301話 イズリス戦、決着
『エドゥルアンキ』上空にて。
未だショウヤとイズリスの戦いは続いていた。
「諦めなさい、ショウヤ。その体じゃまともに動くことすら出来ないでしょ?」
幾多の神器を操作し戦う二人だが、武器の数も操作性も、イズリスのほうがはるかに上である。
ショウヤは幾度となく神器の刃に身を貫かれ、瀕死の重体。
途中、翼を持つバルタと飛竜に乗ったレオテルスが援護に加わるが、ショウヤを上回る数の神器を巧みに操るイズリスの前に二人は重傷を負い、あえなく落下する。
さらには下にいるナナとアルミスで遠方から魔法の援護と、ルピナスの召喚した紅炎の不死鳥で度々身体の治癒を施してもらいギリギリ食らいついていたショウヤだが。
そんな支援を受けながらでも、イズリス相手には傷一つ付けられず、体がただ疲弊してゆくだけだった。
「甘く見ないでね。私はかつて天上界の上層部にいた者よ。仮の体とはいえ、地上人のスペックで私と張り合えるわけないでしょう」
意識が遠のく。
魔剣に乗り、浮遊する力も次第に弱まってゆく。
そんな中、ショウヤの頭の中でシャロムが告げる。
『ショウヤ、一旦退きなさい。体の治療を優先するの』
だが、ショウヤは首を振った。
「ダメだ。今退いたら下にいるみんなに標的を変えられる。俺がここで食い止めなきゃなんねえんだ」
『それであなたがやられたら意味ないでしょ?』
と、説得するも、ショウヤはイズリスから距離を取らず。
命尽きるまで、自らを身代わりにイズリスの攻撃を受け続けるつもりでいた。
「少し黙ってろ……今打開策を考えるから……」
回復の追い付かない体に鞭打ち、再びイズリスと剣戟を交えようと。
彼女に近づいた時だった。
「っっ……?」
ふと、イズリスの背後に新たな【空間の扉】が生まれ。
中から現れる、犬耳の少年。
「ポロ……」
そう呟くと同時、ポロはイズリス目がけ魔法で生成した黒い爪を振るう。
「【双爪斬撃】!」
予期せぬ方向からの両爪の斬撃にイズリスは反応が遅れ。
その一撃で、両翼を斬り落とされた。
「なっ……!」
イズリスに動揺が走る。
塵一つなく消し飛ばしたはずの黒毛の少年が、何故か目の前にいる事実。
絶対にありえないはずだと、高を括っていた。
「どうして……あなたが……」
にもかかわらず、眼前に映るは先程と変わらぬポロの姿。
理解する余裕もなく、ポロの不意打ちを食らったイズリスは、真っ逆さまに『エドゥルアンキ』へ落下する。
そこに待ち構えるは、各々技を繰り出そうと計る仲間達。
「畳み掛けるぞ!」
サイカの声に、皆は一斉に突撃する。
「……天上界に飼われるだけの愚か者共が、舐めるな!」
態勢を立て直したイズリスもまた彼らに対抗し、彼女の周りにさらに増え続ける召喚武器で皆の攻撃を防ぐ。
全員を相手に一歩も引かぬイズリスに、倒れていたバルタとレオテルスも再び参戦し。
この機を逃すまいと、死力を尽くして彼女に向かっていった。
「あなた達はいいわよね? この世界がすべてなのだから!」
命を懸ける皆の特攻に、尚もイズリスは攻防を繰り返す。
「私はこの世界だけじゃない……数百と点在する世界に、平等なる秩序を与えようとしているの。それがどうして分からないのよ!」
向かって来る者を片っ端から弾き飛ばすイズリス。
己の信念は何があろうと曲げぬと、固い意志を持ち。
「私は……私はぁあああああ!」
神器を振り回し、全員を圧倒する。
そんな中、上空では。
「ポロ……良かった、無事だったんだな」
「心配かけてごめんね。けど、時間がないんだ。ショウヤ、一瞬でいいからあの人の動きを止めてくれる?」
ポロの戦線復帰を喜ぶのも束の間。
二人は最後の共同作戦を立てる。
「出来るんだな。お前なら」
「出来るよ。僕は一人じゃないから」
ポロの中に同化する者達に、最後の力を借りる。
自身の体を対価にして得る、強化魔法。
瞬間的に、神の域に届く無限の力。
「【天狼覚醒】!!」
途端ポロの体は白く燃え、全ての能力が跳ね上がる。
「ポロ、それは……」
尋常じゃない魔力量を感知し、ショウヤは察した。
ポロはここで、己の全てを擲つ覚悟なのだと。
ポロは何も言わず、微かに笑みを浮かべる。
「……わかった」
ショウヤもそれ以上追及はせず。
下にいるイズリスへ、自身の最大の魔法を放った。
「【星月の光】!」
その光の波動に、皆はタイミングを合わせて一時イズリスから距離を取る。
「っっ……ショウヤ!」
イズリスは上空を見上げ、落とされる光の柱に、自らも魔法を放ち対抗する。
「【聖なる天罰】!」
空中でぶつかり合う、二人の極大魔法。
技の精度はイズリスが上回り、ショウヤは次第に押されてゆく。
だが、そもそもショウヤはイズリスに打ち勝つ目的ではない。
ただ彼女の動きをわずかに止めるだけでいいのだ。
そのさなか、白く燃ゆるポロは光の残像を残しながら線を縫うように空中を駆け。
そして、イズリス目がけ爪を突き立て、光速のスピードで彼女に突進する。
「【煌光の矢】!」
光の矢の如く、貫く一閃。
「あっ……かはっ……!」
体の半分以上を損壊したイズリスは、力無き声を発し。
魔法で生成した仮の器は、光の粒子となって崩れ出し、
音もなく、彼女は静かに空へ飛散した。
ご覧頂き有難うございます。
あと数話で完結する予定です。出来れば最後までお付き合い頂けると幸いです。