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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第二章 妖精達の楽園、アルマパトリア編
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55話 森に住まう老人、アルベルト


 日が沈んだ頃。

 観光地である自然豊かな街並みをひた歩き、巨大な大森林へ辿り着いた。


「んん~草木のいい香り。ここが『妖精の森』かぁ」


 ポロは鼻いっぱいに空気を吸い込み、森の香りを堪能する。


「けど、明かりもなく森を歩くの大変じゃない?」

「問題ないわ。ほらっ」


 と、リミナは前方を指差すと。

 突然蛍光色の球体がフヨフヨと浮遊して彼らの前に現れる。


「あれって、ピクシー?」


 光の正体は、手の平サイズの小人妖精、ピクシーから発せられる光だった。


「ヒトゾクのみなさま、こんばんわ。わたちはこのもりのガイドをつとめさせていただくものでございましゅ」


 幼子のような口調で話す妖精は、羽をはためかせ、ポロ達の周囲を飛び回りながら自己紹介をする。


「ほんじつはどのようなヨウケンでしゅか?」


 するとリミナは慣れた様子でそのピクシーに返した。


「森の住宅街まで案内してくれる? 空間ゲートで」


「かちこまりまちた。ではドライアドをおよびしましゅのでおまちくだしゃい」


 そう言うと、ピクシーは高く飛び上がり、手に持ったベルを鳴らし森に反響させた。


 すると、突然近くの大木から這い出るように一人の女性が現れる。


「は~い、ご利用ありがとうございます。森の運び屋、ドライアドが参りました」


 陽気に挨拶をするのは、樹木を住処とする女性型の妖精、ドライアド。


「このかたたちをじゅうたくがいまではこんでくだしゃい」

「はいは~い。ではこの木の中へお入り下さ~い」


 と、ドライアドは目の前の大木に即興で魔法陣を描き、ポロ達を招く。


「え、これ、このまま入って大丈夫なの?」


「平気よ、【空間の扉(ポータル)】よりちょっと転移酔いしやすいけど、すぐ慣れるから」


 言いながら、中に入るのを躊躇うポロに、リミナは彼の手をぐっと引っ張り無理やり中に入れた。


 すると、大木の中に入った瞬間、ポロは暗闇の中で落下するような浮遊感に見舞われる。

 それが数秒続いたのち。

 ポロの体は別の大木からすぽんと飛び出た。


「う……何これ、気持ち悪い……」


 空を飛ぶ時とはまた違った、高速で躍動する浮遊感に気分を悪くし、ポロは嗚咽しながら四つん這いに倒れる。


 同様に、終始ポロの肩に乗っていたミーシェルも目をグルグルさせグロッキー状態。


「ああ、やっぱり最初は酔っちゃうか……」


 遅れて大木から出たリミナは、頬を掻きながらポロの姿を見やる。


「しょうがない、おぶってあげるから背中に乗って」


 リミナは軽く息を吐きながらポロの前でしゃがみ、弱るポロをその身に背負った。


「なんか……僕と同じくらいの背丈の人におぶられるの初めてかも。大丈夫? 歩ける?」


「舐めるな、アタシの倍の身長差があっても持ち上げられるわ。アタシは大人だからね」


「歳関係なくない?」


 自分の体にコンプレックスを持つリミナは、心配するポロに反論しながら軽快に森を進んでいった。











 ここは『妖精の森』にある住宅地。


 そこかしこに大小様々なコテージが建ち並び、小川付近や大木の上など、設置場所もそれぞれ異なる変わった光景が目の前に広がっていた。


 その中で、一軒だけ大きな造りのコテージが目に入り、リミナは使用人からもらった地図と照らし合わせ頷く。


「ここね」


 そしてここが魔鉱石を買い取った者の住所だと理解した。


「ごめんください」


 入り口付近にあるベルを鳴らし家主に呼びかけると、程なくしてその人物は現れた。


「おや、こんな時間にお客人とはめずらしい。いかがされましたかな?」


 出迎えたのは、紳士服を纏った高身長の老人だった。

 リミナはポロを下すと、コホンと咳ばらいをして背伸びしたような振る舞いを見せる。


「はじめまして、人族の領主をしているエスカ・ハルチェットの娘、リミナです」


「ほう、これはこれは……。先程はお世話になりました、アルベルトと申します」


 お互い丁寧な挨拶を交わすと。


「して、ハルチェット家のご令嬢が私に何か用事でも?」


 物腰柔らかにアルベルトは要件を尋ねる。


「その……先程母様から魔鉱石の買い取り契約を結んだと思いますが」


 すると、アルベルトはアゴ髭を撫でながらホクホク顔で返す。


「ええ、私はこれでも宝石コレクターでしてね、前々からそちらの管理する『紅炎石』に大変魅力を感じておりました。いや~久々に良い買い物が出来てあなたのお母様には感謝しております」


 などという言葉を前に、リミナは言い辛そうに口ごもる。

 そんなリミナの反応を見てか、彼女の代わりにポロが代弁した。


「おじさん、さっきの契約を解除してもらえない? その魔鉱石、リミナにとって大事なものなんだ」


 すると、アルベルトは「ふむ」と考え込むような素振りを見せ、逆に問う。


「何か事情がおありのようですな。……とは言え、私も前金を支払っておりますので簡単に首を縦に振るわけにはいきませんな。せめて前金の払い戻しに加え、違約金として金貨五十枚程は頂かないと」


「五十枚?!」


 思いの外高額な金の入用にポロは驚く。


「前々から欲しかったものを諦めるのです。むしろ安いほうかと思いますが?」


 腕を組み考えるポロに、今度はリミナが返答した。


「わかりました。一度戻ってお金を用意します。ですからどうか前向きに契約破棄の検討をお願いします」


 深く頭を下げるリミナに、アルベルトは困ったような表情を浮かべ。


「頑なですな。余程の意志が垣間見える……。かしこまりました、名残惜しいですが、ここはお嬢さんに免じて引き下がりましょう」


 仕方なくといった様子で契約破棄を受け入れた。







 アルベルトと別れた二人は、大金を用意する為一度屋敷に戻ることに。


 だがその道中、二人は奇怪な魔物の襲撃を受けることとなる。





ご覧頂き有難うございます。

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