45話 それぞれの想い
夜も更け、人々が寝静まった頃。
「まさかオーグレイさんが死んじまうとはな」
「ええ、あの人には攻略部隊に推薦されるよう、色々と手引きしたのですが」
セシルグニムのとある裏路地にて、聞こえてくるのは、裏で暗躍する愚物俗物の声。
そんな闇夜にはびこる集団の前に、一人の男が近寄った。
「やあラルド、こんなところで密会かな?」
「っっ!」
現れたのは、騎士団長レオテルス。
騎士の正装ではなく、町中に溶け込めるよう普段着の姿で彼らの前に立ちはだかった。
「……団長……どうしてここに?」
そして尋ねるのは、騎士団に身を置くオーグレイの部下、ラルド。
「俺は怪しいと思った者には徹底的に調べ上げる癖があってね、案の定、お前をマークしていて正解だったよ」
表情こそ穏やかではあるものの、彼からは凄まじい殺気が放たれていた。
「ひっ……!」
「お前は陛下が一人になるタイミングを狙って催眠魔法を使い、陛下に不正な部隊メンバーを登録させた。ティータイムの紅茶に神経毒を盛り、催眠魔法を効きやすくさせたのだろう? 普段の陛下なら些細な変化も見逃さないだろうが……その日お茶を淹れたのが可愛い愛娘だったら気持ちも緩むのかも知れない。それを狙ってお前は茶葉に神経毒を混入させた……姫様を利用して」
レオテルスの考察はすべて的を得ていた。まるで見てきたかのように。
言い逃れの出来ない状況に、ゴクリと唾を飲み込む。
打開策を考えているうちに、レオテルスは腰に下げた剣に手をかけ。
「ま、待って下さい! 自分はただオーグレイさんに言われてやっただけで……」
「御託はいいから」
と言って、もう片方の手に担いでいた大袋をラルドに放り投げた。
疑問に思いながらも受け取った袋の中を見つめると……。
「うわああああ! なっ、えっ、ドートン……?」
それはオーグレイの部下の一人、ドートンの遺体が入っていた。
「一応、彼からも洗いざらい吐いてもらってな。お前はまあ、確認みたいなものなんだ」
平然と兵士の遺体を持ち歩く彼の異様さに腰が抜け、その場にへたり込んだ。
他の仲間は危険を察知し、全速力でレオテルスから逃げる……が。
フッ、と消えたように瞬間的な移動術で、レオテルスは逃げた男達の前方へ先回りし。
「悪いがこの現場を他の者に知られると面倒なんだ。死んでくれ」
音もなく、ただの一振りで全員の首を刎ね飛ばした。
「ひ、ひぃいいいい!」
そして彼はゆっくりラルドの前に近づき。
「お前達の情報源は?」
切っ先を突きつけ有力な情報を吐かせる。
「……コルデュークという、闇商人です……」
「ふむ、ドートンも同じことを言っていたな。その者の居場所は?」
「分かりません……様々な国を転々としているので」
「そうか、ありがとう、もういいぞ」
「へっ……?」
その言葉と同時に、ラルドの首はぽとりと地面に落ちた。
何事もないように剣をしまい、レオテルスは再び来た道を戻ると。
その前方に、竜人の男が立っていた。
「派手にやったな、レオテルス」
「バルタか、此度の任務ご苦労だった」
「今更団長面すんじゃねえよ、城では一度も顔を見せなかったくせに」
溜息を吐くバルタは、地面に転がる死体に目をやると。
「なんで城の処刑台じゃなく、こんな場所で人目を避けながら殺ったんだ?」
「どうということもない、ただ彼らの血で城を汚したくなかっただけだ。ここなら人通りも少なく、翌朝には肉食鳥が食い尽くしているだろうからな」
と、バルタに告げる。
「うはは、もう四、五年になるか……お前がセシルグニムの騎士団に入団して。なんだ、長い事潜伏しているうちに情が湧いたか? この国に」
「そういうわけじゃない。単にこいつらの性根が気に食わなかっただけだ」
バルタは「そうかい」と微笑を浮かべながら。
「なあ、レオテルス、もしお前が望むなら、俺達との繋がりを断って、このまま騎士団長として生きていく道も――」
「バルタ」
