60話 メイド妖精、シルキー
白きドレスを身に纏う妖精は、溜息交じりにリミナに告げる。
「お二人を見つけるのに苦労致しました。何せあなた方を取り囲むように、幻覚作用をもつ特殊な魔法が付与されておりましたから」
「特殊な魔法?」
リミナが問うと。
「この辺一帯に、魔法で生成された花粉が舞っております。おそらくはお二人を隔離し、他の妖精達を遠ざける目的かと……」
「っっ! さっきから道に迷ってたのはそのせいなの? じゃあこれはあの魔物の能力?」
そんなやり取りを続ける二人に、ポロは首を傾げる。
「ねえリミナ、この人は?」
「あ、そうか。え~と、シルキーはこの森の領主に仕える――」
そうリミナが言いかけると、シルキーは割って口を挟んだ。
「リミナのお友達でございます、獣人の僕ちゃん。もしくは師匠と言っても過言ではございません。この子が冒険家になる為の技術を教えてあげたのはワタクシなのですから」
得意気に話すシルキーに、リミナは全力で否定する。
「誰が師匠よ! あなたが主に教えたのは家事全般でしょうが! あのまま続けてたら冒険家になる前に家政婦になるとこだったわ!」
「あら残念、あなたのメイド服、とってもお似合いでしたのに」
「やかましいわ!」
と、冗談交じりのからかいも程々に、シルキーは下方へ目をやり、触手のように躍動させるツルに塗れた植物獣を観察する。
「……積もる話は後にして、まずはあの魔物をどうにか致しませんと」
下にいる植物獣は、動き自体に俊敏さは感じられないが、無数に生えるツルを伸ばし周辺の木々から養分を吸い取っているように見える。
ツルに巻き付かれた植物はみるみる枯れていき、対して養分を吸い取った魔物はさらに全身のツルが活性化し、肥大してゆく。
「まさか、この辺に木が生えていないのは、あの魔物が全部吸い取っているからなの?」
「そのようですね、このままだと森の生態系も狂いかねません。……あの人間、とんでもないものを作りましたね」
「あの人間って?」
ふとリミナが尋ねると。
「『森の薬師』アルベルト。先程あなた方と顔合わせをしたと聞いております。ともすれば、その後に魔物を放ったのでしょう。お二人を消す為に」
「は? あのおじいさんが?」
予想していなかった人物の名が上がり不意を打たれた。
「え、なんであの人が魔物けしかけてんの? アタシ自分でも気持ち悪いくらい猫被って礼儀正しくしたのに!」
「礼儀の問題ではなく、純粋に『紅炎石』があなた方の手に渡ってほしくないのでしょう。彼は上からの命令だと言っていたそうです。理由は存じませんが、今お二人は何らかの組織に狙われていると判断します」
「そんな…………」
リミナは青ざめた表情で蹲る。
「まあ、その話も追々……。では、あの魔物を掃討します。腕に自信が無ければその防御壁から出ないように」
そんなリミナを横目に、シルキーは掃除用のモップを取り出し、華麗に振り回しながら下にいる植物獣へ落下していった。
「【爆炎付与】【燃焼向上】」
そして落下中に自身へ『炎属性付与』と『威力向上』の魔法を唱え。
「【爆炎弾】」
粉砕する勢いで、植物獣に爆炎を纏ったモップを叩き付けた。
すると、魔物に触れた瞬間、森中に轟くほどの轟音を響かせながら派手な爆発が起きる。
「うわぁ……すごい威力」
「彼女、妖精族の中でもずば抜けて魔力が高いから……」
二人は障壁の上から若干引いた目でその光景を見つめた。
「っていうかシルキーさん大丈夫なの? 思いっきり爆炎の渦に巻き込まれてるけど」
「問題ないわ、多分自分自身にも炎耐性付与をかけてるから」
その言葉通り、爆発が静まると、燃え盛る魔物の上で平然と直立するシルキーの姿が見受けられた。
「ねっ? 魔法の扱いはそんじゃそこらの魔導士より長けてるの」
と、友人であるシルキーを鼻高々と言った表情で自慢気に話す。
だがその時。
燃焼していた魔物の体は、突然みるみるうちに消えていった。
「これは……体内にある樹液を散布して消火しているの?」
突然魔物の体から霧のようなものが噴き出し、危機を感じたシルキーは即座にその場から離れる。
「……なるほど、地上からも地中からも、無限に養分を吸収出来るなら、これくらいの火力じゃ足りないわね」
言わば森中がこの魔物の供給源。
半端な攻撃では、致命傷となる前に回復されてしまう。
「……厄介、ね」
そう呟いていると。
「【四閃斬撃】!」
「【烈波殲牙】」
上空からポロとリミナが飛び降り、それぞれ身体スキルを練り魔物へ斬撃を飛ばした。
「炎も効かないんじゃしょうがない。行くわよポロ」
「うん、ゴリ押し戦法だね」
外皮にあたるツルを幾つか斬ると、それを皮切りに、二人は息の合った連携で触手を躱しながら、ひたすら魔物を切り刻んでゆく。
シルキーはその様子を見ながら。
「いい動き、それに活き活きしてる……」
かつての、か弱い少女だったリミナの成長ぶりを感慨深く思う。
「冒険家で培った経験? それとも……あの子のおかげかしら?」
リミナと共にいるポロに目を向けながら、微笑を浮かべた。
「さて、ワタクシも加勢しないと……」
わずかに嬉しい気持ちを漏らしながら、シルキーは二人の間に加わった。
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