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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
最終章 星の楽園、偽神に抗う反逆者編
306/307

305話 懐かしき姉の声


 ふと耳に残る、最愛の姉の声。

 死後の世界から、自分を迎えに来てくれたのかと、魂だけになったポロは、まるで体がある時のように全身が震えるような気持ちになる。


 ――クル姉……クル姉なの?


『……うん』


 優し気に、そう答えた。

 するとシャロムはショウヤを誘導する。


「私達はこっち。二人の再会を邪魔しちゃ悪いでしょ」


『え……ああ……』


 自分だけポロに別れを言っていないことにモヤモヤしつつも。

 ショウヤはシャロムに連れられるようにしてポロ達から離れていった。



 そして――。


『ポロ、やっと会えたね』


 クルアは再会を喜ぶように、ポロへ声を発する。


 ――ずっと、会いたかった。


『ウチもだよ。……今までよく頑張ったね、えらいぞ』


 イズリスを討ち、世界を救ったポロへ、クルアは労いの言葉を添える。


 ――僕、ちゃんとやれたかな? 人として、ちゃんと生きれたかな?


 不出来な魔物として生を受け、今際の人の子に憑依して。

 混ざり合い、混沌としながらも、獣人として生きてきた数年間。

 そんな自分を誇っていいのか、その権利を与えられるのか。

 自分を育ててくれた、最愛の姉にポロは問う。


 クルアはポロの疑問を払拭するように言った。


『君は、ちゃんと生きたよ』


 偽りない、たしかな言葉を。


『今も昔も、ポロはお姉ちゃんの誇りだよ』


 家族として向けられる、称賛の言葉を。

 他の誰でもない彼女から、一番聞きたかったその答えに。

 心に染みわたるような彼女の声に、涙腺などないはずの精神体から、涙が溢れてくるようだった。


 溢れる想いを胸に、ポロはお願い事をする。


 ――クル姉、僕、久しぶりにクル姉の顔が見たいよ。手に感覚があるならギュってしたい。


 声は聞こえど一向に姿を見せない彼女に、次第に会いたい気持ちが一層高まるポロ。


『急に甘えんぼだね、君は』


 ――姿を見せてくれないかな?


 と、ポロは訴えるが。


『……ごめんね、それはまだ出来ないの』


 申し訳なさそうに、彼女は言った。


 ――どうして?


『ルールがあってね、色々と手続きをしないといけないの。それまでは我慢して』


 すぐ近くにいるのに姉の顔を見れないじれったさにポロは若干落ち込み。

 そんなポロに、クルアは少し間をおいた後。


『ねえポロ、君には二つ、選ぶ道があります』


 唐突に、そう言った。


 ――選ぶ道?


『一つはこのまま天上界の住人になる道。この道を選ぶと、これからずっと、ウチと一緒に天上界での暮らしが待っています』


 ――じゃあそれがいいよ。僕、クル姉とずっと一緒がいい。


 即答するポロだが、クルアは続けてもう一つの選択肢を述べる。


『もう一つは……今一度地上に戻って、人としての生を全う道』


 ――……え?


 そこで、ポロは言葉に詰まった。


 ――どうやって? 僕の体はもう、消えてなくなったんだよ?


『ポロは地上の世界だけじゃない。天上界も救った英雄さんだよ。そんな君を、神様は見捨てない。特例でね、もう一度ポロを死滅する前の体に再構成してもらえるんだって』


 ――…………。


『また、メティア達に会えるんだよ』


 ――でも……それじゃあクル姉とは?


 クルアは困ったように笑う声で。


『ウチとまた会うのは……もう少し先になるかな』


 と、そう言った。


 ――そんな……そんなの……。


 ポロは迷う。

 今自身の死を受け入れれば、クルアと共に、半永久的に天上界での生活が待っている。

 ずっと会いたかった姉と、一緒に暮らせる。


 けれど地上の世界に未練もあるのだ。

 皆にちゃんとした別れも出来ず、残された者達の悲しみも消えない。

 何より、あの頃の生活もポロにとってかけがえのないものだった。


 手放すにはあまりにも惜しい、輝かしい日々。

 しかしその選択をすると、クルアに会う日はまた遠のく。

 今目の前にいるはずなのに、彼女と顔を合わせるのは、自分の命を終えたあと。

 それが、すごくもどかしいのだ。


『ポロ、君の好きなほうを選ぶんだよ。このままウチと一緒に来るなら歓迎してあげる。けど、もう少し地上にいたいなら……神様に頼んで体を作り直してもらおうね』


 どちらかを選ばねばならない、決め難い選択。


『お姉ちゃん、ずっと待ってるから』


 その言葉を胸に。


 ――僕は……。


 迷った末に、ポロは決断した。





ご覧頂き有難うございます。


次回、完結です。

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