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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第二章 妖精達の楽園、アルマパトリア編
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67話 アルベルト戦、決着


「不憫ですな。ご自分の娘さんのせいでアニス様が亡くなり、私と交わした魔鉱石所有権の契約も……もはやアニス様を殺めた元凶と何食わぬ顔でビジネスをする気など起きますまい。あなたの立場であるならば……」


 と、エスカに向けて、娘を責めるアルベルト。

 するとリミナは「ふざけんな!」と二人の間に横槍を入れる。


「そもそもあんたから仕掛けたんでしょうが! アタシを陥れる為に、罪もない妖精達を殺めたあんたを、アタシは絶対許さない!」


 そうアルベルトに反論すると。


「黙ってなさい、リミナ」


 エスカは娘の横槍を静止させた。

 そしてエスカは静かに頷くと。


「あなたの言う通り、娘が粗相をしなければ問題は起きなかったのかもしれない。アルベルトさんも事を荒立てる気もなかったでしょう」


「母様!」


 アルベルトを肯定するエスカに、自分を認めてくれない母に、リミナは歯を食いしばり悔しい気持ちが湧き出る。


 だが続けて彼女は言った。


「けどね、自分の娘を悪者扱いされて黙っている程、無関心ではないの」


 アルベルトに向けて、怒りを露わにしながらリミナを庇うのだった。

 意外なエスカの反応にリミナは戸惑う。


「かあ……さま?」


「この子は旦那に似て正義感の強い子なの。誰かの為に身を擲つ危なっかしい子なの。だから今も、リミナは誰かの為にここに来て、アニスの為に戦っている。そんな自分の娘を信じてあげないで、母親は名乗れない」


 そしてエスカは胸元から拳銃を取り出し、彼女に取り巻く兵士に命令する。


「全員構え! その罪人を捕らえなさい」


 一同はアルベルトへ槍を向け、彼を包囲する。

 その姿にリミナは呆気にとられながらも、自分を見てくれていた母親に、嬉しいようなこそばゆいような、自分でもよく分からない感情がこみ上げた。


 全員に囲まれた当のアルベルトは、アゴ髭を擦りながら周囲を窺い。


「ふむ……これは多勢に無勢。絶対絶命ですな。では、私も抵抗させて頂きます」


 そう言うと、再び『重荷石』による重力負荷を周りの全員にかけた。


 突然の圧迫にエスカと兵士達は何が起きたかも分からず地面に倒れ込む。


「がっ……これは!」

「動けない……!」


 必死にもがく兵士達を横目に、ポロはアルベルトを見やる。


「おじいさん……そうまでして」


 どうして悪者を気取るのか。

 周囲を煽ってまで皆を殺気立たせ、敵意を一点に集中させるアルベルト。


 それが彼の願いなのか。

 上の者に命令されるがまま、逆らうことは許されず、逃げることも出来ないのだろうか。


 そんなことを思い、ポロは死に急ぐ彼を憂いた。


「さあ、全力でかかって来なさい。私はあなた方の敵ですからな」


 その言葉の全てに、勝とうという意思が感じられず。

 まるで自分を討ってくれと言わんばかりの救難信号に見えた。


 するとポロは重力負荷に抗いながら立ち上がり、再び武器を構え。


「……わかったよ、おじいさん。僕があなたを弔ってあげる」


 決心したようにそう言った。

 ポロの表情を見ながらアルベルトは。


「感謝致します」


 聞こえるか聞こえないかの声量で呟いた。


「ミーちゃん! おじいさんの魔力をありったけ吸収して!」


 ポロの指示に頷くと、ミーシェルは再び肌の色を黒く染め、吸収魔法を唱える。


「合点! 【吸魂の黒猫(グレイマルキン)】!」


 アルベルトの体に埋め込まれた魔鉱石の魔力をグングン吸い取ってゆくと、彼から発していた重力負荷の魔法が掻き消え、皆の身体に自由が戻った。


「【女王蜘蛛の糸(アラクネ・スレッド)】」


 その隙にポロはアラクネの力を借りて、【暗黒障壁ダークプレート】の派生技、弾力効果のある黒い蜘蛛の巣を周囲に幾つも展開させる。


 そして、ポロは糸のスプリング効果を利用し、自身を加速させながらアルベルトの周囲を飛び回った。


「ほう、これはまた曲芸のような技ですな。……まるで黒き獣」


 ポロの残像を追う度に、その影は黒々とした獣の如きシルエットが浮き出る。


「たしか……外国の伝承で『黒妖犬こくようけん』という犬がおりましたな。死の間際に訪れる妖精、もしくは死刑執行者……ふふ、まるで今の彼のようではないか」


 周囲を高速で飛ぶポロに、アルベルトは数年ぶりに笑みを浮かべた。


「君が、私を連れて行ってくれるのですかな。……結衣ゆいの元へ」


 そう呟くアルベルトの前方に、十分にスピードと闇魔法を付与したポロが接近し。

 双剣の切っ先を突き立て、弾丸のように真っ直ぐアルベルトを貫く。



「【百中犬の牙(ライラプス・ファング)】」



 音速の牙により、目で追った次の瞬間にはすでにアルベルトの胴体にくっきりと風穴が空き、彼の心臓部分である核は木っ端微塵に砕かれた。


 ミーシェルが魔力を吸収したことにより【自動反射オートカウンター】も発動せず、反撃する力も消えたアルベルト。


 しかし、未だ鉱石で出来た体は磁石のように周囲の魔鉱石を取り込み、重傷を負った体を修復しようとしている。


「…………核である『融合石』は彼に砕かれたというのに、これだけの深手を負っても、私は死ねないのか」


 自分の体を見ながら、酷く悲しそうな表情を浮かべるアルベルト。

 そんな彼に、そっとリミナは近づいた。


「いいえ、ならこれであなたは終わりよ」


 そう言って、彼女は空洞になったアルベルトの胴体に握り拳を通す。

 そして、その手を開き中から出てきたのは、小さな魔鉱石。


「さっき拾った『反引石』。魔鉱石を結合する『融合石』がない今のあなたがこれを取り込んだら、たちまちあなたの身体は吹き飛ぶわ」


 物体を引き離す効果のある『反引石』を手に、リミナは貫かれた胴にそれを置いた。


「なるほど……こういう手段もあったのですな」


「ええ……さよなら。『森の薬師』さん」


 その言葉を最後に、アルベルトの身体は破裂したように粉々に吹き飛んだ。




 今際の際で、彼は穏やかな表情を浮かべる。

 それが、長い呪縛からようやく解き放たれた男の最期だった。





ご覧頂き有難うございます。


明日、明後日は休載致します。

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