46話 成り上がった転生者
ここはとある小さな農村。
人間や獣人が仲良く暮らし、裕福とは言えずとも、それなりに充実した生活を送っている。
そんな中、ここら辺一帯を取り仕切る領主が馬車に乗ってやってきた。
「あ、ショウヤさま~、またアタシにアヤトリ教えて」
ゆっくりと走る馬車に並走して、小さな子供が領主に呼び掛ける。
「おう、今日の仕事を終えたらな」
「絶対だよ! ライ姉ちゃんも!」
と、その隣に座る少女にも声をかけた。
「ええ、いい子で待っててね」
ニコリと笑いかけながら手を振り、子供に見送られながら馬車はそのまま隣町を目指す。
その道中で、ふと。
「なあライラ、俺、思うんだけどさ」
「いかがされました? ショウヤ様」
キョトンとしながら少女は尋ねる。
「いや、なんで俺なんかが町の領主やってんだろうなって」
「当然の結果ではないでしょうか?」
首を傾げながらライラは再び問う。
ポロと別れてから数ヶ月、ショウヤは目まぐるしく移り変わる自分の生活に必死で順応していた。
最初は世界の仕組みをまるで理解してなかったショウヤは、以前助けた元奴隷達に日常的な知識を教えてもらい、なんとか今日まで生きてこれたのだった。
その中でも特に重要だったワードは、この世には魔力の源、マナを消費して使う魔法スキルと、自身の気を練って技を出す身体スキルがあるということ。
いずれも、使用するにはゲームさながらの技名を唱えることが主な発動条件であり、体内に蓄積している魔力と気が消耗していると使用出来ない世界。
そんな一般的な戦闘知識を得て、ショウヤは手始めに冒険家に登録した。
そこからは勢いを増して生活が軌道に乗り、高難度の依頼も難なくこなしていくうちに彼の知名度はグングン上がってゆく。
そして紆余曲折を経て、彼はこの地域に身を置く事となった。
「学校もまともに通ってなかった俺が、土地の管理者になっていいもんなのか?」
「学び舎に通えなかった私でも、こうしてショウヤ様の秘書をやらせて頂いておりますので、学歴の有無は関係ないかと思います」
「まあ、前の領主もアホみたいな税金を取り立てていたからな……俺が前いた国だったら完全に違法だよ」
などと、ショウヤはしみじみと愚痴を漏らす。
ショウヤ達が現在通っている農村は以前、近くの森で大量発生した魔物の群れの被害に遭っていた。
そしてその時、この地域の領主をしていた者は、農村に護衛を付ける代わりに高額な税金を村人に強要していたのだ。
命を守る為には領主に税を払う他ないが、代わりに生活は苦しくなる一方だった村人達。
そんな時にショウヤ達がこの地を訪れ、町を襲う魔物の群れを退治したことで村人達は救われたのだった。
さらに明るみになるのは、魔物の群れが大量発生した原因は、領主の魔物寄せの魔道具によるものだったということ。
マッチポンプのように自作自演で、領主は金を巻き上げていた。
ショウヤはそれを摘発し、前領主を捕らえたことで隣町に住む公爵家の者に気に入られ、平民ながらにして新たにこの地の領主となったのだった。
「にしても……ショートショートに爆速する俺のサクセスストーリーが逆に恐くなるよ。俺、今まで上手く事が運んだ試しってあんまりなかったからさ……。今でも夢なんじゃないかって思うんだ」
「もっと自分に自信を持って下さい。ショウヤ様は善意で皆を救って下さいました。皆あなたを慕っておられるのですよ。……勿論私も」
と、ショウヤに真っ直ぐな好意を示すライラ。
彼女は元奴隷であり、以前ショウヤが奪った奴隷商人の荷馬車にいた少女である。
ポロとショウヤの助けによって自由の身となった彼女は、他の元奴隷達と別れた後も彼に付き従い、生涯彼の従者になる事を望んだ。
「ですから、ショウヤ様がこうして領主様になられたのも当然の結果です。なので、ショウヤ様はもっとご自身を肯定しても良いと思うのです」
「肯定ね~……」
過去の自堕落な生活、無断欠席しがちだった学生時代を思い返し、まともな自分が想像出来ないでいたが……。
「ま、善処するよ」
素直に自分を認めてくれるライラに心なしか気が楽になった。
こんな自分でも、誰かの役に立っているのだと、そう思えたから。
そしてショウヤは転生したての頃を思い出す。
善意で駆け付けてくれた、ヒーローのような小柄な獣人を。
「……あいつにまた会いたいな」
今度はポロにちゃんとお礼を言おうと、そう思い。
と、そんな折。
ふと前方に目を向けると、馬車道のど真ん中に腕を組み、彼らの行く手を阻む男が一人。
「ん? なんだあいつ」
長身長髪で、こちらを見ながらニタリと粘着質な笑みを浮かべる男。
その場から退く気のない男に、仕方なくショウヤは馬車を停め、男を注意する。
「おいあんた、そこに立たれると通れないんだけど……」
しかし男はショウヤの言葉に反応を示さず、代わりに自分の要件を優先させた。
「初めまして、新入り君。どうよ? この世界にはもう慣れたか?」
その男の問いに、ショウヤは驚いた様子で返す。
「あんた、まさか……」
「ああそうとも、俺も君と同じ転生者だ」
そう告げる男からは、底知れない不気味な気が漂う。
「俺はコルデューク、世界各国で手広く商売をするしがない行商人だ。よろしく、岳葉 翔也君」
そのべったりと吸い付く視線から、その口角を歪ませた口先から、身震いするような危機感がショウヤを襲った。
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