70話 戦いの後に
場面は戻り、『紅の祠』周辺にて。
アルベルトの霊魂へ黙祷を捧げるポロに、リミナは複雑な表情を浮かべた。
「アタシは同情しないからね。その男はアニス様達を巻き込んだんだから」
「うん、僕も同情はしてないよ。これがおじいさんの望んだ事なら、せめて霊魂は弔ってあげたいと思っただけ」
浄化を終えたポロは、リミナに優しく笑いかける。
「……ねえ、アニス様は本当に生きていると思う? ワルターは? シルキーは?」
「それは分からないけど、おじいさんは大した理由もなく人を殺めたりはしないと思うんだ。多分根っからの悪人じゃない」
「アタシ達に魔物を仕向けた時点で悪意あるでしょ。それに、目の前でシルキーはやられたのよ? もし死んでいたら……アタシ……」
と、先程の光景を思い出すリミナは再び暗い表情を浮かべるが。
その時、突然上空から人影が舞い降りてきた。
「あら、ワタクシの事を心配して下さったのですか? リミナ」
羽根を広げながらリミナの元へ降り立つは、白いドレスを身に纏う妖精、シルキーの姿。
急な彼女の登場に、リミナは唖然とした顔を浮かべる。
「シ……ルキー?」
「ええ、あなたの恩人、シルキーですよ」
クスクスと笑いながら、シルキーはリミナの頭を撫でた。
「アルベルトを討ったのですね。さすがはワタクシの一番弟子でございますわ」
「いや……あんたの弟子ではないけど……」
ポカンとしながらも、そこは訂正を加えるリミナ。
「そうだ、アニス様とワルターは?」
「ご心配なく、先程ワルターから連絡がありました。生きてますよ。お二人共」
その言葉に、リミナは心から安堵した。
「どうやらワタクシ同様、お二人の怪我を治療した後に去って行ったそうです」
「治療? アルベルトが?」
「ええ、ワタクシなんて片腕を吹っ飛ばされましたが、見ての通り、上位の治癒魔法をかけられ見事にくっつきましたわ」
にわかに信じ難い話だと思いつつも、ポロの『悪人じゃない』という言葉が蘇り、面白くないといった表情を見せる。
するととなりのポロはリミナをじっと見つめ、「ねっ?」と承認を問い。
そんなポロの勝ち誇ったような表情に、リミナは「ふん!」と視線を逸らした。
「危害を加えたのは事実でしょ。それにあの男も転生者なら、今後もアタシ達の前に現れる可能性があったかも知れない。後悔はしないわよ」
「うん、それでいいと思うよ」
そんなやり取りをする中。
「リミナ、それからシルキーも」
エスカは双方を見やり、重苦しい表情を向けた。
「……詳しく聞かせてくれるわね?」
「……ええ、母様」
そして軽く息を吐くと、エスカは二人に背を向け入口のほうへ歩き出す。
「一度家に戻りましょう。獣人の子もいらっしゃい」
エスカにいざなわれ、一同は屋敷へ向かった。
客間にて、リミナはシルキーと共にこれまでの事情を話す。
エスカは度々頷きながら、静かに話を聞いていた。
そして一段落つくと、エスカは溜息を吐きながら口を開く。
「……転生者、ねえ。それにあなた達は狙われているの?」
「そうみたい。セシルグニムから世界中に手配書を配ってはいるけど、そうそう捕まるような奴らじゃないわ。それに、何人いるのかも分からない」
リミナがそう返すと、エスカは頭を抱えながら愚痴を漏らし。
「……急に家を飛び出したかと思えばいつの間にか冒険家になって、そしてよく分からない組織に狙われているなんて」
そしてリミナにきっぱりと言うのだ。
「リミナ、これで懲りたでしょ? もう冒険家なんかやめて、今からでも私の仕事を覚えなさい」
「っっ! なんでそうなるのよ! アタシは領主になんかならないから!」
「あなたが継がなければ、あの人が築いてきた屋敷を売り払う事になるのよ?」
と、父の話を出されリミナは押し黙る。
「これからは危ない仕事なんてやらなくていいの。冒険家なんてお金に余裕のない人達が一攫千金を夢見てやる職業なんだから、あなたがやる必要はないわ」
その言葉にリミナは反論した。
「どうして冒険家を否定するの? 父様だって昔は名のある冒険家だったんでしょ? 母様はそんな父様に惹かれて結婚したんじゃないの?」
「ええそうよ。けれどそれはそれ。あなたはもっと損得を考えて行動なさい。女であるあなたが、領主の娘に生まれたあなたが、わざわざ危険を伴う仕事をするべきではないと言っているの」
冷静に論破するエスカに、リミナは歯を食いしばりながら部屋を出て行く。
「女だから何よ! アタシは父様のような冒険家になるの!」
「リミナっ、待ちなさい!」
エスカの声も聞かず、リミナは外へ駆けだしていった。
彼女のいなくなった部屋で、気まずい空気が漂う中、エスカは力が抜けたようにストンと椅子に腰かける。
「……どうしてあの子と話すと、いつも喧嘩ばかりしちゃうのかしらね。私はただ、あの子に幸せになってほしいだけなのに」
と、溜息を漏らすエスカに、取り残されたポロが近づく。
「おばさんは、リミナのことを大事に思っているんだね」
「当然よ、私の娘だもの。けど、あの子を前にすると本音が言えないのよね」
クスリと、疲れたように笑うエスカ。
そんな彼女に、ポロは諭すように言った。
「リミナもね、きっと自分の為に冒険家を続けているんじゃないかな。自分の答えを見つける為に広い世界を旅して、お父さんの背中を追いかけているんじゃないかな」
リミナの行動原理を鑑みて、ポロはそう仮説を立てる。
「だからそれは、リミナにとっての幸せなんじゃないかなって」
そして、リミナに続いてポロも部屋を出てゆく。
「リミナを連れてくるね。せっかくの家族なんだし、喧嘩で終わるのは後味悪いでしょ」
親の顔を知らないポロは、予想でしかものを言えない。
けれど、義姉から教わった記憶から、家族はかけがえのないものだと知っている。
だからこそポロは他人事ではなく、リミナとエスカに共感するのだ。
リミナの匂いを頼りに、ポロは彼女を連れ戻しに屋敷を出た。
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もう数話で第二章が完結し、幕間を挟んだ後三章に突入します。宜しければお付き合い下さい。
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