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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第二章 妖精達の楽園、アルマパトリア編
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64話 VSアルベルト【1】


 リミナは携帯式ハルバードの柄を伸ばし、刺突の構えでアルベルトに刃を向ける。


「これは良い殺気ですな。思わず私も期待してしまう」


 しかし、怒気に満ちた彼女の殺気をものともせず、アルベルトは両手を広げ、堂々とした構えでその場に立っていた。


「では、あなたの力量を見定めて差し上げましょう。どこからでもかかってきなさい」


「余裕こいてんじゃないわよ……【突風穿ち(ガストペネトレイト)】!」


 怒りに任せた渾身の一撃は、真っ直ぐにアルベルトの腹部に命中するが。


「それは先程見ました……」


 溜息を吐くアルベルトはビクともせず。


「こんの……【爆散風ばくさんぷう】!」


 突き出した刃を引き、今度は斧部分で思い切り薙ぎ払う。

 しかし、胴にフルスイングした刃をも弾き返され、リミナはその場でよろめいた。


「軽いですな……」


 するとアルベルトは、指先をリミナに構え、熱光線を放つ。

 その直前――。


「【直下強襲ヴァーティカルレイド】」


 アルベルトの頭上から、闇魔法で生成した黒爪を構えたポロは、そのまま彼の脳天へ落下し、黒爪を叩きつける。


 倒れこそしなかったものの、その反動で光線の軌道が逸れ、リミナへの直撃は免れた。


「かったい……おじいさん、その体何で出来てるの?」


 傷一つ付かないアルベルトから距離を取り、異常な程の頑丈な体を不思議に思う。

 そんなポロの問いに、アルベルトは自身の皮膚を引っ張りながら返答した。


「この外皮は特殊な人工皮膚で作られておりましてな、熱や冷気はもちろん、防刃効果もあるのです。それに加え、この中身のほとんどは鉱石が詰まっておりますので、手加減をされた攻撃では私に傷を付けることは叶いませんよ」


 本気の一撃ではないと見抜いたアルベルトは、手加減は不要だとポロに説く。


「それじゃあ……おじいさんはゴーレムなの?」


「種族で言えばそうなりますかな。この世界へ飛ばされ、程なくしてこの体となりました」


 その言葉に、二人は同時に察した。


「あなた……まさか、転生者?」


 驚くリミナに「いかにも」と返し。


「森の薬師であり、宝石コレクターであり、そして元医者である私は、別世界より迷い込み強制労働を強いられる羽目になったしがない転生者でございます」


 己の情報を隠すことなく二人に告げた。


「お二人のことも存じ上げておりますよ。『黒龍の巣穴』元攻略部隊、ポロ・グレイブス並びにリミナ・ハルチェット」


 男の言葉で、以前戦ったオニキスとルピナスの顔が二人の脳裏に蘇る。

 おそらく彼らによって、自分達の情報が漏れたのだと予想した。


「上からの指示では、お二人の動向を探り、我々の邪魔になるようなら始末しろと仰せつかっております」


 二人は互いに警戒し、アルベルトに武器を構えた。


「けれど私は、黒龍を前にして生き残ったお二人を高く評価しているのです。ですから、子供騙しの様な攻撃はやめて、本気でかかってきなさい」


 そしてアルベルトは二人に向け、再び無防備な構えを見せる。


「あなたの真意が見えないわ。魔物をけしかけてきた時点で敵意があるのは明確だけど、アタシ達の始末が目的なら、どうして積極的に攻撃しないの? まるで戯れに興じているみたい」


 リミナの疑問に軽く息を吐きながら。


「戯れ……まあ似たようなものですな。元々この世界にあまり関心はなく、石の体になってからは感情も希薄になりました。故に、命の取り合いも興味がない。その中で唯一、私は誰かにこの命を終わらせてほしいという願いを持っていましてね、なのでこうしてあなた方にチャンスを与えているのですよ」


 無感情に、無表情に、男はあえて全ての攻撃を受け入れる。


「脳裏に刻まれた呪印により、自害出来ない身であります。ですので毎度戦う相手には、この体を砕ける者であると期待しながら戦っているのです。出来なければ私の前に立つ資格はなく、故に、見込みのない方々には早々にこの世から退場してもらっております」


 するとリミナはぎゅっとハルバードを握り。


「そんな自己満足の為に……アタシの大切な人達に危害を加えたの?」


 そして高く跳躍すると、四連の斬撃を飛ばし、アルベルトに向かって刺突を放つ。


「【四閃斬撃アスタリスクペイン】!」


 アルベルトはその全てを無傷で受け切ると、リミナはさらに大きく振り被り、追撃で巨大な斬風を放った。


「【憤慨の斬波(レイジングペイン)】!」


 大技の連撃を直撃させたリミナは、急激な体力の消耗によりその場で膝をつく。

 息を荒げながら、周囲に舞う砂塵が消えるのを確認すると……。


「今のは素晴らしい。この皮膚に傷を付けられたのは数年ぶりですよ」


 全力で放ったスキルのわりに、かすり傷程度しか与えられなかった事実にリミナは愕然とした。


 ――これだけやっても……薄皮にしか刃が通らないの?


 へたり込むリミナにわずかながら興味を示すアルベルトは、期待するように彼女へ催促する。


「さあ、遠慮なく次の手を考えなさい。可能性があるならばどんどん試してみるべきです。そして、永遠に続くこの人生を、あなたの手で終わらせて頂きたい」


 歪んだ男の懇願は、絶望的にリミナから戦意を削いでゆく。





ご覧頂き有難うございます。



私事ですが、昨日私の別作品『言ノ箱庭』が文庫大賞の一次を通ったことにささやかな喜びを感じております。

お暇でしたらご閲覧下さい。

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