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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第二章 妖精達の楽園、アルマパトリア編
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53話 交流の裏で


 とある孤島に現れたオルドマンと名乗る男は、ポロ達が食べている炙り肉サンドを物欲しそうな目でじっと見つめる。


「……もしかして、食べたいの?」


 たじたじしながらリミナが問うと。


「うむ、爆釣する予定で日の出から粘ってはみたが、全く釣れる気配がなくてな……。良ければ私にも恵んではもらえないだろうか?」


 腹を鳴らしながら空腹の救済を求めた。


 ――このおっさん、本当に貴族なの?


 と、内心疑いながらも、リミナはオルドマンの分も調理し食料を分け与える。


「うんうん、この素人が焼いたパサパサのパンも塩味のキツイ塩漬け肉も、空腹時だと何故か美味に感じてしまうな」


「おい、恵んでやったのに失礼だな」


 頭上に『怒』のマークが浮き出てきそうな表情を見せながらリミナはツッコむ。


「いや失礼、悪い意味ではないんだ。こういうワイルドな味もキャンプの醍醐味だと思ってね。これでも楽しんでいるのだよ」


 などと、笑いながら弁解をするオルドマン。






 それからしばらく、皆はコンロを囲んでオルドマンに旅の経緯を話した。


「ほう、アルマパトリアに向かう途中だったのか」


「ええ、ちょっとした用事でね」


 目的を伏せて、当たり障りなく。


「いや~しかしよくセシルグニムからその乗り物で行こうと思ったね。なかなかブレイバーな若人達だ」


 面白げに話すオルドマンに、ポロは「僕もそう思う」と同調し、リミナは何も言い返せず黙り込む。


「だが、たしかにあそこの観光名所である『妖精の森』は素晴らしい。森のマナが体中に染み渡り、日々の疲れを癒してくれるからね」


 何度も頷き、しみじみと思い返す。


「だからその小型機で不法侵入してでも観光したい君達の気持ちは分かるとも」


「人聞きの悪い事言うな! アタシはこれでも領主の娘よ、里帰りで来てるの! 入場審査なんざ顔パスよ顔パス」


 オルドマンの決めつけに異を唱え、自分の立場をここぞとばかりに主張するリミナ。


「なんと、アルマパトリアの領主とな……。ならば何故魔導飛行船を利用しないのかね? その小型機よりかはさぞかし快適な旅だろうに」


「……それは」


 言い辛そうにするリミナに、オルドマンは憶測を立てる。


「たとえば、旅客機では持ち運べない代物を積む為とか?」


 そう言って、リミナの反応を窺いながら己の推測を確かめていた。


「……あなたには関係ない話でしょ」


 そしてリミナははぐらかすのだ。


 ――図星か……。


 と、オルドマンは彼女の表情を見て確信する。


 すると、逆にポロは驚いた様子でリミナに問う。


「えっ? リミナの実家にある魔鉱石ってそんなにすごい物なの?」

「ちょっと、ポロ!」


 隠そうとしていた詳細を漏えいされたリミナは、ポロを睨みながら言葉を止めた。


「……魔鉱石?」


 二人の話を当てはめて「ふむ」と呟くオルドマン。


 そして、ギクリと焦った様子を見せる二人に向け、穏やかな笑みで返した。


「警戒しなくてもいい。君達が何をしようと私が知るところではないのでね」


 その言葉に、若干の警戒を解く二人。


「事情があるのだろう? ならば私も君達の行く末を祈ろうじゃないか」


 そう言って、オルドマンは首に下げていた十字のペンダントを掲げ、額に当てる。


「二人の行く道に、地母神イズリス様のご加護があらんことを……」


 この世界の貴族は皆、何かしらの教派に所属する者が多い。

 オルドマンもその例外ではなく、彼が崇める神に祈りを捧げた。








 休憩を終えたポロとリミナは、未だ一人キャンプを続けるオルドマンに別れを告げ、再び空の旅へ舞い戻り。


 彼らを見送ったオルドマンは、軽く息を吐きながら独り言ちる。


「アルマパトリア……領主の娘……魔鉱石…………そして彼らの出発地点、セシルグニム……」


 思考しながらブツブツと呟いた後、彼は伝声魔法を使い、遠く離れた者へ念話を唱えた。


『アルベルト、聞こえるか?』


 すると、数秒しないうちに相手からの返信が返ってきた。


『あなたから声をかけるとは珍しい。いかがされましたかな?』


 高齢を思わせる声の主は、物腰柔らかにオルドマンに問う。


『お前が拠点にしているアルマパトリアに、領主の娘と獣人の少年がやって来る』


『ほう、それで?』


『目的はハルチェット家が所有している魔鉱石だ。おそらく崩落間近のセシルグニムに運ぶものと思われる。それを阻止しろ』


『また急ですな……。何か思うところでも?』


 難儀そうに尋ねる声に、「うむ」と一言。


『一つは他世界へのゲートを繋ぐ為に、セシルグニムの機能停止が絶対条件だということ。そしてもう一つ、ルピナスから送られた人物資料に、その二人が酷似していたことだ』


『たしか……『黒龍の巣穴』の元攻略部隊でしたかな? オニキス君からも聞いておりますよ』


『そうだ。様子見で構わないが、我々の邪魔になると判断したなら速やかに彼らを消せ。お前なら造作もないだろう』


 すると声の主は『やれやれ』と溜息交じりに漏らし。


『この老体に無茶を言いますな……。せっかくの優雅なる余生を満喫しておりましたのに』


 オルドマンの急な依頼に文句を垂れる。


『そう言うな、運が良ければ、お前の悲願も叶うかもしれんぞ? 何せ黒龍を前にして生き残った連中だからな』


『…………ふむ』


 その声はしばらく沈黙した後。


『かしこまりました。我が主、オールドワン(・・・・・・)よ。出来る限り最善を尽くしましょう』


 そう言うと、声の主は念話を遮断した。




 会話を終えた後、オルドマンはしばし海を眺め。


「期待したか? アルベルト。朽ちぬ体を持つお前が抱く願い……。私の計画とは違えるが、叶うといいな」


 遠く離れた者に問い、オルドマンは浜辺から釣り竿を振るう。

 波の音しかしない静寂な孤島で、男は一人物思いにふけながら。


 この世界の行く末を憂い……。





ご覧頂き有難うございます。

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