41話 決戦 気高き王者、黒龍【1】
「……戯れ?」
黒龍の条件に、一同は困惑する。
『なに、ただの腕試しよ。今より日が昇るまでの間、この我から一本取ってみせよ』
と、黒龍は愉快そうに告げた。
ポロは「ふむ」と口に手を当てながら。
「武器の使用は?」
その条件に異議を示すことなく受け入れた。
『何を使っても、どんな手段を用いても構わん。束になってかかって来るがいい。ただし、我を攻撃した者には容赦なく反撃はさせてもらうぞ』
「分かりました」
あっさりと頷くポロに、リミナは心配そうに駆け寄る。
「ちょっとポロ、どうするつもり? こんな勝ちの見えない要求を呑んで」
「どのみち断っても僕達黒龍さんに食べられちゃうだろうし、元から選択権なんてないよ。まあ、少しの間延命したと思えば儲けものだよね」
「死のカウントダウンが始まってるのに楽観的すぎない?」
と、まるで恐怖しないポロにリミナは逆に不安になる。
だがそんなポロに賛同する者も。
「面白いじゃねえか。竜人も元を辿ればこの黒龍の子孫に当たるらしい。ご先祖様と戦えるなんて機会、滅多にない事だぜ?」
バルタは嬉々としてこの勝負を楽しむつもりでいた。
「あんたは黙ってなさいよ! 二人共、この状況が怖くないの?」
リミナの訴えも虚しく、二人は黒龍の元へ近づいてゆく。
「怖くないわけじゃないよ。けど、それしか道がないなら怖気づいてもしょうがないでしょ?」
「ああ全くだ。可能性がゼロじゃないならとにかく行動してみるべきだぜ」
そう言って、二人は黒龍の眼前へ跳躍した。
ポロは双剣を取り出し、斬撃を繰り出す。
「【双剣の牙】
それに合わせるようにして、バルタも拳に炎を纏わせ、黒龍に殴りつける。
「【滅びの炎】!」
二人の強力な一撃は、たしかに黒龍の顔面に直撃した。しかし……。
『ふははっ! 軽い軽い』
黒龍は傷一つ付かず、反撃に口から青い炎のブレスを吐いた。
「っっ! 【半人半蛇の鱗】」
「【竜血の滾り】!」
咄嗟にポロは防御魔法を唱え。
バルタは体のリミッターを外した身体強化を行い、それぞれブレスを回避する。
しかし、黒龍の吐く熱量は凄まじく。
強靭なエキドナの鱗を溶かし、炎に耐性のある竜人の体をも焼き付けた。
わずか一撃にして体制は崩され、二人はその場に倒れる。
『これでも加減したつもりだが……まさか死んではおらんだろうな?』
全身黒焦げになった二人を見下ろしながら、まだ息があることを確認すると、黒竜は追撃で前足を振り下ろそうと上体を上げる。
すると、突如地面から氷塊が生み出され、それは黒龍の足を覆うように拘束した。
『……む、これは』
黒龍が背後を振り返ると、いつの間にか死角に回り込んでいたサイカが地面に手をつき、黒龍の巨体を囲うように冷気を生み出していた。
そして。
「【氷晶の檻】」
周囲を巨大な氷柱が覆い、黒龍の身動きを封じた。
そして、サイカと同じく背後に回っていたリミナが彼女に問う。
「サイカ、氷で槍作れる?」
「なんだ、臆していたわりにやる気ではないか」
リミナの要望に応え、サイカは地面から一本の槍を生成した。
「あいつらの言う通り、怖気づいてもしょうがないからね。ここで全力を出さなきゃ生き残れない。ならやるしかないでしょ」
地面に刺さった槍を引き抜くと、動きを封じられた黒龍の頭上へ飛び上がり、魔力を込めて槍を振り下ろした。
「【聖なる槍】!」
光属性を付与した槍の刺突を脳天に直撃させるリミナ。
しかし、それでも黒龍に傷をつけることは叶わなかった。
『悪くない判断だぞ娘よ。我は体質的に光が苦手であるからな。しかし残念、根本的に威力が足りてないのだ』
と、黒龍は氷塊に囚われた体を捻り、物理で檻を崩壊させると。
頭を振り上げ、頭上にいたリミナを振り落とした。
「うっ、ちょっ……!」
どうにかサイカの近くで着地するも、黒龍は追撃で尻尾の薙ぎ払いを繰り出す。
即死級の一撃は、二人まとめて避ける間もなく振るわれた。
その刹那――。
「【五重防御結界】!」
危険を顧みず二人の元へアルミスは駆け寄り、強固な五枚のバリアを展開する。
一枚、二枚、三枚と、瓦割りのように打ち抜いてくる横薙ぎは、五枚を破ったところで威力が弱まり三人は致命傷を逃れた。
それでも無傷とはいかず、黒龍に薙ぎ払われた三人は岩盤へ叩き付けられる。
「ぐっ……姫様、何故来たのですか?」
「はぁ……はぁ……みんながやられちゃうと思ったら、咄嗟に体が動いたの」
そして、アルミスは頭から血を流しながら、皆に向けて治癒魔法を唱える。
「【広域治療】」
それは広間全域に広がる治癒魔法。
三人だけではなく、扉の近くにいた兵士達も、倒れたポロとバルタにも治癒が届く上級魔法である。
「また……無茶したわね……」
リミナはそう言うと、打ち付けられた体を起こし、アルミスを庇うように前に立つ。
「あんたは戦闘に慣れていないんだからむやみに飛び出さないこと。前衛はアタシに任せてあんたはサポートに回って。アタシが絶対に守るから」
「はい!」
彼女に信頼をおくリミナは、もはや足手まといとは思わなかった。
ただ単に、彼女に危険が及ばぬよう自分が盾になると決めて。
『ふはは、涙ぐましいな。自らが我の的となり、エルフの娘を庇おうとしておるのだろう。人族とはずる賢いわりに実に仲間意識が強い。孤高な我では考えも及ばぬ行動だ』
黒龍はリミナの後ろを庇ったような構えに、嘲笑する。
と、その時。
突然黒龍の元へ一本の短剣が放たれ、その首元へ深く刺さった。
『ぐふっ……?』
不意に受けた攻撃に、放たれた方角へ振り返ると。
「ごめんね黒龍さん。逆鱗を攻撃されるの、嫌いだよね?」
そこにはアルミスの治癒魔法を受けてどうにか戦線復帰したポロの姿があった。
『……小僧』
竜種の首元は皆共通して鱗が逆さに生えている。
ポロが攻撃した箇所は、真っ直ぐ生えた鱗と、逆に生えた鱗の境目の部分。
いかなる攻撃も通さない強靭な鱗に守られている黒龍とて、その一カ所だけは脆く、細い刃なら簡単に貫ける。
ポロは、黒龍が油断する隙をずっと狙っていた。
「けど、これで一本取ったよ」
負傷しながらも笑みを浮かべるポロは、ルールに則り勝利宣言を告げる。
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