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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第二章 妖精達の楽園、アルマパトリア編
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54話 リミナの里帰り


 夕暮れ時、ようやくポロとリミナはアルマパトリア付近までやって来ると。

 遠くの景色にうっすらと木のシルエットが現れ、ポロは興奮しながら前のめりで前方を眺める。


「わ~お、おっきい大樹! あれが『妖精の森』中心部に生える『生命の樹』かぁ……」


 やがて、遠く離れた上空からでもはっきり分かる程に、雲の上まで抜きん出た一本の巨木は威風堂々と町の中心にそびえる姿が目に映った。


 壮観な立ち振る舞いを見せるその巨木に見惚れていると、「ちゃんと運転して」とリミナにたしなめられるポロ。


「アタシはもう見慣れているからそうでもないけど、やっぱり初見の人はみんな良い反応するわね」


「そりゃあ世界一の大樹だもの。僕も噂しか聞いたことなかったけど、実際見ると圧巻だね」


「ふ~ん、じゃあ用を済ませたら軽く町を案内してあげる。あそこで採れる樹液は最高級の回復ポーションの原料になるから舐めると疲労回復するの。ついでに少しもらってこっか」


「うん、僕もうお尻が痛くなってきたから助かるよ」


 そして、二人と一匹はアルマパトリア領に入り、リミナの実家がある庭へ空路を向けた。








 ここは『妖精の森』近くにある、ハルチェット家の屋敷。


 ひと際大きな敷地内にある庭に、ポロ達を乗せた軽飛行機は着陸する。

 すると、使用人と思われる女性達が慌てて駆け付けた。


「リミナお嬢様?! 何故このような場所から……」

「隣にいらっしゃる獣人の子は誰ですか?」

「エスカ様にご連絡はされておいでなのですか?」


 わらわらとリミナに取り巻くメイド達を面倒くさく思い。


「あ~そういうのは後で。とりあえず母様を呼んで来てもらえる?」


 パタパタと手で払いながら、運転疲れでぐったりするポロを連れて屋敷の入口へと向う。


「お待ち下さい! エスカ様は只今事務室にて仕事中でございます。多忙につき一段落つくまでは誰も声をかけるなと仰っておりまして……」


「早急にお嬢様のお部屋を掃除致しますので、そちらでお待ち頂けますか?」


 と、段取りの悪い状況を待ってられず。


「悪いけど待ってられないの。いいわ、アタシが直接会ってくるから」

「お嬢様っ!」


 リミナはポロの手を引きグイグイ屋敷の中を進んでいった。









 そしてリミナの母親、エスカ・ハルチェットの仕事部屋に着くと、ノックもなしにズカズカと扉を開け中へ入る。


「ただいま、母様」


 奥で大量の書類に目を通し、黙々とペンを走らせるエスカは、突然の娘の来訪にも気に留めず。


「リミナ、帰っていたのね。悪いけど今忙しいから話は後にしてちょうだい」


 と、娘に目もくれず機械的に淡々と仕事を片付ける。

 そんな母親に憤りを感じたリミナは、重みのある足取りでデスクの前まで近付くと。


「なら一言だけ言うわ。父様が残した遺産、『紅炎石こうえんせき』を持っていくわね。父様がアタシに譲った物だし、問題ないわよね?」


 捨て台詞のようにエスカに吐き捨て、そのまま部屋を出て行こうとした時。


「それはちょっと言うのが遅かったわね……」


 遅れて返すエスカの意味深な返しに、リミナは嫌な予感を感じた。


「ついさっき買い手が付いてね、その人と契約を結んでしまったわ」


「はあっ?! なんでよ、遺書に書いてあった通り、アタシの所有物でしょうが!」


 怒りを露わにするリミナだが。


「自分から家を飛び出して、何年も連絡も寄越さなかった娘の忘れ物を、維持費をかけていつまでも残しておくと思う?」


 至って冷静に、エスカは反論するのだ。


「黙って売ってしまったことはこっちに非があるけれど、そもそもあなたと連絡がつかないのだから仕方ないでしょう? それに、今更戻って来て家の所有物を我が物顔で取りに来るあなたの神経もどうかと思うわよ」


 と、論破するエスカにリミナは奥歯を噛み締めながら押し黙る。


「買い取ったのは『妖精の森』に別荘を構えるご老人でね、今までの維持費に余裕でお釣りがくるくらい破格の値段で買い取ってくれたの。買い戻したかったらその人に直接交渉しなさい」


「……ええ、そうするわ。母様」


 リミナはプルプルと拳を握りながら、ドアノブに手をかけ。


「……母様、あなたとはつくづく気が合わないわね」


 そう言って、事務室から出て行った。

 その場に残るエスカは溜息を漏らし。


「気が合わないか……当然よ、あなたは私の子なんですもの」


 同族嫌悪か自己嫌悪か……。

 タイプは違えど似ている二人。


 亡き夫の地位を守る為、亡き父の思い出を守る為、互いに相容れない親子の距離は未だ縮まらず……。








 ご機嫌斜めのリミナが部屋を出た時、ふと、ポロがいない事に今更ながらに気づいた。


「……あれ、ポロ?」


 近くにいたメイドにポロの居場所を尋ねると。


「お連れの方でしたら、お疲れのようでしたのでマッサージルームへご案内致しました」

「はっ……?」


 呆けたような表情をするリミナ。


 いつの間にやら姿を晦ましたポロを追ってマッサージルームへ足を運ぶと。



「ふわぁ~、最高~」


 そこには一糸纏わぬポロがベッドでうつ伏せになり、複数のメイド達にマッサージを受けている姿が目に入る。


「いかがですか? 『妖精の森』で採れた樹脂のオイルはお肌もスベスベになるんですよ~」


 とろけたような表情を浮かべるポロに、先程までの母との言い合いが馬鹿らしく思い、リミナは肩を落とす。


「あんた、目を離した隙に何やってんのよ?」


「んあ~リミナ? なんかお姉さん達がマッサージしてくれるっていうから来てみたけど、いや~これはたまらないね。もうこのまま永眠したい気分に……」


「…………」


 そう言って、ウトウト睡魔に襲われるポロに。

 リミナは無言で近づき、彼の尻をパチンと叩く。


「あいたっ!」

「いいから服着て支度しろ。急用が出来たの」


 そしてポロを催促しながら服を着せ、寝ぼけ眼の彼を引っ張る。


「んも~せっかくの安らぎ空間だったのに……どこ行くの?」


「『妖精の森』。家にはもう戻らないから忘れ物ないようにしなよ」


 向かうは魔鉱石を買い取った契約者の元へ。





ご覧頂き有難うございます。

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