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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第一章 世界の支柱、『黒龍の巣穴』攻略編
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31話 欲にまみれた男の末路


 初動のない地中からの攻撃に怯え、兵士達はとにかく逃げる。

 中には広間から出ようと入り口に駆け抜ける者もいたが……。


「うぐぁああっ!」


 扉から出る直前で、地中から飛び出す黒い棘が鎧ごと腹部を貫く。


「まだここから出て良いと、許可していないよ?」


 オニキスがそう言うと、黒い棘はゆっくり兵士の腹部から引き抜かれ地中に戻る。

 そして貫かれた兵士は、大量の出血と共にその場で倒れた。


「くっ……!」


 アルミスはいつ飛び出すか分からない棘に注意を向けながら、負傷した兵士の元へ駆け寄り治癒魔法を唱える。

 オニキスは彼女の邪魔をするでもなく、ただ傍観しながら、彼はオーグレイの元へ近寄った。


「君よりも、王女様のほうがよほど肝が据わっているね。騎士として恥ずかしくないのかい?」

「てめえ……てめええええ!」


 激高するオーグレイは負傷した手で剣を握り、力の限りオニキスに振るった。


 しかし、剛腕から繰り出される刃をオニキスは片手で受け止めると。

 それと同時に、鋼で出来た刃はドロリとした液状と化し、熔解された。


「な……なんだよそりゃあ!」


「【金属掌握術メタルグラスプ】、僕はあらゆる金属を分解、変質させるスキルを扱える。だから僕に刃物は無意味だ」


 そう言うと、オニキスは溶けた剣の刃を変質させ、レイピアのような細長い刃を新たに錬成し、オーグレイに突き刺した。


「あがあああ!」


「僕が生まれ変わった際に授かったスキルでね。どうやら『固有能力ユニークスキル』と言うらしい」


 オニキスの言動から何かを察したオーグレイは、オニキスに手を向け制止を促した。


「ま、待て! お前、まさか『転生者』という奴か?」

「へえ、僕らのことを知っているのかい?」


 オーグレイの言葉に興味を示したオニキスは、刺し殺そうとしていた手を止める。


「ああ……コルデュークという男を知っているか? 俺に魔道具や裏の情報を提供してくれる商人だ……あんたの仲間だろ?」


 するとオニキスはつまらない事を聞いたような溜息を吐き。


「『搔き乱す者』、コルデュークか……。どうりで『統一する者(フルコンダクター)』の情報を知っているわけだ。なら、ここに来たのは国の為じゃなく君の私情だろう?」


 突如、地中から触手のような黒い金属が飛び出し、オーグレイの全身に巻き付き締め上げる。


「んんん! んんっ!」


 体中雁字搦(がんじがら)めにされ、呼吸すら出来ない状態だった。


「アレと一緒にされるのは、正直虫唾が走るな……」


 やがて黒い金属はオーグレイの体を覆い尽くし、なおも渦を巻きながら巨木のように伸び続ける。


「そろそろ目障りなんだ。消えてくれ」



「~~~っっっ!」



 そして、オーグレイはそのまま黒い塊の中で絞め潰された。


 その様子を見上げるアルミスは、オニキスの無慈悲な惨殺に、オーグレイとはまた違った不気味さを感じた。


「オーグレイ……」


 決して許されざる者ではあったが、目の前で苦しみながら最期を迎えた彼の死に様にアルミスは同情の目を向ける。


 静まり返った広間で、オニキスはアルミスを見つめる。


「さて、君達の処遇だけど……これ以上巣穴を荒らさないと約束するのなら、生かして帰そうと思っていたんだ」


 その言葉に、何人かの兵士達は安堵の息を漏らす、が。


「けれどアルミス様、僕はどうしてもあなたに確認しないといけない事がある」


 すんなり帰すわけではないと知ると、再び兵士達に戦慄が走る。


「……なんでしょう?」


「あなたは本当に『統一する者(フルコンダクター)』……つまり、全属性のマナを操る力を持っているのかどうか……それを伺いたい」


 ゴクリと唾を飲み、緊張の汗が滴る。

 早くなる鼓動を抑えながら、アルミスは正直に答えた。


「その名に聞き覚えはございませんが……たしかに私はすべての属性に対する魔法を扱うことが出来ます」

「……そうか」


 それを聞いたオニキスは、残念そうに頭を抱え、言い辛そうにアルミスに返す。


「あなたの心は聖女のように綺麗だ。さぞかし部下からも慕われていることだろう。だから、そんなあなたにこんなことを言うのは非常に心苦しいのだけれど……」


 突如、オニキスは殺気を持った眼光を突きつけ。


「世界の為にも……あなたには死んでもらいたい」


 アルミスに死の宣告を告げた。


 すると、同時に地中から再び棘が現れ、無数の棘は徐々にアルミスへ近づき。

 その体が串刺しにされる直前。


「姫様っ!」


 その刹那で、一人の兵士がアルミスを突き飛ばし、彼女に向けられるはずだった棘はすべて、その兵士が肩代わりとなって受けた。


 それはアルミスに携帯食を渡した男であり。


「あ……そんな……」


 全身を貫かれた男は、引き抜かれた棘と同時に噴水のように血を噴き出した。

 アルミスは血相を変えてその兵士に駆け寄ると。


「ああ……ご無事で……何よりです……」


 口から大量の吐血を吐き、もはやその男の視界は皆無だった。


「……姫様、お逃げ…………下さ……」


「喋らないで! 今……今治療するから! 【高速治癒ラピッドキュアー】」


 アルミスは一心不乱に治癒魔法をかけるが、傷は塞がらず。

 そんな時に、追撃で地中から棘が飛び出し、アルミスの肩をかすった。


「あぐっ……!」


 治癒魔法は中断され、さらに膝にも黒い棘が突き刺さる。


 オニキスは休む暇など与えてはくれなかった。彼の正義の為、非情になってでも確実にアルミスの息の根を止めなければいけない。そう思い。


 転がりながら棘を躱すアルミスだが、それを先読みして進行方向に棘を生み出し。


「うああっ……!」


 その棘はアルミスの脇腹を貫いた。


「はあ……はあ……」


 焦る彼女がふと前方に目をやると、そこにはアルミスを庇って重傷を負った兵士が出血多量で息絶えている光景が映る。


「う……くっ…………」


 悔しさで地面に項垂れる。しかしそれでもオニキスが攻撃の手を止めることはなく、逃げ回るアルミスを徐々に弱らせていく。


 金属を操る男は、執拗なまでに己の正義に準ずるのだった。





ご覧頂き有難うございます。


明日はお休み頂きます。

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