言いかけたところで、レオテルスは剣の切っ先をバルタに向け中断させた。
「俺がお前の仲間でいるのは、いずれお前が世界を変えるという信念を持っているからだ。そして俺がこの国の騎士団に所属しているのも、お前の夢を後押しする為。だがもし今お前の信念が揺らいでいるならば、俺はこの場でお前を斬り捨てるぞ」
バルタを睨み付ける眼光は、本気の殺気を帯びていた。
すると、バルタは腹からこみ上げる武者震いに笑い出す。
「うはははっ、安心しな、俺は今も昔も変わらねえよ。くだらねえ王族貴族に略奪好きな戦闘狂、人道を無視した科学者に金しか目の無い領主様。そんなゴミ共を一掃して、新たな革命を起こす夢は、今もずっと抱き続けている。だからこれからも俺を信じな」
そしてバルタも、嘘偽りのない真っ直ぐな目をレオテルスに返した。
彼の言葉に納得したのか、レオテルスは静かに剣を収めると。
「そろそろ城に戻るよ。あまり長居するのも怪しまれるからな」
「おう、お勤めご苦労さん。俺らはまたしばらく別の国を回ってるぜ」
と、手を振るバルタに振り返ることなく、レオテルスはそのまま去ってゆく。
それを見送った後。
「さて、あいつの期待に応える為にも、頑張りますかね」
バルタも彼に背を向け、互いに別の道へ消えていった。
それから二日経った頃。
「ポロ、本当にここに残るつもりなの?」
メティアは魔導飛行船の搭乗口から、皆を見送るポロを心配しながら問う。
「うん、しばらくは仕事も出来ないし、せっかくだから休みを満喫するよ」
と、メティアに笑いかける。
今回の仕事が失敗したことは、ポロ達が働く運送ギルドにも話が伝わっていた。
攻略部隊の瓦解に加え、国の王女の参入、そして彼女を危険に晒してしまった今回の作戦。
少なからず国に被害が出た事で、飛行士側に罪はないものの、世間的に代表者がいくらかの責任を負う事が社会の目を納得させる理由になると上が判断した。
よって、船長であるポロはしばらくの間飛行士としての仕事を受けられなくなってしまったが、ポロは落ち込むことなく笑顔を見せる。
「王様の計らいで良い宿屋に連泊出来るし、当面の生活費も支給してくれるからね。しばらくは遊んで暮らせるよ」
尻尾を振りながら喜ぶポロに、メティアは溜息を吐いた。
「免許停止処分を食らっているのに、図太い子だね……」
『それがポロの長所でもある』
と、さり気なくタロスも話に加わる。
「タロスはどうするの? その体」
半人半蛇獣にえぐられた木製の体は、土属性の魔法で補強してあるものの、万全に体を動かせる状態ではなかった。
『知り合いに優秀な木彫り職人がいる。そこで新たなボディーを見繕ってもらう予定だ』
「そっか、治る手立てがあるんだね」
タロスの言葉にポロは一安心した。
と、そんな話をしていると、飛行船の中から一匹の猫が駆け付けポロに飛びつく。
「んみゅ……ミーちゃん?」
ゴロゴロと喉を鳴らしながらポロに頬ずりをする猫は、絶対に離れまいと強引にポロにしがみつく。
「……そうだね、ミーちゃんは僕の守護者だもんね」
そう言って、ポロは猫を抱きかかえる。
「それじゃあみんな、少しの間休職するけど、その間の仕事頑張ってね」
名残惜しむ船員達を代表して、メティアはポロの頭を撫で別れを告げる。
「絶対帰って来なさいよ? それから毎日手紙送るから、ちゃんと返してね」
「うへぇ~、それはめんどくさいな~」
「おいこら」
「ウソウソ、ちゃんと返すよ。……じゃあね」
そう言って、彼らは別れた。
一介の飛行士である彼らが巻き込まれた今回の騒動。
新たに浮上した転生者の存在や『世界の支柱』の秘密。
この一件をきっかけに、彼らは世界の真実に近づいてゆくこととなる。
ご覧頂き有難うございます。
今回で一章は終了となります。
次話からは幕間を挟んだのち新章に突入しますので、宜しければお付き合い頂けると幸いです。
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