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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第二章 妖精達の楽園、アルマパトリア編
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72話 浴場にて決意を新たに



 地平線から薄っすらと日が昇り始める時間帯。

 リミナとポロが屋敷へ戻ると、玄関の前にエスカが立っていた。


「……母様? ずっと待ってたの?」


「ずっとじゃないわ。たまたま外の様子を見に来ただけよ」


 そう冷たく返すと、エスカの後ろからひょっこりとシルキーが顔を出す。


「ご冗談を。小一時間はこうして家の前をウロウロしていらっしゃったではありませんか」


「シルキー!」


 そして心配している様を暴露するのだ。

 ごまかすように視線を逸らすエスカを見ながら、リミナは小さく頷き。


「心配かけてごめんなさい、母様。……もう一度、アタシの話に付き合ってくれる?」


 吹っ切れたように、リミナはエスカに頼んだ。


「……ええ、もちろん。そのつもりで待っていたのだから」


 そしてエスカも頷き、二人は応接間へ向かう中。

 ポロはあくびをしながら近くにいたメイドに声をかける。


「ふぁあ~……さすがに僕は寝ようかな。お姉さん、どこか仮眠出来る場所ある?」


「はい、寝室のベッドメイクは済ませてありますのでいつでもご就寝なられますよ」


「ありがとう。あと、お風呂も借りていい? 泥ついちゃったから」


「かしこまりました。ご希望であれば私共がお体を流して差し上げますが?」


「あ、ホント? お願いしま~す」


 などという会話が耳に入り、これから大事な話をしようという時に気がそっちへ向いてしまうリミナ。

 そんな彼女の様子を横目で見るシルキーは、そっと耳打ちした。


「どうせなら獣人ちゃんとご一緒に入浴されては?」

「っっ?! 何言い出すのよバカ! バーカ!」


 突然の冗談に、リミナは動揺しながら罵声を浴びせる。


 すると、前方を歩くエスカも微笑を浮かべ。


「私は別に構わないわよ? あの子と仲を深めてきても。あなたもそろそろ身を固めてもいい年頃だし、ポロちゃんが婿に来てくれるなら憂いはないわ」


 シルキーに乗っかる形でリミナをからかう。


「母様まで……はっ! ポロをダシに使ってアタシに実家を継がせようったってそうはいかないわよ! アタシの答えはもう決まってるんだから」


 と、母の策略に飲まれまいと抵抗するリミナ。

 しかし、その反発する娘を見ながら、いつになく穏やかな笑顔を向ける。


「知っているわ。きっとあなたは私の意思なんて汲んでくれない。自分の生きたいように生きるのでしょう?」


 皮肉じみた言い方だが、どこかそれは優しげで。


「でもね、娘の行く末を心配くらいはしても構わないでしょ? あなたは、私が初めて生んだ、世界で一番の宝物なんだから」


 笑いかけながら告げるその言葉に、リミナは目を大きく見開いた。


 いつからか自分に愛情表現をしなくなった母親が見せた、忘れかけていた慈愛の目。

 幼き頃、父と共に向けられていた、不安や恐怖を払ってくれる安堵の目。


 そんな過去をふと思い出し、リミナは俯いた。

 泣き出しそうになる顔を見られないように、平静を装いながら。











 しばらく経った頃、大浴場にて。


「ふぃ~極楽極楽」


 体を洗い終えたポロは、メイド達に囲まれ心地良さそうな表情で湯船に浸かっていた。


「ふふ、可愛らしいお顔」

「お湯加減はいかがですか?」

「ポロ様、お飲み物をどうぞ」


 至れり尽くせり献身的にポロの世話をする中。

 突然、ガラガラと浴場の扉が開かれる音がした。


「えっ、お嬢様?」


 現れたのは、一糸纏わぬ姿でズカズカと歩み寄るリミナ。

 そして親指を背面の入り口へ突き立て。


「全員、解散」


「は、はいっ!」


 口数少なく、しかし異様な威圧感を察したメイド達は恐怖を感じ、そそくさと浴場から去っていった。


 そして軽く息を吐きながら、リミナは何も言わず体を洗い始める。

 彼女の姿に、ポロは耳をピョコピョコ動かしながら首を傾げた。


「おかえり。おばさんと話はついたの?」


「まあね。快く……とはいかなかったけど、これまで通り冒険家を続けられるわ」


 その言葉にポロは「よかったね」と一言。


 リミナは桶のお湯で石鹸の泡を流し切ると、湯の温度を確かめるようにそっと湯船に足を入れた。


「となり、いい?」

「どうぞ」


 そして二人は横並びで湯に浸かると、リミナのほうから話を切り出した。


「……ポロ、今回の件諸々含めて、ありがとね」


「どうしたの急に」


「『黒龍の巣穴』攻略の時もそうだけど、またポロに助けられたから」


「今回はリミナのおかげでしょ。僕が貢献したのは行きの小型機操縦くらいで」


「だから諸々。それから、母様を説得してくれたって聞いたから」


 ポロは再び首を傾げる。


「ん? 別に説得はしてないと思うけど……」


「あんたはそう思っていても、母様には響いたってさ。あと、アルベルトとの契約も破棄になったから『紅炎石』を持って行ってもいいって」


 微笑を浮かべながら、嬉しそうに告げた。


「そっか。でも本当に良かったの? お父さんの形見なんでしょ?」


「いいの。アルミスの助けになるなら。それにセシルグニムに恩を売っておいて悪いことはないしね。そこら辺は母様とも意見が一致したから了承を得たんだけど」


 と、自慢気に話すリミナ。


「これで国に貸しを作れば、魔鉱石回収作戦の失態を払拭出来るでしょ?」


「抜け目ないな~。回収失敗したのがそんなに悔しかったの?」


「ええ、とっても悔しい。だってアタシは、Sランクの冒険家だもの」


 負けず嫌いな彼女は、己の不甲斐なさを笑う。

 小さなプライドをかなぐり捨てて、フラットに気持ちを一新させた。


「アタシにはまだやらなくちゃならないことが沢山ある」


 セシルグニムの崩落阻止、転生者との戦い、並の冒険家が手に負えない高難度クエスト。

 すべては彼女が決めた使命。


「だから、ここで立ち止まってる場合じゃないのよ」


 自分にはまだ出来ることがあるのだと、前向きに生きようと決めた。

 いつかすべてが片付いた時、胸を張って再びここへ戻ってこれるように。


 帰るべき場所を、彼女は思い出したから。





ご覧頂き有難うございます。


次回で第二章は完結となります。

その後、幕間を数話挟み第三章へ突入する予定です。

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