで?」


「ええ、一度仕事をご一緒した仲です。……あと、リミナさんの連れで黒髪の獣人がいると思うのですが……」


 するとメイドはピンときたように瞼を広げた。


「ああっ、ポロ様でしたら客室でご就寝なされておりますよ」


「ぐっ、あいつ……」


 メイドの言葉に不機嫌な表情を浮かべるメティア。


「ちょっと案内してもらえます? 叩き起こすので」


 そして拳を鳴らしながらズカズカと玄関をまたぐ。


「え、あの……お客様?」


 怒気に満ちた黒エルフの侵入にメイドが困惑していると。


「んん……あれ? あなたたしか、メティア?」


 寝起き様に目を擦りながら廊下を歩くリミナと鉢合わせた。


「うそ……どうしてこんなところにいるの?」


 と、驚くリミナに、メティアは深い溜息を吐く。


「久しぶりね、リミナ。実はポロに頼まれてアルマパトリアへやって来たんだけど、待ち合わせの時間になっても一向に現れないからあなたの家の住所を調べてここに来たの」


「え、ポロに呼ばれたの?」


 そんな話は聞いていないと首を傾げる。


「っと、それよりもポロのところへ案内してくれないかい?」

「ええ、こっちよ」


 そして二人でポロが眠る寝室へ向かうと。











「んむ~やわらかい」


「いけませんポロ様、そろそろ起きて下さらないと……あ、ちょっと、匂いを嗅がないで。もう、こんなところお嬢様に見られたら…………はっ!」


 起こしに来たメイドの体を抱き枕代わりに、べったりとくっつくポロの姿。


「あ……お嬢様、これは……この子が寝ぼけて……」


 無言で視線を浴びせる二人に、犠牲となったメイドの血の気が引く。

 二人は同時にポロの元へ近づき、メイドから体を引きはがす。

 そして。



「「さっさと起きろぉおおおお!」」



 息の合う同時咆哮により、瞬時にポロを叩き起こした。















「いや~昨日は徹夜だったからつい寝過ごしちゃったよ」


 完全に意識が覚醒したポロは、ご機嫌斜めな二人に構わず、笑い話で片づける。


「こっちはあんたに呼ばれて朝から空港で待機してたんだよ」


「う……ごめん」


 煙草を吐きながら威圧するメティアにたじたじになるポロ。


「あまりアタシんちのメイドに甘えっ子して疑似ハーレム作るのやめてもらえる?」


「え? そんなつもりは……いや、ごめん」


 同じく、自分の家の使用人達と戯れる姿を良く思わないリミナも不機嫌な様子でポロに訴える。


 犬耳をしおらせ縮こまるポロに、次第に怒りが静まった二人は互いに息を吐くと。


「……ともかく、私達を呼んだ理由を聞かせな」


 落ち着きを取り戻したメティアは早々に本題に入った。


「うん、リミナからセシルグニムに魔鉱石を提供してもらう予定なんだけど、純度の高い魔鉱石は旅客機じゃ検査に引っかかるでしょ? そこでメティア達に僕達をセシルグニムに送るついでに運んでもらおうと思って」


 するとリミナはポロに問う。


「え~、それじゃあアタシが買った小型機はどうするの? メティア達に運んでもらうなら用済みじゃない」


「うん、だからだよ。帰りもあれで帰るのがたまらなく嫌だったからメティア達に手紙を送ったんだ」


「え、目がマジじゃん。そんなに運転苦痛だった?」


「飛行士を辞めたくなるくらいには……」


 と、真剣に嫌がるポロを見て、リミナは若干ショックを受ける。

 二人の話を聞いて、メティアは煙草の煙を吐き頷いた。


「まあ事情は分かったよ。私もセシルグニムには後ろめたさがあったからね。これを機にロアルグ王の信頼を取り戻すのもいいかもね」


 そしてメティアは了承し、支度を済ませたポロとリミナを連れて空港へ向かった。











 空港に着くと、タロス含む馴染みのメンバーがポロを待っていた。


『遅いぞ、ポロ』


 新しくした木彫りのボディーを動かし、内蔵してある伝声の魔道具でタロスはポロをたしなめる。


「ごめんって。さっきメティアにも散々言われたよ~」


 と、うんざり顔を浮かべるポロだが、懐かしの船員達を見ながら少し嬉しく思う。


 そんな彼らの再開を横目に、リミナは見送りに来たエスカ、そしてアニス、ワルター、シルキーと最後の挨拶を交わしていた。

 するとワルターは小包を取り出しリミナに渡す。


「リミナ、俺からの選別だ。受け取れ」

「……これは」


 包みを開けると、中に入っていたのは新品の携帯式ハルバード。


「森で生成された魔鉱石を埋め込んだ特注品だ。魔力の伝導率が良く扱い易い。冒険家を続けるなら危険も付きまとうだろう。持っていけ」


「ワルター……ありがとう」


 リミナは大事そうにハルバードを握ると、アニスも小さな木箱を渡す。


「わらわはこれを渡そう。体内の魔力が尽きた時、一時的に魔力回復を促す指輪だ。元々の魔力が低いお前には必要だろう」


 箱を開けると、リミナの指のサイズに合わせて作られたリングが入っていた。


「アニス様……」


 嬉しそうに指にはめ、深々と頭を下げるリミナ。


「ではその流れでワタクシからは、動き易く柔軟で、なおかつ見た目も可愛いこのメイド服を……」


「それはいらない」


「せめて受け取って下さいまし!」


 シルキーからの品は、あからさまな虚無の表情で拒否した。










 そして旅立ちの時、リミナはエスカと最後に目が合うと。


「リミナ、無理しないでいつでも帰ってきなさい。あなたの家は、いつだってこの町にあるのだから」


 いつの間にか立派に成長した娘を嬉しく思い、しかし半分寂しいような憂いを残し。

 エスカは優しく手を振るのだ。


 母親へのわだかまりが消えたリミナもまた、その手を振り返す。


「うん、必ず帰るから、母様も元気で!」




 そして、タロスは魔導飛行船を離陸させた。

 彼らと共に、膨大な魔力が詰まった『紅炎石』を手土産として積み。


 セシルグニムへ向けて飛び立った。





ご覧頂き有難うございます。


今回で第二章は完結となり、次回から数話ほど幕間を挟みます。

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