50話 新たな旅立ち
『世界の支柱』のダンジョン攻略から数カ月。
空中都市セシルグニムのとある公園にて。
「ん~、ミーちゃんは今日もいい匂いだねぇ~」
青空の下、『浮遊石』が埋め込まれた空中椅子に腰掛け、愛猫を抱きかかえながらスンスンと匂いをかぐポロ。
すると、その猫は突然ポロに向けて念話を放った。
『ご主人、いくらミーシェが魅力的だからって、女性の体臭を嗅ぐのは失礼ですニャ』
彼女は猫の妖精ケット・シーである。
普段は猫の姿で人の暮らしに溶け込んでいるが、いざという時は獣人のような人型に姿を変えて契約者を守る、珍しき妖精。
彼女がケット・シーであることはポロとメティア以外は知らず、他の者達は普通の猫と認識している。
名をミーシェルという。
『さてはご主人、姉君の残り香で甘えん坊だった昔を思い出し、ノスタルジックな気分になっていますニャ? このシスコンめ!』
などと冗談めかしてポロをからかうが。
「ミーちゃんがクル姉の使い魔だったのはもう何年も前でしょ。匂いなんて残ってないよ」
『まじめに返されると反応に困るニャ……』
彼女の冗談に乗っかる元気のないポロに、ミーシェルは心なしか心配になる。
『ご主人、仕事がお休みになってから少し元気がないニャ』
「そんなことないよ、何もしなくても国からお給金が出るし、宿もタダ。暇なら冒険家ギルドで適当なクエストを受けられる。……こんなに自由な暮らしが出来るんだから毎日が幸せだよ」
などと口では言うものの、ミーシェルは気づいていた。
『処分を受けたこと、気にしてますニャ?』
「…………う~ん」
はぐらかすように、ポロはミーシェルの背に顔をうずめる。
『あれはご主人のせいじゃないニャ、だから気にすることな……ニャハハ、くすぐったいニャ! 鼻先を擦りつけるニャ!』
慰めは不要だと言わんばかりに、ポロはミーシェルをくすぐりながら。
「……失敗は失敗だからね。魔鉱石を運搬するのが僕の仕事だった。理由がどうであれ、それが出来なかったのなら、魔導飛行船の船長として責任を負うのは当然。それに関しては受け入れているよ。だけどね、その汚名を返上する機会がないのは……少しモヤモヤするかな」
飛行士として運搬の仕事を請け負いこの国に貢献したいものの、免許停止処分を受けている為仕事を受けられない。
そんなやるせない思いを抱きながら毎日を過ごしていた。
と、そんな時。
「あっ、やっと見つけた。お~い!」
空中椅子の真下から声がした。
ポロがちらりと目を向けると、そこには以前共闘したSランク冒険家、リミナが手を振り呼びかける姿。
「リミナ?」
ポロは手すりにある紋章に手の平を乗せ、自身の魔力を注ぐ。
すると空中椅子はポロの意思に呼応するように、リミナの元まで下降していった。
「久しぶりね、元気にしてた?」
「毎日ぐ~たらした生活を送っているよ。そっちは?」
気さくに話かけるリミナに惰性的な返しをするポロ。
ちなみにミーシェルはリミナが来たことにより念話をやめ、何事もないように普通の猫を装う。
「怠けてるわね~。アタシは拠点にしていたグリーフィルに戻って、組んでいた冒険家パーティーを一時離脱してきたの」
と、リミナの発言にポロは驚いた。
「どうして? Sランク冒険家ならたくさん仕事をもらえるんじゃないの?」
勿体ないと、ポロはリミナに疑問を抱く。
「まあそうなんだけど、この間のダンジョン攻略で、自分の不甲斐なさを痛感したのよ。だから一度Sランクパーティーを離れて、フリーの冒険家として一から鍛え直そうと思って」
Sランクのブランドを失うということは、それだけで様々な国からの仕事の依頼がなくなる。
今まで契約していたスポンサーも解消される為、自分で一からクエストを受注しなければならない。
しかし、リミナはどこかスッキリしたような表情を向けていた。
「それで物は相談なんだけど……一度アタシとパーティーを組んでみない?」
「え……僕が?」
キョトンとしながらポロは見つめる。
「ほら、あんた今休職中で暇でしょ? だったらアタシと一緒に仕事しましょ? もちろん報酬はきっちり山分けするから」
「それは構わないけど、どんなクエストを受ける予定なの?」
するとリミナはニヒっと笑い。
「今回はアタシ個人の依頼。アタシの実家がある町まで飛行船で連れてって」
ひょいとポケットから取り出した鍵をポロに投げる。
「これは?」
「以前アタシが個人購入した、自家用船のエンジンキーよ。運送ギルドとして仕事をするなら罪に問われるけど、個人的に実家へ向かう分には飛行士の免許は生きてるでしょ?」
よく買う金があったなとポロは軽く息を吐きながら、その鍵を握りしめた。
「まぁね。……それで、行き先は?」
などと平静を装うポロだが、久々の空の旅に彼は内心うずうずしていた。
どんな場所なのかワクワクしながら尻尾を振り、気になる詳細をリミナに問う。
「人と妖精が共存する町、アルマパトリア」
そのポロの様子に微笑を浮かべながら答えるリミナ。
こうしてリミナを仲間に加え、ポロ達の冒険は新たな幕を迎える。
ご覧頂き有難うございます。
ブックマークと評価を下さった方、本当に有難うございます。毎日の励みにさせて頂きます。
話は変わり私事なのですが、先日会社の異動で他県に引っ越し致しました。
……それに伴い、新生活の準備などで更新日が変動するかもしれません。
出来るだけ平日は毎日投稿を目指しますが、間に合わない場合もありますことをお伝え致します。
コロナ禍ですが、皆様体調には十分お気をつけ下さい。




