37話 魔鉱石の在り処
オニキスが起きる数十分前の事。
しばらく広間を探索していると。
「リミナ、他の者達はどうした?」
姿が見えない冒険家のことが気にかかり、サイカは彼らの安否を尋ねる。
「負傷したバルタを抱えながら、上から来る魔物の群れを掃討してる。統治者級の気配がなくなった途端、魔物が活性化し出したからね。帰路を安全に進めるようにしてくれているの」
「そうか、無事なのだな」
彼女の言葉に安堵するサイカ。
そんな会話を交わしていた時、リミナはふとポロのほうに目をやると。
亡くなった兵士に浄化魔法を唱え終えた彼は、気絶するオニキスの前で何やらプルプルと震えている様子が窺える。
「ポロ、どうかした?」
彼の元へ近づき事情を問うと。
「……なんか、出そう……」
「へっ?」
ポカンとしながら状況を整理するリミナ。
「え、出るって何? おしっこ? いや、さすがに気絶してる人間にマーキングするのはどうかと思うわよ……」
と、若干引いた目でポロを見るが。
「違うよ! 獣人をなんだと思ってるのさ! なんか体から魔力が躍動する感じがして、ムズムズするんだ……」
冗談ではなく、本気でむず痒そうにするポロにさすがに心配になる。
「大丈夫? ズボン下したげよっか?」
「だから違うってば! …………あっ」
すると、言ったそばからポロは手の平から黒い糸を放った。
それはまるでオニキスを拘束するように、網目になった蜘蛛の糸は彼を雁字搦めにする。
「ふぅ……やっと落ち着いた」
「って、あんた何どす黒いもの出してんの?!」
スッキリした表情を浮かべるポロに、突然生み出された蜘蛛の糸。リミナは余計に困惑した。
「これ、何?」
「……多分女王蜘蛛の思念が混ざっちゃったんだ」
「え、それってあの時の?」
「うん、なんか彼女の意思でこの人を拘束させたような気がする」
と、またしても浄化したはずの魂の欠片が自分の中に混合してしまった事態に頭を抱える。
「まいったな……ここ最近、なんでか知らないけど魔物の思念が僕の中に入ってくるんだよ」
「何それ、まさか魔物の魂に体を侵食されているんじゃないの?」
「サイカにも同じようなこと言われたけど、半人半蛇にしろ女王蜘蛛にしろ、悪意を持ってる感じはしないんだ。むしろ僕の手助けをしてくれているような……不思議な感じ」
二体の魔物の思念が混ざったことに体が慣れないポロは、時折体をくねらせながらむず痒い箇所を揉む仕草をとる。
「ダンジョンから出たら聖職者にお祓い頼んだほうがいいわよ。今後の為にも」
「うん、悪化したら考えるよ。だけどほら、僕の為にこの人を拘束してくれたわけだし、悪い事ばかりじゃないみたいだよ」
心配するリミナとは逆に、前向きな思考をもつポロ。
「もう、どうなっても知らないからね?」
呆れたように息を吐きながら、二人はサイカ達の元へ戻った。
そして一同は広間中央に光り輝く魔法陣に目を向ける。
「やはり、どう考えてもここしか怪しい場所は見つからないのだが、魔法陣の起動の仕方が分からん」
サイカもアルミスも魔導学に多少覚えはあるものの、あまりにも複雑に描かれた魔法陣の起動方法など知る由もなく。
「こんなことなら賢者の一人でも雇えばよかったな」
サイカは改めて今回の人選に落胆する。
そんな時、リミナはオーグレイから聞いていた伝承の話を思い出した。
「あのさ……オーグレイが言ってたんだけど、魔鉱石を回収する為には同一人物が全属性の魔力を注ぐことで封印が解かれる……とか言ってたの」
「あいつの言葉など信用出来るか!」
生理的にオーグレイを嫌悪するサイカは彼の話を全否定する。
「うん、アタシも眉唾だと思っていたけど、けどあの男は執拗にアルミスをこのダンジョンの最深部まで連れて行こうとしてたの。アルミスが鍵になるって」
すると、アルミスも先程オニキスに言われた言葉を思い出す。
「……『統一する者』、あそこで倒れている人も、私に対してそのようなことを言っておりました。全属性のマナを扱える私を懸念して襲ってきたのです」
「む……」
アルミスの信憑性の高まる話に、サイカは押し黙った。
「それはあの人にとっても都合の悪いことだから、つまりは魔鉱石の回収に繋がるから、そう解釈出来ないでしょうか?」
そう言うと、アルミスは中央に立ち、地面に両手をついて念じる。
「姫様?」
「……やるだけやってみます。全属性のマナを均等に流し込むイメージで」
アルミスは瞳を閉じて、全神経を集中させた。
――火よ、水よ、土よ、風よ、雷よ、闇よ、光よ……私に力をお貸し下さい。
全てのマナに敬意を込めて、空間の扉に訴えかける。
すると、中央の魔法陣は先程よりも強く光を放ち、それは周囲にいた皆を包み込む。
「ちょっと……これ大丈夫なの?」
突然の強まる発光に、リミナは焦燥を露わにする。
「姫様! これ以上は姫様のお体が……」
止めに入るサイカだが、アルミスに周りの声は届かず。
そうこうしているうちに、眩い光は彼らをまとめて空間転移させた。
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