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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第二章 妖精達の楽園、アルマパトリア編
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59話 蔓に覆われし異形の化け物


 決死の覚悟でアルベルトと対峙するアニスとワルター。


 その間、近くで無造作に転がる『転映石』は、未だレンズの向こう側にいる二人を映していた。








 場面は戻り、レンズの先にいるポロとリミナは。


「ふう……さすがに疲れたわね」


 向かい来る食人植物を殲滅させた後、ぐったりと地面に腰を落とした。

 辺りには木片やキノコの残骸が散らばり、それらは白い煙を立てながら縮まってゆく。


「薬物の匂い……やっぱり、普通の魔物じゃないみたいね」


「うん、それに霊魂も感じられない。たしかに生物として動いていたはずなのに」


 浄化魔法を唱えるつもりであったポロだが、今の今まで生体反応を示していた魔物達からは一切の霊魂が感じられず困惑しながら。


「あと、僕こういう薬物の匂い嫌い……」


 沸き立つケミカル臭に、ポロは苦い顔を浮かべ鼻を押さえる。


「獣人にはキツイかもね。さっさとここから離れましょう」


 そうリミナが提案した時だった。


 突如、背後から突き出た植物のツルがリミナの手足に絡みつき、伸びた方向へ引きずり込まれてゆく。


「え……なっ!」

「リミナっ!」


 そのまま闇の彼方へ消えていくリミナを追いかけるポロだが。

 追加で奥から飛び出る植物のツルを回避しているうちに、どんどんリミナとの距離が離れて行った。


「くっ……!」


 向かい来るツルを双剣で切り裂き、リミナの匂いを頼りに突き進むが。

 夜目の効かない暗闇では、匂いは追えても前方の木々は見え辛く、自由に走り回ることが出来ない。


「視界が悪くて障害物がよく見えないな……」


 そう呟くと、ポロの肩に乗っているミーシェルが念話で伝えた。


『ご主人、明かりならミーシェにお任せニャ! ……【妖猫の眼光(ケット・シーライト)】』


 そう言うと、ミーシェルの瞳から閃光のような強い光が放たれ、辺りは一瞬にして真っ白な世界へ変わる。


 強烈な光に照らされた周囲は、黒いシルエットと化した木々が目立つようになり、ぼやけた視界は一気にクリアになった。


「いや光強すぎ……でもナイス、ミーちゃん」


 そのままツルが現れた方向へ向かってゆくと、ポロはその周囲だけ木々の無い開けた場所に出た。

 すると。


「っっっ!」


 そこには全身が植物のツルに覆われた異様な生物がどっしりと構えていた。


 人型にも獣にも見える四足歩行の化け物は、のべっとした顔面から大口を開け、今にも触手のようなツルで拘束したリミナを食らおうとしている。


「力を貸して! 【半人半蛇の尻尾(エキドナ・テイル)】!」


 咄嗟にポロは自身の足に闇魔法で生成した影を作り、蛇の尻尾と化した足を鞭のようにしならせ、リミナに絡みつくツルを弾いた。


 大口への直行を逸らしたポロは、その一瞬で距離を詰め、リミナの手足に絡むツルを双剣で断ち切り。

 そして、落下するリミナをスライディングでキャッチした。


「うぉ……ポロ」

「ふう、危なかったぁ……。リミナ、怪我はない?」


 突然の奇襲に驚きながらも、駆け付けたポロに安堵するリミナ。


「ええ、ありがとう。……それにしても」


 そして再び植物の化け物に目を向ける。


「なんなの、こいつ」

「僕にも分からない。初めて見る魔物だよ」


 二人の知識を足しても見解が及ばないその化け物に注意を向けていると。

 突然、二人の足元から化け物のものと思われる植物のツルが飛び出す。


「なっ、また?」


 その攻撃を避けながら、ポロは微動だにしない化け物を見て思う。


「そうか、あの魔物の足から地中にツルを伸ばしているんだ。あれが地に足をつけている限り土の上に安全な場所はないようだね」


「ならどうするの?」


 リミナが問うと、ポロは彼女の腕を掴んで跳躍し。


「【暗黒障壁ダークプレート


 空中で足場と同時に地中からの攻撃を防ぐ障壁を展開する。


「これで少なくとも不意打ちはないね」


 ポロの言う通り、地中から突き出るツルの攻撃はポロの展開した障壁によってすべて弾き返された。


「防御壁って便利ねぇ。アタシも習えばよかった」


 と、利便性を呟きながら。


「後はあの全身無限湧きの触手をどうにかしないといけないんだけど……ポロ、炎系統の魔法って使える? 植物なら焼いてしまえば楽なんだけど」


「残念だけど、僕はほとんど闇魔法しか使えないよ。他の手段としては、身体スキルでゴリ押しするくらいかな」


「アタシも魔法はあまり得意じゃないのよねぇ……。なら、ちまちま切り刻むしかないか」


 と、ポロのゴリ押し作戦を推奨すると。



「では……僭越ながらワタクシがご助力致しましょうか? リミナ」



 突然背後からの声に、二人はビクリと振り返る。


 するとそこには、白いドレスを身に纏った金髪の女性の姿があった。

 一切気配を感じさせなかった彼女は、背中の羽根で浮遊しながらリミナに向け笑みを浮かべる。


 その姿にリミナは驚き。


「……シルキー、どうしてあなたが?」


 古き知人の変わらぬ表情に、懐かしさからわずかに心が高揚した。





ご覧頂き有難うございます。

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