61話 アラクネの助力
際限なく森の養分を吸い取り、さらにツルを伸ばし肥大してゆく植物獣。
だが、その自己修復を阻害するように、ポロ達は休みなく触手を斬り続ける。
「【螺旋の牙】」
「【突風穿ち】」
ポロとリミナの刺突により、植物獣に人間サイズの大穴を貫通させるも。
その風穴は別のツルで補強され、みるみるうちに塞がってゆく。
「【風精の廻旋】」
だが、修復が終わる前にシルキーは無数の真空の刃を放ち、補強するツルを切断。
相手に修復させる暇を与えず、三人はスキルを放ち続けた。
「はあ……はあ……少しは弱ってる?」
「半分、と言ったところでしょうか」
リミナとシルキーは未だ活発に動く触手を眺め、自身の体力と修復速度を計算する。
明らかに魔物も弱ってはいるが、このままでは相手が朽ちる前に自分達の体力が限界を迎えてしまう。
芳しくない状況の中、それでも手を止めず攻撃を続けていると。
「…………ん?」
ふと、ポロの体に異変が起きる。
ピクピクと片腕の躍動を感じ、ポロは理解した。
それはポロの中にいる思念の訴えだと。
「……久しぶりだね、アラクネ」
蜘蛛の女王たる魔人の意思が、自分を使えと意を示す。
と同時に、ポロの頭の中でスキルの名称と使い方が流れ込み、瞬く間に新技を習得した。
「ポロっ、あんた何休んでんの? もっと攻撃して!」
催促するリミナに頷くと。
「ごめん。うちの三番目の姉に怒られてさ。……泥臭い戦いは見てられないって」
「は? 何言ってんの?」
首を傾げるリミナに笑いかけ、ポロは肩に乗るミーシェルを地面に置き。
そしてそのまま武器をしまい、無防備の状態で魔物へ接近した。
「ちょっと、何やって……」
突然の行為に驚くリミナを他所に、ポロは無数に迫る触手に巻き付かれ、間髪入れずにその魔物の口の中へ飲み込まれてしまった。
「ポロっっ!」
気が動転したリミナは必死にツルを切り裂き、中にいるポロを助けようとあがくが、迫る触手と体の再生によってなかなか体内に近づけない。
「やだ……ダメダメダメダメ、戻って来て!」
やたらめったらハルバードを振り回し、外側から穴を開けようとするリミナ。
シルキーも風と炎の魔法を駆使して援護するも、中心部には到達せず。
――ご主人……。
その光景を眺めるミーシェルは、無策で捕まるポロではないと知りつつも不安は消えず、憂いた目で彼の帰りを祈った。
そんな中、植物獣の中では。
ポロは身体中雁字搦めにされながら、どれだけ体が動くのか確かめる。
「んむ、むむむ~!」
――口も塞がれて息も出来ない。それに思いの外頑丈なツルだ……。
そして普通にもがいても脱出は困難だと理解する。
――所々チクチクした棘がある。ここから養分を吸い取ってるのか。
冷静に分析しながら、魔物の生体を調べ。
――逆に好都合か……。アラクネ、力を借りるよ。
全身に魔力を付与し、巻き付くツルに伝導させた。
――【猛毒の侵食】
それは女王のもつ猛毒の体液を全身から放出させ、体内から腐蝕させていく魔法。
内側から強力な毒に侵された植物獣は、たちまち体中のツルをうねらせ暴れ回る。
外にいるリミナとシルキーも、尋常じゃない魔物の異変に気が付いた。
「……何? 急に苦しんでる」
無作為に触手を上空へ伸ばし、侵食を緩和しようともがく植物獣。
だが、その体はみるみる枯れていき、伸ばした触手は朽ちてゆく。
やがて完全に生体機能が停止すると、萎れた体の中からひょっこりポロの姿が現れた。
「ふぅ……危なかった」
目立った外傷もなく、何事もなかったように這い出るポロにリミナは安堵の息を吐いた。
「……もう、なんであんたはいつも心配かけるのよ」
そんな愚痴を漏らしながらも、目の前の脅威を退けたポロに微笑を浮かべる。
「ふむふむ、毒系統の魔法でしょうか? これ程の体躯を一瞬にして腐蝕させるとは、相当強力な毒ですね」
魔物の死骸を眺め、シルキーは自分の会得している魔法よりもはるかに強力な力を持つポロに興味を抱いた。
「それにしても、小さくお可愛らしい外見に似合わず、ずいぶんとえげつないスキルをお持ちでいらっしゃいますね」
「僕っていうか、アラクネの力だけど」
その言葉にリミナはピクリと反応した。
「アラクネ……三番目の姉ってそういうこと? あんたまだお祓い済ませてなかったの?」
怒鳴るリミナにポリポリと頭を掻きながら。
「う~ん、別に不便してないし、僕もよく力に頼ってるから。最近はエキドナとアラクネの気持ちがなんとなく分かるくらいには仲良しだよ」
細かい事は気にしないスタンスでリミナに返す。
「仲良くすんな! 魔物でしょうが!」
二人の会話についていけないシルキーはポカンとしながら聞いていると。
ふと、背後からの足音に気づき振り返る。
すると、そこには先程までコテージにいたはずのアルベルトが立っていた。
「おや、幻影魔法が解けたと思ったら……トリフィドモックを討ちましたか。見事見事」
アゴ髭を擦りながら静かに状況を窺う。
「あ……あなた、何故……アニス様は? ワルターはどうしたのです?」
すると、アルベルトはシルキーの問いに「ふむ」と呟き。
そして懐から、アニスが常に身に着けていた腕輪とワルターのピアスを取り出し、シルキーの足元へ放り投げた。
「戦利品を賜りましてな、もしあなたにとっての大事な品でしたらお返ししましょう」
いずれもその装飾品には血痕が付いており、向こうで何があったかを物語っていた。
「…………よくも、やってくれましたね……」
突如周囲の空気が重くなり、シルキーの体から膨大な魔力が沸き上がる。
その眼光から、突き刺すような殺気がにじみ出た。
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