56話 食人植物
星明かりを頼りに暗闇の森を歩くポロとリミナ。
だが、そんな暗がりの下、二人は絶賛道に迷っていた。
「ねえリミナ、ここってさっきも通ったよね?」
不測の事態に、リミナは口に手を当てながら考える。
「……おかしいわね、普段なら近くにピクシーやドライアドがいてくれるはずなんだけど」
この『妖精の森』は、昼夜問わず様々な妖精達が巡回している為、人族が道に迷ってもすぐに正規のルートを案内してくれる。
しかし住宅街から離れた途端、妖精はおろか、生物の気配すらしなくなったのだ。
ポロはクンクンと鼻を利かせて以前通った道を探るが。
「ん~なんか妙な匂いが混ざってるな……」
別の匂いにかき消され、進路は徐々に混迷してゆく。
行く道はより複雑となり、辺りはより暗黒と化し。
未だ脱出への兆しは見えず……。
と、そんな時だった。
入り混じった匂いの中で、ポロの鼻センサーが過敏に反応した。
「……リミナ」
「分かってる。気配を感じるもの」
それは虎視眈々と獲物を狙うような殺気。
そんな気配を察知した二人は、ピタリと同時に立ち止まると。
突然二人の頭上から木の枝が叩き付けるように降り落ちた。
ポロとリミナは同時に地を蹴りそれを回避し、落ちてきた木の枝に目を向ける。
すると、そこには人の形をした一本の大木が佇んでおり、その木はうねうねと枝を躍動させながらポロ達に近づいてくるのだ。
「あれは……樹木人?」
「にしては邪悪な感じね。意思疎通も怪しそう」
ポロの言うトレントとは、ドライアドと同じく樹木の妖精。
人間に近い見た目をしたドライアドとは異なり、その姿は完全に植物の見た目をしている。
だが、目の前の人型樹木は本来のトレントとは様子が違い、理性を感じず好戦的で、威嚇するように自身から生える枝を触手の如くしならせていた。
「これ、交渉の余地もなく襲って来る気満々だよね?」
「だとしたら魔物? けどこの森は妖精達に厳重な警備が施されているし、いてもせいぜい下級戦士級。それ以上は見たことないわ」
けれど目の前にいる人型樹木は……。
「……でもあれ、見た感じ上級戦士以上の戦闘力だよ」
巨大な体、音もなく忍び寄る潜伏能力、地面がえぐれる程の威力を持つ枝攻撃。
明らかに素人が手に負える相手ではなかった。
「まあ、相手がその気なら、こっちが何しても文句は言えないわよね」
するとリミナは荷物袋から携帯用ハルバードを取り出し、一振りして棒を伸ばしきる。
「あ、新しく新調したの?」
「前の戦いで武器を解かされちゃったからね。今度は一級品」
そう言っているうちに樹木の化け物はリミナに向けて、自身の手の部分にあたる枝を鞭のように振るった。
その刹那、リミナは目にも留まらぬ速さでハルバードを一薙ぎし、容易く樹木の枝を斬り落とす。
「ポロっ! 合わせて!」
リミナの合図と同時に、ポロも腰に下げた双剣を取り出し、リミナが怯ませたタイミングで化け物に斬りかかった。
「【双剣の牙】」
ポロの斬撃により、樹木の化け物は真っ二つに両断され。
巨大な樹木は、断末魔もなく静かにその場に倒れた。
「腕は鈍ってないようね」
「体に染みついてるんだ。そう簡単に鈍らないよ」
久しぶりの連携にも難なく対応するポロに、リミナは称賛を贈っていると。
「……でも、まだ終わりじゃないみたいだね」
そんな束の間の安堵を邪魔するように、彼らの周囲から複数の殺気が忍び寄ってきた。
それは人型の巨大な茸と、ハエトリグサのような見た目をした食人花。
「怪人茸と暴食寄生花? それもサイズが規格外ね……」
いずれもポロ達をはるかに凌ぐ体躯であり、人食い植物に分類される魔物である。
そんな危険生物が十数体。
「どうしてこんな化け物達が『妖精の森』に……」
本来いるはずのない魔物達を前に、リミナは疑問を抱く。
しかし化け物達は待ってはくれず、二人を食らおうと襲い掛かった。
「……って、そんなこと考えている場合じゃないわね」
リミナは気持ちを切り替え、この場の窮地を乗り切る為にポロと背中合わせで臨戦態勢を取る。
「こっちはアタシがやるから、ポロは反対をお願い」
「うん、いいよ」
そして、二人は互いに魔物の群れに突っ込み、襲い来る食人植物に斬撃を放った。
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