69話 留守中の来訪者
ポロ達が離れの森にて激戦を繰り広げる間。
アルベルトが不在のコテージに、ある男はやって来た。
「あ? 家がボロボロじゃねえか」
天井が突き破れ、壁の至る所が穴だらけの半壊した建物を見ながらぼそりと呟く。
「お~い、じいさん、いるか?」
呼びかけても姿は見えず。
しかし、ふと周囲に漂うわずかな気配を察知した男はニヤリと笑い。
「くひひ、誰かいるなぁ~、この森の警備兵か何かか?」
姿を見せないその者へ問いかける。
すると、突如男の頬をかするように投げ槍が飛んできた。
頬を伝う血を拭いながら、男は槍が飛んできた方向を見やる。
「いってぇな、脅しのつもりかよ、ええ? おい。バレバレだから出てきな、三下」
嘲笑しながら向ける言葉に、もはや奇襲は無駄だと判断し、柱に隠れていたエルフの男、ワルターが槍を構えながら姿を現した。
「は~、エルフか。人族が妖精族の守り人をやってんのかい。あれ? そういやゲームによってはエルフも妖精族として括られてたっけ?」
自問自答しながら考える男に、ワルターは問う。
「貴様は何者だ? アルベルトの仲間なら、奴の素性について話してもらおう」
槍の切っ先を突きつけ、ここに来た理由を問うワルター。
すると、男は鼻で笑いながら目の前のエルフに返答した。
「俺はコルデューク、アルベルトのじいさんとはただの取引先の間柄だよ。ここへは薬を買い取りに来ただけさ」
「……違法の薬物か?」
ワルターは疑いの目を向け問う。
「くひひ、何故そう思う?」
「先程アルベルトに我らの領主が襲われてな、植物を魔物に変える薬を生成していることが明らかになった。貴様も関係者なら当然知っているのだろう?」
「なんだよ、あのじいさん、隠す気ねえな……。大事な商売道具なのによ」
やはり、と、ワルターは目の前の男を警戒する。
「貴様……」
「あ~一々構えるな面倒くせえ。お前らに危害が及ぶことじゃねえんだから目を瞑れよ。じいさんの所存は知らねえが、とりあえず目的の品だけ取ったら俺は消えるからよ」
そう言って、コルデュークは部屋の奥にある棚から袋に詰まった薬草とポーションを手に取り、手の平サイズの【空間の扉】を開きそれをしまう。
「金は……まあ後日でいいか。そんじゃあな」
そして早々に立ち去ろうとした時。
「待て、その薬の効果を教えろ」
ワルターはコルデュークを静止させた。
「あ? そりゃ色々あるけど。回復薬に爆薬、活性剤に腐蝕薬なんてものもあるぜ」
すると、コルデュークは考える素振りを見せ。
「特に腐蝕薬の効果は絶大だ。たった一本の木に振りかけるだけであっという間に周囲へ感染し、数日もあればこの森は草木の死んだ荒れ地へ変わるだろうぜ」
面白気にワルターを煽る。
「くひひ、それも良いな。居場所を失った妖精達を片っ端から奴隷商人に売り飛ばせば良い金になる」
「……それ以上ふざけた発言をすると、貴様の首が飛ぶぞ?」
「お~やってみろクソザコエルフ。脇役のNPC如きが俺を止められるならな」
と、小馬鹿にしたようにワルターへ返した。
その時。
突如床から血だまりが沸き上がると、中からアニスが現れる。
「ならばわらわが止めて見せよう」
「あ?」
そう言って、アニスはコルデュークの首元に噛みついた。
吸血による、強力な体力吸収でみるみるコルデュークの体力を奪ってゆく。
「うお……お前、吸血鬼か?」
足元から崩れるコルデュークの首元から口を離すと。
「鬼にあらず。わらわはこの森を取り仕切る妖精だ」
膝をつくコルデュークに手の平を向け、魔法スキルを放つ動作をとる。
「貴様が裏稼業で金を稼く分には咎めん。だが、この森に害を成すというのならば、貴様を生きては帰さんぞ」
おかしな行動を取れば即座に消す。
そんな脅しを込めて、手の平に魔力を集中させた。
「くっひひ、だからやってみろっての。俺にとっちゃこの世界すべてが遊び場だ。お前ら妖精族も人族も、等しく俺の玩具なんだよ。どうしようと俺の勝手だろうが」
話にならない。と、アニスは息を吐く。
「そうか、ならここで消えろ。……【鮮血の槍】!」
そして突如手の平から出した鮮血は槍の形を模し、アニスはコルデュークへ向け血の槍を放つ。
頭蓋骨を貫通させると、コルデュークはそのまま人形のように動かなくなり、その場に倒れた。
「……アニス様」
「ああ、何を考えているかわからん男だったが、このまま野放しにしておくのは危険だと判断した。ここで殺っておいて正解だろう」
得体の知れない不気味さを感じたアニスは、何者なのかという疑問を抱きながらコルデュークの死体を見やる。
「ともかく、この男がアルベルトと繋がっている以上、こちらも見逃すわけにはいくまい。後の事を考え、こやつが関わっている組織を調べる必要があるな」
すると、ワルターはふと思う。
「それにしても、何故アルベルトは突然我々に治癒魔法をかけ去って行ったのでしょうか。先程シルキーからも念話が届きましたが、同じく瀕死の状態だった彼女を手当てしリミナの元へ向かったとのことです」
アニスは瞳を閉じ、自身の憶測を語った。
「その気になれば、わらわもお前も容易く屠られていただろうが、あの男からは殺気を感じなかった。それに……自ら死を望んでいた節がある」
「それで我々を挑発していた、ということですか」
「真意は分からぬがな。……まあ良い、今はシルキーと合流し、リミナの元へ急ぐぞ」
そう言って、二人は部屋から出ようとした時。
「なんだ、あのじいさん、相変わらずの死にたがりかよ」
ゾクリと背筋に悪寒が走り、二人は同時に背後を振り返ると。
ほんの数分前まで屍だったはずのコルデュークは、何事もなかったかのようにその場に立っていた。
「な……貴様、何故?」
たしかに脳漿を射抜いた顔面には傷一つなく、二人の驚愕した反応を愉快気に見る男は。
「くひひ、【自動復活】を持ってるからよ。一度や二度死んだくらいじゃ倒れねえぜ、俺は」
嘲るように笑いながら二人の横を素通りしてゆく。
「まあアレだ、ゲームの主人公ってのは大概不死身だからよ。お前らの微々たる力なんざ暇潰しにもならねえんだわ。あ~、ゲームのくだりはお前らには通じないか」
と言いながら、去り際にコルデュークは指先をクイっと上げ。
「【無数の柱】」
地中から幾本もの石柱を生み出し、突き出ては潜る不規則な柱を叩きつけ、二人を滅多打ちにした。
「安心しな、マナの宝庫である『妖精の森』を枯らしたりはしねえし、お前らの命までは取らねえよ。いつかアルマパトリアを支配する際に、この森もお前らの顔も役に立ちそうだからな」
そして気絶する二人を見ながら、男はそのまま去って行く。
――じいさんの薬は手に入ったし、これからどうすっかな。……アスピドの海底研究所へ行くか、生意気な新米転生者に一泡吹かせるか……。
今後の予定に胸を膨らませながら、男は【空間の扉】で姿を晦ました。
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