33話 熾烈を極める
オニキスは服の砂を払うと、地面から二本の剣を模した黒い金属を生み出す。
そして両手で二本の剣を引き抜き、切っ先をサイカに向けた。
「さあ、仕切り直しだ」
疲弊したサイカとは打って変わり、オニキスにはまだ余裕が残っている。
休んでいる暇はない。
サイカは呼吸を整え気を静めると、地面に生み出した氷上に足を踏み入れ【氷刃の舞】を繰り出した。
氷の上をスリップしながら加速させる歩法術で、瞬時にオニキスへと接近してゆく。
「……速いな」
彼女の突進を二本の剣で受け止めると、すかさずオニキスも反撃とばかりに彼女の剣を弾く。
そしてお互い攻防が繰り返される激しい剣戟が始まった。
戦いを見守るアルミス達は、二人の動きを目で追うのがやっとの状態。しかしこれだけは分かる。
「そんな、サイカが……押されてる?」
援護をしたいが、二人のスピードに付いて来れないアルミスはやるせない気持ちになりながら広間の外で彼女を見つめた。
一瞬でも気を抜けば致命傷になりかねない。そんな状況でも臆することなく攻め続けるサイカ。
しかし、ここに来るまで休みなく戦い続けた彼女の体力は限界を迎えていた。
徐々に動きが鈍り、オニキスの振るう剣でかすり傷が増えてゆく。
「あれだけ魔力を消費したんだ、剣を躱すのもやっとだろう?」
鍔迫り合いになると、オニキスはサイカの疲弊した表情を窺い彼女に問う。
「……無駄口を叩けるとは余裕だな。その慢心が命取りになるぞ!」
サイカは鈍る体に鞭打ち、気をたぎらせ無理やり精神を保つ。
だがその時、オニキスは急に片手に持っていた剣を捨て、フリーとなった手でサイカの剣先に触れた。
すると、彼女の愛刀は一瞬にして溶かされ、受け止める刃が無くなった瞬間、オニキスのもう片方の手で剣を振るい、サイカは着ていた鎧ごと胴を斬られてしまう。
「うぐっっ!」
直前で後退し致命傷を避けたが、彼女の切り傷は予想以上に深く。
片膝を付く彼女に、オニキスは切っ先を頭上へちらつかせた。
「終わりだよ、副団長様。ここまでよく持ち堪えたものだ」
「貴様……今のは腐蝕の魔法か? ミスリル製の剣を一瞬で溶解するとは……」
「言っただろう、金属を操るスキルだと。僕の『金属掌握術』はいかなる金属も支配出来る」
と、オニキスは自分の能力を見せびらかすように、溶かしたサイカの剣を薔薇の造花に再構築し、彼女の目の前に突き刺した。
「安心しなよ、抵抗しなければ殺しはしない。僕が用があるのは王女様だからね」
「貴様、何故姫様を狙う?」
「彼女の存在が僕達にとって脅威となるからさ。特に『世界の支柱』にいられるのは危険なんだよ」
オニキスの理由はイマイチ分からない。だが彼の殺気は本物であり、本気でアルミスを手にかけようとしている。
「……オーグレイと言ったか? あそこにいる彼がペラペラと喋ってくれたおかげで未然に防げそうなんだ。邪魔をしないでくれるか?」
そう言って、オニキスは奥にそびえる黒く渦巻いた柱を剣先で差す。
「まさか……あそこにオーグレイが?」
「ああ、下らない言動が癪に障ったからね、ねじり潰したよ」
双方はオーグレイの墓石となった塊を見やり。
「……そうか、どのみち奴は私が斬る予定だった。それに関して心は痛まん」
サイカはそう言うと、彼女の体から魔力が溢れ出る。
「だがな、姫様を狙うお前は看過出来ん。……私はセシルグニムの騎士であり、姫様の盾だ。向かい来る火の粉は全て私が振り払う!」
突如、周囲に冷気がほとばしる。
「【氷晶の庭園】!」
そして彼女が唱えると同時に、地面から無数の氷塊で出来た剣が飛び出した。
「金属が効かぬなら……氷の刃で貴様を斬る!」
オニキスの不意を突き、地面に生えた氷の剣を抜き取りオニキスに斬りかかる。
アダマンタイトの剣でそれを防いだオニキスだが、追加効果の凍結によって彼の剣はたちまち不格好な氷の塊と化し、剣としての機能を失った。
「どこにそんな余力があるんだか……」
剣を投げ捨てながら呟くオニキスへ、サイカは気力を振り絞り猛進。
「うぉあああああああああ!」
死を恐れぬ彼女の闘気は、わずかにオニキスの危機感を揺さぶった。
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