38話 謎の空間に眠る魔鉱石
気が付いた先は、星々が輝く夜景色のような場所だった。
ただ不思議なことに、そこは上も下も横もすべて、全方位が夜空に包まれたような。
どこが足場なのかも分からない、夜空にたゆたう星のように、自分達も辺りを浮遊しながら彷徨う感覚に陥る。
「……なんだこの空間は。部屋全体に浮遊魔法が展開しているのか?」
足場のない浮遊感にサイカは戸惑いを見せる。
だがその先に見えた七色に光る結晶に目を奪われ、脱力したまま宙を漂いその巨大な結晶へ近づいた。
「まさか……あれが『世界の支柱』に眠る魔鉱石なのか?」
こんな不可解な場所にあるとは思いもしなかったサイカは、そのひと際輝く水晶の元へ向かうと、恐る恐る手で触れてみる。
「……触れただけで感じる。この魔鉱石の中に膨大な魔力が宿っていると」
改めて魔鉱石の力のすごさを実感するが。
その時、突然隣りに現れたアルミスに違和感を覚えた。
「姫様?」
彼女の表情に生気はなく、ぼうっとしながらただ一点、魔鉱石に心を奪われた様子でペタリと体を張り付けていた。
「ああ、素敵……なんて神々しい光なの……わたくしは……ここへ来る為に、この場所で一つとなる為に生まれてきた…………」
およそ正気とは言えない彼女の反応にサイカは心配になる。
「姫様、念願だった『世界の支柱』の魔鉱石を間近で見られて喜ばれる気持ちは分かりますが……その、少し様子がおかしいのは気のせいでしょうか?」
すると、サイカに向けてうっとりとした顔を浮かべ。
「サイカ~、私今とっても幸せなの。もうすぐ世界の神様と一つになれるのだから」
まるで別人のような言葉を発しながら笑いかけるアルミス。
その様子に、不安な気持ちが駆り立てられた。
「……姫様、それはどういう……」
と、サイカが尋ねた時。
彼女達の背後から呼び掛ける声が聞こえた。
「今すぐ王女様を連れてそこから離れるんだ」
声の主は、先程まで戦っていたオニキス。
彼の突然の参入に、一同は警戒態勢をとる。
「あんた……もう回復したの? どんだけしぶといのよ!」
再びまみえる強敵に、リミナは声を荒げ威嚇するが。
「そんなことより、見て分からないか? 王女様は今その魔鉱石に篭絡されている。すぐに引き剥がさないと、命枯れるまで生命力を奪われるぞ」
オニキスの敵意のない反応に疑いながら、サイカは彼の声に耳を傾ける。
「どういうことだ?」
「その魔鉱石は特殊でね、強いマナに反応して対象物を取り込む性質を持つ石なんだ。特に全てのマナ属性を持った、マナの塊たる王女様なんて大好物だろうね。ほうっておくと、数分としないうちに王女様は干からびるよ」
オニキスの助言により再びアルミスに目を向け、恍惚の笑みを浮かべる彼女を慌ててサイカは引き離した。
「離してサイカ! どうして邪魔するの?」
「お気をたしかに! 謗りなら後でいくらでも受けますので!」
その様子にオニキスは安堵の息を漏らし。
「そう、それでいい。王女様を人柱にすることは、お互いにとって不利益だろうからね」
「人柱……?」
と、リミナは問う。
「昔の伝承で聞いたことはなかったかい? 『世界の支柱』で生贄を差し出すことで神を降臨させる話を」
「オーグレイも同じようなことを言っていたけど……まさか、実話なの?」
核心に迫る話に、オニキスは首を振る。
「実際は神じゃなく、その魔鉱石に詰まった膨大なエネルギーが拡散するだけさ。それだけで周囲の大地は爆発的な成長を遂げ、近くの生き物は強大な力を手にすることが出来る。たった一人の犠牲によってね」
人柱の話、『統一する者』の存在。何故オーグレイが執拗にアルミスを最深部へ連れてこようとしたか、その理由にリミナは気づいた。
「だからアルミスを連れてきたのね……自分がその力の恩恵を得る為に」
そして、改めてオーグレイに憤りを感じた。あの男は、初めからアルミスを生贄にするつもりだったのだと。
「理解してくれたかい? たしかにその魔鉱石は、セシルグニムの危機を凌ぐには十分すぎるマナを含んでいるだろう。だが同時に、『統一する者』の命なくして回収は不可能だ。それでも君達は魔鉱石を手に入れたいか?」
難解な選択を強いられる一向。
当然アルミスを犠牲にすることなど、この場の誰も望んではいない。
しかし、他に方法がないのであれば、今回の任務は徒労に終わるのである。
無言が続く中、オニキスは一つ提案を促した。
「取り引きをしよう」
すると、オニキスは懐から取り出した手の平サイズの鉱石を見せ、リミナにフワリと投げた。
手に取ったリミナは、疑問に思いながらその鉱石を見つめる。
「え、なにこれ?」
「『反魂石』、万能薬に匹敵する程の治癒効果を秘めた魔鉱石だよ。ダンジョン深くにしか生まれない希少な鉱石さ。このエネルギーをセシルグニムの『浮遊石』に吸わせれば、少しは延命の足しになるだろう」
オニキス以外誰もその存在を知らないが、『反魂石』は世界的に流通する魔鉱石とは比べ物にならない程の膨大な魔力がこもっていた。
知る人ぞ知るレアアイテムであり、その価値は金貨百枚に相当する。
「これでどうか手を打ってくれないか?」
その気になれば力ずくでねじ伏せる力を持つオニキスだが、魔鉱石に傷が付くことを良しとしない彼は、派手な戦闘は行えない。
だからこそ穏便に、話し合いで解決しようと取り引きを持ち掛けた。
だがそれでも攻略部隊が魔鉱石を奪おうとするならば、彼は命をかけて無慈悲に殲滅しようとするだろう。
隊を任されるサイカが答えを躊躇っていると。
「サイカ、今回は取り引きに応じるべきだと思うんだけど、どうかな?」
ポロはサイカに近寄り、代わりに答えを絞る。
「もしマスターの話が本当だとしたら、魔鉱石を手に入れる為にアルミスが犠牲になってしまう。それは国の一大事でしょう? それに取り引きに応じなかった場合、きっとマスターは武力行使に出るつもりだよね?」
「……君は思いの外利口だね」
オニキスはポロの冷静な判断に、素直な称賛と共に、いずれ自分らの障害になるのではという不安も生まれた。
「マスターがくれた魔鉱石がどれだけの効力があるか分からないし、なんの力もない石かもしれない。けど、今日明日で国が傾くわけじゃない。猶予はあるんだ、ならここで無意味な争いは避けるべきだと、僕は思うよ」
ポロに諭され、サイカは未だ呆けた様子のアルミスを見ながら沈黙する。
彼女の身の安全が第一とするサイカに、これ以上選択の余地はない。
「魔鉱石ならまた僕達が輸送してあげるからさ。……王様が雇ってくれればだけど」
彼女自身、強硬手段は得策ではないと理解していた。
そして。
「……分かった、取り引きに応じよう」
渋々ながら、サイカはオニキスの停戦の持ち掛けに応じた。
これにより双方が最悪の事態を回避し、無益な争いはここで終戦する。
と、上手く話が纏まった直後だった。
「相変わらず甘いのね、オニキス」
突如オニキスの背後に空間ゲートが開き、現れたのは黒いローブを羽織った女性の姿。
「…………ルピナス」
オニキスと同じ転生者である彼女の介入により、事態は急変する。
ご覧頂き有難うございます。




