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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第二章 妖精達の楽園、アルマパトリア編
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51話 明日に向けての腹ごしらえ


 リミナに仕事の依頼を受けてから、二人は出発前の買い出しをしていた。


 食料その他生活用品、あとは燃料となる魔鉱石だが……。


「あっ、大丈夫、アタシが買ったの魔導飛行船じゃないから」

「え……?」



 ポカンとしながら、ポロはリミナに連れられ飛行船が停泊している場所まで案内された。

 すると。


「……今時石油燃料の、自動運転機能も付いていない旧式の飛行機……しかも二人乗りの小型機なんだ……。っていうか飛行船ですらないじゃん……」


 ポロは若干引いた目でその古めかしい軽飛行機を見つめる。


「仕方ないでしょ、中古で安く買えるのがこれしかなかったんだから」


 ――どうりで一般人が買えるわけだ。


 そんなことを思い。


「ここからアルマパトリアまで魔導飛行船で三時間だとして……このサイズと装備だと半日はかかるよ? 僕、休みなく運転しなきゃならないんだけど……」


「途中、無人島があるからそこで一回休憩をはさむってのはどう?」


「そりゃあタンクも小さいだろうから途中で燃料補給しないといけないけど……過酷過ぎない? 小型機って風に流されやすいからバランス取るの難しいし」


 と、ずさんな計画にポロはげんなりするが。


「お願い! 二人乗りだからポロが運転してくれなきゃ困るのよ。ご飯奢ったげるから! ねっ?」


 ここで断られると軽飛行機を買った意味がなくなると、リミナは必死に食い下がる。


 ポロは頬を掻きながら。


「……水棲牛すいせいぎゅうのステーキがいい」


 仕方なしにステーキで手を打つことにした。








 昼食をとる為二人は繁華街へ向かう。

 すると、ふと以前二人が出会った酒場が目に入った。


「ここ……まだ経営してたのね」


「うん、マスターが姿を晦ましてから代わりの人が店を回しているんだけど、正直前のほうが美味しかったな」


 そしてリミナは入口に飾られたメニューの看板を見ながら。


「酒の種類もだいぶ減ったわね。しかも全部どこにでも置いてるような無難なものばかり……」


 敵ながらも、オニキスの品揃えのセンスが恋しくなる。


「……転生者って言ったわね。あいつらとまた戦うことになるのかな?」


「どうだろう、彼らは『世界の支柱』の魔鉱石を守っているみたいだから、僕らから近づかなければ手は出さないんじゃないかな」


 確証はない。

 しかし、酒場のマスターに関して言えば、まだ話の通じる相手だったとポロは思う。


「いずれにしても、もう会いたくはないわね。一対一じゃとても勝てる気がしない」

「……そうだね」


 しみじみと頷きながら、二人は店を後にした。








 その後、別の店で二人は昼食をとることに。


 瑞々しくも柔らかい水棲牛のリブロースステーキに雌牛のミルクで炊いたパンがゆを前にして、ポロはじゅるりとよだれを啜る。


「うわ~、ホントにご馳走になっていいの?」


 ナイフとフォークを握りながら、待ちきれないと言わんばかりにポロの尻尾は激しく揺れていた。

 その子供らしい姿を肴にして、リミナは発酵ビア(エール)をあおる。


「ええ、沢山食べて精をつけなさい。明日は長時間運転しなきゃいけないんだから」


「うん! いただきま~す!」


 むしゃむしゃステーキを頬張り、ジャブジャブパン粥を啜る。

 気持ち良いくらいの食べっぷりに、見ているリミナの酒も進んだ。


 そんな時、ふとポロはリミナに尋ねる。


「そういえば、リミナは実家に戻って何か予定でもあるの? ただ帰省するだけならわざわざ僕に頼まなくても、アルマパトリアまでの旅客機は運航しているよね?」


 するとリミナはジョッキ一杯の発酵ビア(エール)を飲み干し。


「……実は、うちが所有する土地に割と規模の大きい森があるんだけど、そこに膨大な魔素を含んだ魔鉱石が眠っているのよ」


 今回の肝となる依頼内容を打ち明ける。


「でね、それをセシルグニムに献上しようかと思って。……ほら、ポロと一緒に渡せばあんたの手柄にもなるし、功績を認められればあんたの仕事復帰も早まるでしょ?」


「リミナ……」


「魔鉱石のサイズと希少価値を鑑みると、審査が通らず旅客機に積めないわ。だから個人的に運ぶしかないの」


 今回提案したリミナの依頼は単なる帰省ではなく、ポロの為、延いてはアルミスの為でもあった。


 二人にとって後味の悪い結果となったダンジョン攻略で、少しでも苦い思い出を払拭出来ればと思い、彼女は実家が所有している魔鉱石を献上しようと考えたのだった。


「だけどそこ、長年立ち入っていないから魔物の巣になっていると思うの。だからその掃討も手伝ってほしいからポロに頼んだのよ」


「ふぁるほほ~(なるほど)」


「頬張りながら喋んな」


 何の気ない素振りを見せるが、内心ポロはリミナに感謝をしていた。

 なんだかんだで面倒見の良い彼女にぼそりと。


「……ありがとね」


 そう口にして、ポロはいつの間にかテーブルに並んだ料理を平らげる。


「お礼は結構。その分しっかり働いてもらうんだから」




 そして、彼らは日が昇りだす明朝に旅立つこととなる。

 その時の彼らはまだ知らずにいた。


 幾多の妖精が住まう地で、新たな波乱が巻き起こることを。





ご覧頂き有難うございます。

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