30話 転生者オニキス
最深部の広間でオニキスと対峙する王女と国兵士。
オニキスは光の中心からゆっくりと近づき、はっきりと顔を認識出来る位置で立ち止まると。
「これは驚いた。そこにおられるのはセシルグニム第一王女、アルミス様ではありませんか。このような危険な場所に、何故王女様が?」
意外な人物がいることに驚きながらも、物腰柔らかにアルミスに尋ねる。
「わ、私は…………」
と、言いづらそうにしていると、オーグレイが割って入ってきた。
「おい、その前にこっちの質問に答えてもらおう。お前は何者で、何の為に『黒龍の巣穴』に侵入した。ここは我が国が所有する土地だぞ、許可のない者が勝手に踏み入っていい場所じゃねえんだ」
ここぞとばかりに法を掲げるオーグレイに軽い溜息を吐くと。
「国が勝手に決めた領土を我が物顔で独占するとは……甚だ図々しいな」
「何?」
「ここは本来神に祈りを捧げ、厄災を鎮める為に建てられた聖地だ。なのに、国の利益の為、付加価値の為、そんな私欲にまみれた俗物が後を絶たない。君達も採掘目当てで来たのなら、他を当たってほしいのだが?」
依然落ち着いた表情で、オニキスはオーグレイに返す。
すると、オーグレイは懐から片手拳銃を取り出し、銃口をオニキスへ向ける。
「ごちゃごちゃ成り立ちの話してねえでよ、お前の目的を言えっつってんだろ、なあ!」
そして躊躇なく引き金を引き、オニキスの耳にかするギリギリで弾丸を飛ばした。
「オーグレイ、やめなさい!」
「ちっ……!」
血気盛んなオーグレイをアルミスが止める。
その様子をオニキスは表情一つ変えずに、ただ周囲に群れる者達を眺めていた。
「なるほど、大体分かった。現在この隊の実権を握っているのは君だな?」
オニキスはオーグレイを指差す。
「王女様は手を拘束されているところを見るに、無理やり連れて来られた。よって意見を通す力はない。そして他の兵士の恐怖した目、おそらく君の横暴に耐え兼ね、精神がすり減っているような様子が窺える」
「だったらなんだってんだ? いいから目的を言えよ、次は当てるぞ!」
と、その時。
突然オニキスが地面を踏むと、離れた位置にいるオーグレイの足元から、黒い金属で出来た棘が飛び出し。
「あがっ! て、手が!」
地中より突き出た棘は、拳銃を持っていたオーグレイの手の平ごと貫通させた。
砕けた拳銃と、手の平から流れる血が地面に飛び散る。
「ひ、姫様っ! 治癒、治癒魔法を!」
慌ててアルミスに駆け寄り、彼女に治療を促す。
「じっとして……【身体修復】」
アルミスの高い魔力効果で、瞬時に手の傷が塞がると、オーグレイは歯をむき出しにしながらオニキスを睨み付ける。
「てめえ……よくもやってくれたなぁあああ!」
するとオーグレイは荷物袋から瓶を取り出し、人工精霊を解き放つ。
「オーグレイ、争うのはやめて!」
「黙れガキ! こっちは負傷したんだ、反撃する理由はあるだろ!」
アルミスの静止も空しく、オニキスへ指を向ける。
「もう構わねえ! 火の精霊、あいつを消し炭にしろ!」
オーグレイが命じると、瓶から解放された赤い球体は燃え盛る業火へと変貌し、渦を立たせながらオニキスへ向かっていった。
「……当たり前のように人工精霊を使い捨てるんだな君は。使役される側はたまったもんじゃないだろう」
そう言いながら、接近する業火の渦に飲まれる直前。
「酸素がなければ火は燃えない」
突如オニキスの手が黒く変色し、金属のような肌に変わると、その手で渦の中心にある小さな球体を掴んだ。
すると、激しく燃えていた業火は瞬く間に縮小していき、火の精霊ごと完全に消失した。
「なっ……なんだと!」
辺りが静まると同時に、オニキスの手は元に戻る。
