49話 搔き乱す者
ショウヤとライラが去った後。
岩に縛られていたコルデュークはパチリと目を開ける。
「……行ったか」
袖に隠していたナイフで縄を切り、ふと呟く。
「生ぬるい奴だ……殺そうとしていた相手にトドメを刺さず、縄で縛って終わりかよ」
と、殴られた頬をさすりながら、力なく笑う。
そして、改めてショウヤの力を痛感した。
「……『神言獲得術』か。まるで俺の『善なる破壊心』の上位互換だな。くひひ、あいつにゃ宝の持ち腐れだぁ」
ショウヤとコルデュークの『固有能力』は似通っていた。
どちらも脳内に直接知識が流れ込み、様々な情報を与える力。
しかしショウヤとは違い、コルデュークの『善なる破壊心』はランダムで気まぐれな能力な為、その力はショウヤに一枚劣る。
「ああ~勿体ない、俺だったらもっと上手く活用出来たものを……」
などと独り言を言っているうちに、コルデュークの傷はみるみる癒えてゆく。
「とは言え、【自動回復】を発動してなきゃヤバかったな。……あいつ、能力だけなら今いる転生者の中でも最強だ。使いこなしたら国すら落とす力になる」
ショウヤの底知れない力に脅威を感じながらも、今後の事を考えるコルデュークは機嫌を良くして立ち上がる。
「あいつをダシにして戦争を起こすか……人体実験のサンプルに捕らえるか……う~ん、どうせなら派手にやりたいよな……」
思考を膨らませ、未来のビジョンに想い馳せ。
「ああ、今後が楽しみだ。あわよくば他の転生者達の障害になってくれれば言う事ない」
口角を歪ませながら、『搔き乱す者』は人知れず暗躍する。
それが彼の生きがいだった。
半日経った頃、ショウヤとライラは途中に通った荷馬車に乗せてもらい、どうにか隣町へ辿り着く。
そして、彼らは今公爵の屋敷にて、到着が遅れた謝罪と不審人物の通報を伝えた。
「ほう……なるほど、コルデュークな……」
「知っているんですか? ジェイクさん」
ジェイクと呼ばれる彼は、ショウヤを領主に任命した男であり、その他物資の調達や人脈を広げられるように、冒険家ギルドや信用出来る商人を斡旋するなど、ショウヤにとっては恩人にあたる。
「いや、だが以前、Sランク冒険家の一団が、その名前の商人から魔道具を受け取ったと聞いたことがある。もっとも、違法な商品だったが為に、そのグループはギルドに罰せられたらしいが」
「トップランカーの冒険家でも法に触れる真似をするんだな……」
「はは、むしろ自然だと思うぞ。トップだからこそ、その名声を維持する為に違法な魔道具に手を出す。同じく低ランクの冒険家も、どんな手を使ってでも上位ランクに上がりたいが為にズルをする。……人の心理は楽なほうへ向かいがちだ。真に強き者は偽りに埋もれ、なかなか目立たんものさ。ショウヤ、お前のようにな」
と、急におだてるジェイクに頬を掻きながら目を逸らすショウヤ。
「褒めてもなんも出ませんよ? 仕事を受けるくらいしか」
「それで充分おだてた甲斐があるとも。私はお前を評価している。強いて注意するなら、素直過ぎる性格がアダとなって、人に騙されないようにするべきだ。特に女には気をつけろ。気をつけねば簡単に篭絡されてしまうからな」
「いや、そんなこと、あるわけないでしょうよ!」
ショウヤはじっと自分を見つめるライラに目を逸らしながら返す。
「はっは、冗談だよ。ともかく、もし気になるなら冒険家ギルドで話を聞いてみるといい」
軽くショウヤをからかいながら、ジェイクは仕事の話に戻した。
「それで、今回ショウヤに頼みたいのは、他国民の保護だ」
「……保護?」
「先日、敵国であるグリーフィルに滅ぼされた町、ウィンテラルから数百人この町へ亡命して来たのだ」
「ああ、それは人づてに聞いた事があります。あの国、勢力を拡大させてるみたいですね」
物騒な話だと、他人事のように話すショウヤ。
「そこで、ショウヤには早急に彼らの住む場所を確保してほしい。ウィンテラルの役人とは古い付き合いでな、出来るだけ不自由ない暮らしをさせたいのだ」
「なるほど、まあ土地は余ってるから問題ないですよ」
ショウヤは二つ返事で了承した。
「助かる。では私は簡易的だがテントと食料を手配しよう。今後我が国にも敵国が攻めて来ないとも限らんから、兵士も増やさなければならない。これから少し忙しくなりそうだ」
と、溜息混じりに漏らす。
ジェイクと別れた後、ショウヤは冒険家ギルドへ向かった。
避難民を受け入れる準備もさることながら、コルデュークという人物のことも気になった為。
そこでもはや顔の知れた間柄である受付嬢に尋ねると。
「どうも、お久しぶりです」
「あらショウヤさん、ライラさんも。どうです? 領主の仕事は。最近会う機会が減って皆心配してましたよ」
「まあ、以前の倍は忙しいっすね。あの、それで今日はギルド長に話があって来たんですけど」
ショウヤが言うと、受付嬢は難しい顔を浮かべた。
「ああ……ギルド長は今仕事に追われて話を出来る状況ではないかもです」
「何かあったんですか?」
すると、受付嬢は手招きをし、ショウヤの耳元へ囁く。
「実は昨日、Sランクのジュードさん率いる一団が何者かによって殺害されたんです」
「えっ?!」
ショウヤは目を丸くした。
「彼らがいつも寝泊りしていた宿で首を斬られて……」
それはショウヤも顔を知っている有名な冒険家であり、この国では誰もが認める強さであった。
「そして斬られた彼らの額には、契約違反を犯した者が付けられる焼印が押されていたそうです。『搔き乱す者の粛清』と書かれた血文字と共に」
「かきみだす者……」
それはコルデュークがショウヤと出会う前に起きた事件。
ショウヤは、彼の仕事帰りのついでに絡んだただの遊び相手である。
そのことを、ショウヤは知る由もない……。
とある平野にて。
ショウヤが冒険家ギルドで『搔き乱す者』の正体を思考しているする一方。
当の『搔き乱す者』本人はヘラヘラと笑いながら先行く期待に胸を躍らせる。
「くひひ……さて、次は何して遊ぼうか……」
そう呟き、コルデュークは国を転々と彷徨うのだった。
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次回より新章へ突入します。




