32話 サイカ対オニキス
疲弊したアルミスに、容赦なく襲い掛かる黒い棘。
そんな時、散っていた兵士達は一斉にアルミスの元へ駆けつけた。
「我々の最後の仕事だ! 姫様をお守りしろ!」
皆息を合わせたように、アルミスを囲い陣形を整える。
「やめて! みんなが巻き添えを受けてしまいます!」
しかし兵士達は聞く耳を持たず、決死の覚悟でオニキスに武器を構えた。
「あなたは国にとって大切なお方、姫様の為ならばこの命、惜しくはありませぬ!」
「姫様を庇い散って行ったギルバードに報いる為にも、命をかけて姫様をお守りします」
「ギルバードって……あっ……」
血だまりとなって倒れる男の名に、再び悲しみがこみ上げるアルミス。
「彼のおかげで目が覚めました……。我々は国の為にこの身を捧げた戦士であると。……彼の為にも、ここで逃げるわけにはいかない! 罪深き我々に、死に場所をお与え下さい!」
オーグレイにそそのかされ、操り人形のように従っていた不甲斐なさを恥じ、セシルグニムの兵士達は命を燃やして王女の盾となる。
そしてアルミスに攻撃が向かないよう、一人、また一人と兵士達はオニキスに突撃して行き、その都度兵士達に刺し傷斬り傷が増えてゆく。
「お願い、もうやめて! 私の命ならいくらでもあげるから!」
目の前で負傷する兵士にただ見ていることしか出来ぬ自分。戦場に慣れていないアルミスには耐えられなかった。
「なりません! あなたは絶対に死なせない!」
それでも止まらない兵士達に、淡々と迎え撃つオニキス。
数は圧倒的に有利だが、まるで勝ち目のない戦い。
絶望的な戦況で、確実に死へのカウントダウンが迫る。
そんな時だった。
「【一閃凍牙】!」
突如、広間の入り口から氷の斬撃が地を走りながらオニキスへ放たれる。
不意を突かれたオニキスは、直前で前方に鉄の壁を生み出し波動の斬撃を相殺した。
……奥で立っていたのは、息を切らしながらオニキスを睨み付けるサイカの姿。
「セシルグニム騎士団の、副団長か……強そうなのが来たな」
厄介なのが現れたと、オニキスは攻撃を止めサイカと対峙する。
周りの兵士達は、絶体絶命の修羅場で現れたサイカに、心なしか希望が湧き出た。
「副団長……よくぞご無事で」
それはアルミスも同じであり。
「……サ、サイカぁぁああ!」
緊張の糸が緩み、アルミスは号泣した。
気高く、厳しく、何より強い彼女の姿に安堵して。
「皆、遅れてすまない。道中、頑丈な樹木の壁が幾つも張られていてな。破るのに手間取った」
そう言いながら、負傷しながらもアルミスを守ろうとした彼らを見やり。
「……よくぞ姫様を守ってくれた。お前達は国の誇りだ」
めったに褒めない副団長は、彼らの身を挺した姿に労いの言葉を贈った。
それだけで、彼らの士気はすこぶる盛り上がるのだ。
「副団長っ……!」
「あいつは私が相手をする。お前達は姫様を安全なところへ」
「はっ!」
総員は、アルミスを連れて入り口へ退避する。
「逃がすと思うのかい?」
しかし黙って見ているオニキスではなく、彼らの進行方向へ再び棘を出そうと地面を踏むが……。
「【一点突飛】!」
その直前、サイカは地を蹴り、放たれた弓矢の如く風を切りオニキスへ刺突を繰り出した。
「っっっ!」
目にも止まらぬ速さで距離を詰めてきたサイカに反応が遅れ、オニキスはアルミスに攻撃するはずだった黒い棘を諦め、代わりに自身の前方に壁を生み出し刺突を防いだ。
金属の壁は、巨大な円錐状に変形する程の衝撃を受けるが、彼女の刺突は今一歩オニキスには届かず。
「気を練って威力を高める身体スキルか……。アダマンタイトを変形させるとは恐れ入ったよ……」
世に知られる最大の硬度を持つ鉱石、アダマンタイト。それを自在に操るオニキスは、サイカの一撃に寒気を覚える。
「お前こそ、なんだそのスキルは? 見たところ土属性の魔法と似ているが……」
「金属を操るスキルだよ。僕にとってはこのアダマンタイトも体の一部だ。最高の硬度をほこりながら、スライムのように伸縮自在であり、そして砕けぬ最強の矛として振るうことが出来る。こんなふうにね」
するとオニキスは金属の壁を巨大な刃に変形させ、水面から顔を出すサメの背ビレのように、その刃は地を泳ぎながらサイカに接近した。
「ぐっ……」
サイカは剣で刃を受け止めるも、アダマンタイトの刃の猛進は止まらず、砂塵を立たせながら壁際まで押し出される。
岩壁に叩きつけられたサイカは、刃と岩壁に挟まれ押し潰されそうになるも。
寸前で軌道を反らし、刃を岩に衝突させた。
そしてオニキスの攻撃を凌いだサイカはすかさず反撃を加える。
「【氷柱の槍】!」
自身の手先から氷の槍を生み出し、オニキスへ向けて放った。
不意に飛ばされる遠距離攻撃だが、オニキスはそれをも瞬時に反応し、金属の壁で防ぐ。
だが、壁を解除した先に彼女の姿はなく、違和感を覚えるオニキス。
「消えた? ……いや」
ふと上を見上げると、大きく剣を振り被りながら落下するサイカの姿。
彼女は剣にありったけの氷塊を付与し、巨大な大剣と化した刃を叩きつける。
「【巨剣の氷刃】!」
突然の急襲に回避が遅れ、苦肉の末にアダマンタイトでドーム状の壁を作るが、振り下ろされるサイカの大剣は壁を凹ませオニキスに強烈な一撃を与えた。
それは地面を砕き地割れを起こす衝撃。同時に冷気が拡散し、辺りは氷上に包まれる。
オニキスがいた場所に、巨大なクレーターが生まれた。
「はあ……はあ……」
多くの魔力と体力を消費したサイカは、息を切らしながら生死の確認をとる。
だが、その場には何もなく。
すると突然、背後から地面が砕ける音が聞こえ、サイカは振り返ると。
「……今のは危なかった。地中に逃げなければやられていたよ……」
そこには傷を負ってはいるが、未だ動ける余力を残したオニキスが立っていた。
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