「火を発生させる核を手の中に閉じ込め、酸素を無くしたんだ。火力の低い精霊で助かったよ」
「ふざけんなよ! それを一体買うのに金貨一枚かかるんだぞ!」
激高するオーグレイに、オニキスは殺気を込めた目を向ける。
「精霊の価値も知らない愚物め。まあいいさ、どのみち君には死んでもらう予定だ。君は価値がないからね」
鋭い眼光がオーグレイに突き刺さり、体の芯から震え上がる。
「ひっ……おい、お前ら、全員で俺を守れ! 俺に指一本触れさせるな!」
相手を支配するブローチを力一杯握りしめ、皆に命令を下す。
兵士達は目の前のオニキスに怯えながらも、勝手に動く体でオーグレイを囲むような陣形をとった。
さらにオーグレイは爆薬ポーションを取り出し、一人の兵士に渡す。
「これを飲んで、あいつに突っ込め!」
「嫌だ! 死にたくないぃいいい!」
涙を流しながら命を乞う兵士の意思など構わず、無理やり兵士の口にねじ込もうとするオーグレイ。
だがその寸前、地中から飛び出た金属の棘によりポーションの瓶が割れ、オーグレイの皮膚に降りかかった。
「ぐあああっ、皮膚が……ただれて……」
慌ててタオルで拭き取るも、発火効果を促す液体によって腕の皮膚が剥がれた。
「おいガキっ! 何ぼさっと見てやがる! さっさと俺の腕を治療しろ!」
もはや敬意もなくアルミスに怒鳴るオーグレイだが。アルミスは断固としてその場を動かず。
「その前に皆さんの呪いを解きなさい。そうしたら治癒魔法をかけてあげる」
「はぁあああ?! こんな時にふざけんなよ! そんなことしたら俺が集中的に狙われるだろうが!」
「この人達があなたを守る筋合いはありません。あなたも国の騎士ならば……曲がりなりにもサイカと同じ階級にいた者ならば……誰かを盾にせず正々堂々戦いなさい!」
他者を犠牲にして逃げ続けるオーグレイに、アルミスは我慢ならない怒りを覚えた。
自分以外は使い捨ての駒のように吐き捨てていく彼の横暴がたまらなく許せなかった。
すると、自分の思い通りに行かないオーグレイはカッとなり、盾になっていた兵士の一人を思い切り殴り飛ばす。
「この……ハーフエルフがっ! 汚れた混血種がっ! お前なんぞの為に毎日毎日頭を下げる事がどれだけ苦痛だったか!」
ビクリと、差別の言葉が飛び出たことにアルミスは動揺する。
「お前が全てのマナを扱える『統一する者』じゃなければ、こんな場所まで邪魔なお荷物抱えて来るかよ! さっさと人柱になって、俺の力になれよ!」
オーグレイは溜めに溜めた不満が決壊し、アルミスに秘密にしていたことまでぶつける。
「フル……コンダクター? それに人柱とは?」
疑問に思うアルミスだが、質問には答えてもらえず。
「目と鼻の先なんだ、もう少しで力が手に入るんだ! こんなところで死んでいい人間じゃないんだよ俺はっ!」
辺りに怒鳴り散らすオーグレイだが、次の瞬間。
ズブリ、と、地中から伸びた鉄塊により、オーグレイが手にしていたブローチは拳ごと貫通し、破壊された。
「あああああ! また、またぁあああ!」
再び手を貫かれた激痛と、どこから来るか分からない金属の棘に恐怖を覚え、その場でのたうち回る。
「よく吠える男だ。……君達はアレに支配されていたのだろう? 呪いの魔道具は壊してあげたよ。死に場所くらいは自分達で決めたいだろうからね」
オニキスによって自由の身となった兵士達は、一斉にオーグレイの元から散り、彼の攻撃から逃れようと逃げ回る。
「急に賑やかになったな。正直鬱陶しい……」
死への脅威は、未だ消えず。
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