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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第一章 世界の支柱、『黒龍の巣穴』攻略編
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44話 任務の後に


 日の照らす朝方に、なんとも似つかわしくない闇の化身、黒龍。

 巣穴から帰還した攻略部隊は、入口まで送ってくれた彼に礼を述べると。


『……いずれまた来い。たまにであれば、我が巣に眠る鉱石の一部をくれてやろう』


 気まぐれなのか信頼なのか、彼はそう口にして、威風堂々とした立ち振る舞いで再び巣に戻っていった。


 黒龍を見送ったポロは一呼吸置いて振り返り。


「さ、僕達も帰ろう」


 穏やかな笑みで皆に言う。




 結果的に魔鉱石を回収することは叶わず、任務は失敗。

 仲間うちでの裏切りと思いがけぬ強敵を前に、数人の犠牲も出てしまった。


 魔物がはびこるこの世界において、人の死は珍しいものではない。

 昨日まで何事もなく他愛のない会話をしていた者が、今日にはもういなくなる世界。

 そんな残酷な世界に身を置いていると、少なからず死の嘆きは希薄になってしまう。


 それでも。

 絆を深めた仲間の死は、胸をえぐられるような辛さがあるのだ。


 自分を庇って死んでいった者、望んだ死を迎えられなかった者、その彼らに向けて、アルミスはポロと共に祈った。

 安らかに天へ昇ってほしいという願いを込めて。


 黙祷が済んだ後、ポロは気を落とすアルミスの頭を撫で。


「弔いが終わったらね、笑顔でいるのがいいんだって、僕のお姉ちゃんが言ってた。彼らの分まで思い切り笑って、精一杯生きていくのが、生者に出来るこの上ない手向けだって」


 暗い顔を浮かべるアルミスに、慰めの言葉を贈った。


「…………そうですね、努力します」


 罪悪感はあれど、やりきれない思いはあれど、アルミスはポロの言葉に倣って無理にでも笑ってみせた。

 自分がここに来なければと、自己嫌悪に圧し潰されそうになりながらも。

 精一杯に。














 それから数時間後、ようやく彼らはセシルグニムへと帰還した。

 そして今は謁見の間にて、サイカはこれまでの事をロアルグ王に伝える。


「……私からの報告は以上となります」


「そうか……娘の件、加えてオーグレイの件は私の失態だった。皆にも多大なる苦労をかけてしまったな。本当にすまない」


 そう言うと、ロアルグはその場で頭を下げた。


「っ! 陛下、頭をお上げ下さい。此度の騒動はオーグレイの愚行が原因です。その他、転生者なる者達の介入もありこのような結果となりました。ですので陛下がお気になされる事はございません!」


 と、サイカは訴えるも、ロアルグは首を振る。


「いや、部隊編成を決定したのは私だ、その事実は覆らん。皆にも私から詫びたい。のちほど、出来る限りの謝罪金を渡そう」


 皆にそう告げるロアルグだが、帰還した一同に、素直に喜べる者などいなかった。


 決して後味の良い結末ではない。

 大がかりの作戦で、得たのは人が抱えられる程度の魔鉱石。

 それとオニキスから受け取った『反魂石』だけ。


 未知なる敵の情報を知れたことを良しとするか……しかしそれにしてはあまりにも釣り合わない損害。

 セシルグニムの現状は、振り出しへ戻った。













 場面は変わり、飛行船乗り場にて。


 攻略部隊の皆が解散した後、バルタは一人、見慣れた船の前に歩み寄ると。

 そこにはすでに、眼鏡をかけた青年と、無表情な黒髪の少女が立っていた。


「よう、ノーシス、ナナ、出迎えとは殊勝な心掛けじゃねえの」


 ヘラヘラと軽いノリで二人に声をかけるバルタ。


「魔鉱石の回収、失敗したそうですね」


 ノーシスと呼ばれた青年は、指で眼鏡の位置を修正しながらバルタに返す。


「うはは、耳が早いな。おう、厄介事が重なってな、危うく俺も死ぬところだったぜ」


「そのわりには元気そうですが?」


「あ~まあ、色々情報は手に入ったしな」


 そう言いながら、二人の元へ顔を近づけ。


「お前がくれた情報通り、『世界の支柱』に眠る魔鉱石は規格外の代物らしい。そして、それには転生者も関与していた」


 声量を下げながら二人に告げた。

 そしてバルタはナナと呼ぶ黒髪の少女に目を向け。


「悪いナナ、お前を研究施設に売り飛ばした奴の情報は聞き出せなかった」


 面目ないという表情で、彼女に謝罪した。

 するとナナは首を振り。


「……いい。バルタが無事で、良かった」


 口数少なめに、バルタの頭を撫でながらそう言った。


「よせ、ガキじゃあるまいし」


 ナナの手を払い除けると、今度はノーシスに目を向け、愉快気にダンジョン内での出来事を話した。


「そういやお前と同僚の船長にもかなり世話になったぜ。さすがはフリングホルンの飛行士だ。場数を踏んでやがる」


 ノーシスは眼鏡の位置を修正すると。


「ポロ・グレイブス……ですか。彼は戦闘部隊でもない一介の運び屋ですが、まあ、冒険家時代に培った経験があるのでしょうね。良くは知りませんが」


 と、あまり興味なさそうに淡々と返す。


 そして早々に話を変え。


「それはそうと、これからどうします? 一応飛行士としての立場上、お二人を明日の朝までに水の都、アスピドに送り届ける依頼を受けているんですが?」


 無駄な時間を省きたいノーシスはバルタに催促するが。


「ああ、悪いなノーシス、もう少しここにいさせてくれ。あいつに一言挨拶しておきてえんだ。城の中じゃ全く顔を出さなかったからよ」


 バルタは遠くに見える城を見ながら、搭乗を促すノーシスの予定を変更させる。


 ノーシスは「やれやれ」とぼやきながらも、手帳を取り出しスケジュール調整を書き記した。


「そういうことなら、僕も羽を伸ばすとしますよ。最近仕事に追われてロクに休めてなかったので」


 そして、彼はスタスタと町のほうへ去って行った。


「相変わらず時間の管理に厳しいなあいつ。ナナ、お前はどうする?」


「……バルタと、一緒にいる」


「そうかい、なら飯でも食いに行くか」


「行く」


 バルタは溜息混じりでそう返し、二人もノーシスに続いて町へと向かった。





ご覧頂き有難うございます。


次話で一章がラストを迎えます。

その後、数話の幕間を挟んだのち新章に突入致しますので、ご覧頂けるのと嬉しいです。

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