57話 囚われの吸血妖精(バーバンシー)
ポロ達が食人植物と交戦している最中。
その陰で、凝視するように光る複数のレンズが静かに彼らを覗いていた。
周囲にある木々には『転映石』という特殊な魔鉱石が設置されている。
レンズを通して映される情景を記録し、離れた場所へ映像を届ける魔道具である。
ポロ達から離れた場所にあるコテージの一室にて、彼らが戦う様子を映像越しにまじまじと見つめる者が一人。
「ふむ……強い。強力活性剤を与えた魔物がみるみる倒されていく。さすが、オニキス君が苦戦しただけはある……か」
と、二人の動きを興味津々に観察するアルベルトは、ふと部屋の隅で拘束された、緑のドレスを纏った女性に問いかける。
「いかがです? アニス様。立派に育った彼女の姿を見るのは」
「…………」
その女性はじっとアルベルトを睨んだまま返答せず。
「元気がありませんな。やはり吸血妖精の性質上、生き血を啜らねば力が出ませんか……。分け与えたいのは山々ですが、しかし私の体のほとんどは魔鉱石で出来ております故、あなたに輸血することは叶いません」
と、頭を下げるアルベルトに、アニスと呼ばれたその妖精は彼の靴に向けて唾を吐いた。
「白々しいぞ。いい加減答えてもらおうか? 何故わらわを誘拐したのかを」
アルベルトはポケットからハンカチを取り出し、静かに汚れた靴を拭き取ると。
「妖精側の領主であるあなたが、このような下品な振る舞いを見せるのはいかがなものかと思いますな」
「はっ! あいにく貴様に気遣う品性は持ち合わせておらぬのでな」
アニスは鼻で笑い、高圧的な態度でアルベルトに返す。
「何が目的だ? すでにわらわが攫われたという事実は森中に広まっておる。この場所が割れるのも時間の問題だ」
と、脅しをかけるアニス。
「『森の薬師』で知られる貴様がこのような暴挙に出るということは、己の名誉と立場を擲ってでも成し遂げたい目的があるのだろう?」
すると、アルベルトはアゴ髭を摩りながら。
「……元より、この世界で成し遂げるような目的など私にはございません。惰性で生き永らえている老体ですよ」
実につまらなそうな表情でアニスに返答した。
「ですので名誉や立場はどうでもよく、あなたを招いたのはただ単に、あのお嬢さんへの交渉材料になると思っただけです」
「っっ!」
その言葉に、アニスはピクリと反応する。
「なんでも、あなたは過去にリミナお嬢さんの命を救った事があるとか……」
「…………知らぬ」
「さらには冒険家になると言い出した彼女に戦闘技術も教え込んだと、風の噂で聞いたことがございます」
「知らぬと言っておる。ハルチェットの娘がどうなろうとわらわには関係のない話だ。同じくわらわがどうなろうとリミナには関係ない」
興味がなさそうに返すアニスに、「ふむ」と含ませながら呟く。
「では、私自ら彼女の命を断ちに参りましょう」
「何っ!」
動揺するアニスを見て、アルベルトは彼女の本音を見抜いた。
「たしかあなたは人族との共存の為、三十年以上もの間『断血』していると伺いました。ですがそろそろ人の生き血が恋しいのでは?」
「貴様……まさか」
「丁度新鮮な若者が二人おりますので、早々に狩ってあなたの前に差し出しましょう」
そう言ってアニスに背を向けた時。
「ワルター! 奴を止めろっ!」
その隙を突き、アニスは部屋中に声を轟かせると。
突如窓の割れる音と共に、武装したエルフの男が押し入ってきた。
ワルターと呼ばれたエルフの男は間髪入れずに槍を構え、身構えていないアルベルトに不意打ちを見舞う。
だが……体を貫くつもりで振るった刺突は、アルベルトの胸板でその刃は止まった。
「なんだと!」
ビクともしないアルベルトの体に驚愕したワルターは、一度距離を取り体制を立て直し。
槍を突き付けられたアルベルトは何事もなかったかのように、突然現れたワルターを見やる。
「ふむ……なるほど、すでに居場所が割れておりましたか。不意を突いての奇襲は見事でございます。しかし、あなたにダイヤモンドを砕く力量はないようだ……」
そしてがっかりしたように言うと、アルベルトは彼に向けて両手を開き、無防備の状態で構えた。
「ですがそれでも挑むというのであれば、私もそれに応えましょう。『鉱石職人』なる異能を与えられた私に傷をつける事が出来たなら、私はあなたを生かして帰すと約束しますよ」
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