2話 黒妖犬(ヘルハウンド)
宙で飛び回るポロにより、小型飛竜に乗ったゴブリンライダー達は総崩れとなった。
「幼い頃の夢、ゴブリンに先を越されちゃったな……」
などとしみじみ呟きつつ、最後の一体の首を刎ねる。
「別に逆恨みじゃないから勘違いしないで……ねっ!」
と、一掻き。
あっという間に空の敵は一掃されたが、地上にはまだガルムに乗ったゴブリンライダーが十数体。
ポロは生成した【暗黒障壁】を乗り継ぎながら後を追い、その最中に自身の持つスキル【鮮血吸収】で狩ったゴブリンの血を片手に集めてゆく。
そして上空からゴブリンライダーの先頭まで追い付くと、集めた血は巨大な爪を模した腕へと形成され。
「【鮮血の鉤爪】」
ポロが腕を振り下ろすと同時に、巨大な血で出来た鉤爪もゴブリン達に目掛けて振り下ろされる。
そして、大地を割る程の強力な一撃を受けた多くのゴブリンは思考する間もなく切り裂かれ、先頭のゴブリンライダー達がやられたことにより後続のゴブリンは恐怖を覚え、一目散に退却した。
「終わりっ……と」
すると、荷馬車を走らせていた男は馬を止め、ポロの元へと駆けつける。
「いや~どこの誰かは知らんけど、助けてくれてありがとう」
現れたのはポロよりも少し歳上程度の、異国の服を身に纏った若者の姿。
そして彼はポロをまじまじ見つめると、突然興奮した様子で尋ねた。
「え、あれ、その耳、その尻尾……まさか君、ファンタジーの定番、獣人ってやつか?」
「ふぁんたじぃ?」
ポロはキョトンとした表情で彼を見つめる。
「うおおおお! やっぱりこういうの見ると異世界に来たって感じするなぁ!」
「いせかい?」
再びポロが聞き返すと、若者は焦ったような素振りを見せ、はぐらかす。
「ああっ、いやいやこっちの話! っていうかその耳本物なの? 付け耳とかじゃないよね?」
サワサワと、ポロの耳を触る。
「本物だよ……んん、くすぐったい」
ポロはプルプルと首を振りながら若者の手を振り払った。
「ああ、悪い、感動しちまってつい……」
そして若者は、思い出したようにポロに自己紹介を述べた。
「そう言えば名乗ってなかったな。俺はタケバ・ショウヤ、普通にショウヤって呼んでくれ」
「僕はポロ・グレイブス。よろしく、ショウヤ」
お互い名乗ったところで、ポロは死屍累々の道を見渡すと。
「っと、ごめん、話は後で。まずは後始末をしないと」
「後始末?」
ショウヤは首を傾げた。
「うん、ゴブリン達がちゃんと天へ昇れるように、弔ってあげないと」
そう言って、ポロは手を合わせ祈りを捧げる。
「え、ゴブリンってさっき馬車を襲ってきた奴らだろ? あれって普通に魔物なんじゃねえの?」
「魔物だよ」
その姿にショウヤは戸惑うのだ。
「平和な場所で暮らしていた俺が言うのもなんだけど、魔物って人々に危害を加える悪い存在じゃないのか?」
「一概にそうは言えないけど、まあゴブリンはそれに当てはまるかな」
「……弔い、いる?」
するとポロは「気分だよ」と返した。
「彼らも目的があって人を襲うんだ。そして殺されない為に人は抵抗する。だから僕達とは決して相容れない魔物だけど、それでも彼らが死を望んでいるわけではないなら、せめて僕が殺めた者達は僕の手で弔いたいんだ」
ポロの言葉を聞いたショウヤは「なるほど」と頷き。
「じゃあ俺もやるよ、こいつらにいい思い出ないけど、命を大切にしろってのはガキの頃親に言われた」
そう言って、ショウヤは地面の砂を手に取り、三回程額に当てながら砂を落とし、その後合掌する。
「……変わった祈りだね」
「俺が住んでたとこの文化だ。本当は専用のお香を使わなくちゃいけないんだけど、そこはまあ、しょうがねえな」
彼の独特なやり方を不思議に見つめるポロだが、彼なりに死者を弔おうとする姿勢に笑顔を浮かべた。
「ふふ、ありがとう」
そしてポロが再び祈りを捧げると、倒れたゴブリンやガルムの中から光の球体が浮かび上がり、ポロの体へ集約してゆく。そして。
「【霊魂浄化】
そう唱えると、ポロの中から光の粒子が放出され、それは静かに天へと舞い上がって消えた。
そばで見ていたショウヤは「ほぉあ〜」と呟き。
「これが噂の魔法ってやつか。思ったより地味だけどなんかすげえな……って、ポロ?」
振り返ると、ポロは顔色を悪くしてその場に膝をついていた。
「おい、大丈夫かよ!」
「……光属性のスキルは、僕の体に合わないみたいでね……使うと気分が悪くなるんだ」
「なのに使ったの? 捨て身すぎだろ!」
と、ショウヤはポロを担ぎ、近くの馬車へと運んだ。
「とりあえず馬車に入れ。薬がないか漁ってみるよ」
「お、お気遣いなく……。そう言えばこの荷馬車って何を積んでいるの?」
と、何気なしにポロが尋ねると。
「あっ……あ~えっと……」
何かを思い出したように、歯切れの悪い返答をする。
「いやその……成り行きで……な?」
「……ん?」
と、疑問府を浮かべながら中を覗くと、そこには数人、首輪と手枷で拘束された奴隷の姿があった。
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