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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第二章 妖精達の楽園、アルマパトリア編
53/307

52話 とある孤島で出会う者


 肌寒さが残る停泊場で。

 朝焼けが広がる時間帯に、二人と一匹は旧式の軽飛行機に乗り込んだ。


「どう? 動かせそう?」

「う~ん、古すぎてどれも触ったことのないものだけど、多分大丈夫かな」


 ポロの言葉に、リミナはホッと息を吐く。


 そしてポロがエンジンをかけると、前方のプロペラが徐々に回り出した。


「お~なんか飛びそうじゃん、いけいけ~!」

「そりゃ、飛ばなかったら困るよ。……え~っと」


 言いながら、ポロはハンドルを握り、ゆっくりとアクセルを踏むと。


「うおっ?」

「ひっ……?」


 感覚が掴めず、勢い余って急激にスピードが出てしまい。

 彼らはその勢いのまま空へ飛び立った。


「ちょっ、これすごい揺れてるんだけど! 大丈夫なの?!」

「話かけないで! バランス取るので精一杯だから!」


 波打つような浮遊感が断続的に続き、初手から彼らに余裕はなく。

 二人はあたふた焦りながらも、先行き不安な空の旅が始まった。









 そんなこんなで数時間後。


「ふんふふ~ん♪」


 最初こそ不慣れな運転をしていたポロも、時間と共にハンドルが手に馴染み、鼻歌混じりで雲の上をフライトしていた。


「手慣れて来たわね、ポロ」

「コツが分かればどうってことないね。これなら予定より早く着きそう」


 もはやこの小型機が体の一部だと思う程に、ポロの心にゆとりが生まれる。

 そんな中、ポロはリミナの実家について尋ねた。


「そう言えば、これから行く所ってリミナの実家の所有物なんだよね?」

「ええ、それが?」

「もしかしなくても、リミナの家ってお金持ち?」


 そう言うと、リミナは「……まあね」と、若干暗い顔をしながら答えた。


「アタシの父が町の領主をやってたの。人族側のね」


「人族側ってことは、妖精族の領主は別にいるの?」


「そ。互いに対等な関係を築いているからね。まあ、父が亡くなって、うちの母が継いでからは前ほど友好的な感じじゃないけど」


「…………」


 あまり話したくないことを聞いてしまったと、ポロは急に押し黙る。

 その様子を見ながら「大丈夫よ」と一言。


「気にしないで、何年も前のことだから。……けどまあ、その一件から母親とはあまり仲が良くないの。今回も用が済んだらすぐに町を離れるつもり」


 と、複雑な家庭事情を素っ気なく話す。


「……そっか」


 ポロはそんな彼女の問題には触れないようにして。

 しばし沈黙が続く中、ポロ達は休憩地点である無人島へ着陸した。











 小型機の給油を終えたポロは、浜辺でぐったりとうつ伏せに倒れる。


「うへ~、疲れたぁ……」

「お疲れ様。えらいぞ」


 隣に座るリミナはポロの頭を撫でながら労いの言葉をかけると。


「今お昼ご飯作ってあげるからちょっと待ってて」


 そう言って、リミナは自身の荷袋から携帯用ガスコンロを取り出し、パンと塩漬け肉を網に乗せ、手慣れた様子で炙ってゆく。


 肉が焼かれる音を聞く度にポロの耳がピクピク動き、香ばしい匂いが漂うと無意識に尻尾が躍動する。

 リミナはその仕草が面白く、わざとポロの目の前でライブクッキングを見せつけ五感を刺激させた。


 そして焼きたてのパンをナイフで割り、脂滴る塩漬け肉を挟んでポロと、ポロの背中でくつろぐミーシェルに手渡した。


「はい、どうぞ。ミーちゃんの分もあるからね」


 ポロとミーシェルは互いに口でそれを受け取り、むしゃむしゃと頬張る。


「うま、うま」


 ご満悦で腹を満たしたポロは、もう少し休もうと間延びしながら日光浴を浴びていると。

 ふと、島の中心部に生い茂る林から、何者かの気配を察知した。


「……リミナ、ここって無人島なんだよね?」

「そうだけど?」

「誰かが、こっちに近づいてくる」


 ポロの反応にリミナは背後を振り返ると。

 林の奥から一人の男が釣竿を持って現れた。


「ふむ、こんな孤島に人が来るとはめずらしい」


 人気のない島にはあまりにも似合わない、貴族のような身なりをしたオールバックの男。

彼はポロ達を見るなり不思議そうに尋ねた。


「香ばしい匂いに釣られてやって来たが……君達子供だけでこの島に来たのかい?」


 その言葉に聞き捨てならないとリミナは反論する。


「これで何度言ったか分からないけど、アタシは子供じゃないから! これでも成人してるから! あんたこそ、そんな身なりで何してんのよ?」


 逆にリミナが聞き返すと、男は考える素振りを見せたのち。


「私は久々の休暇を満喫している最中さ。浮世を離れて、一人孤島でアウトドアを楽しむ。実に贅沢な休暇の過ごし方だと思わんかね?」


 と、共感を求める男は、二人の呆然とした様子を窺い。


「ああ、申し遅れたね。私はオルドマン。世界各国を流浪する、ごく普通の貴族だよ」


 ふと思い出したかのように自身を名乗った。





ご覧頂き有難うございます。


明日、明後日はお休み頂きます。

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