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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
最終章 星の楽園、偽神に抗う反逆者編
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295話 オールドワン戦、決着


 突如現れたエルメルによって、ルピナスの精神は平常心を取り戻し。

 迷いのなくなった彼女は再び立ち上がる。


「エルメル……イズリスに体を奪われたんじゃなかったの?」


「獣人の子が助けてくれたの。私の意識が途切れる直前に、イズリスを私の体から引き剥がしてね」


「そう……ポロちゃんが」


 と、ルピナスは心の中でポロに深く感謝し。



 エルメルは急かすように皆へ告げる。


「ユーカ、みんなもお願い。あの子を助けるのに力を貸して。魔法で依り代の体を作ったイズリスが獣人の子を連れて、今も外で戦ってるの」


 オールドワンと攻防戦を続ける一同は、エルメルの話を聞いて一層戦意が高まる。


「はっ、ポロのやつがそう簡単にやられるかよ」


「ええ。でも、アタシ達も早く加勢に行ったほうがいいわね」


 バルタとリミナは笑みを浮かべる。


「さっきからそう言ってんだよ。こんなとこで足止め食らってる場合じゃねえんだって」


 二人の会話にショウヤも加わり、まるでオールドワンを眼中に入れない素振りを見せていた。


 それが、オールドワンにとって何よりの屈辱であった。


「増長するなよ貴様ら……。私と対等にも渡り合えぬ小僧小娘共が、イズリス様に近づこうなどと考えるな! 貴様らはここで死ぬのだ!!」


 と、オールドワンは最大魔力を振り絞り、大剣を掲げると。

 周囲を粉々に崩す闇の波動を、フロア全体に放った。



「【滅びの天罰(フォール・ネメシス)】」



 触れればたちまち身は焼けただれ、塵の如く消滅する滅びの波動。

 絶望的な衝撃波が皆を襲う、その瞬間だった。



「【全能防御結界フルプロテクション】!」



 光の防御壁が皆を包み込み、オールドワンから放たれる波動を遮断した。


 その魔法を付与したのは……。


「……姫様?」


 サイカは唖然としながら、砕けた魔鉱石の中にいたアルミスに目を向けた。


 彼女だけではない。魔鉱石に囚われていた『統一する者(フルコンダクター)』達が一斉にその拘束から解き放たれ、全員が示し合わせたように、アルミスへ魔力を供給していた。


「よかった……間に合った」


 と、奥でエルメルは安堵の息を吐く。


「……何故だ? 魔鉱石の解除は特殊なコードを入力しなければ解けないはず」


 そして、オールドワンは現状を理解出来ず、自身の渾身のスキルを防がれた事に驚愕していた。

 エルメルはオールドワンの疑問に答える。


「私が下層のコントロールパネルで操作したのよ、オールドワン」


「……エル……何故貴様がコードを知っている?」


「一度イズリスに精神を乗っ取られた時に、彼女の記憶が私に流れてきたの。おかげでこの『エドゥルアンキ』の仕組みは大体理解したわ」


 彼女の中にイズリスの記憶が混ざり合い、その断片から『エドゥルアンキ』の制御を担うコントロールパネルの操作方法を入手したエルメルは。

 その記憶を活用し、魔鉱石に囚われている『統一する者(フルコンダクター)』達の解放を優先した。


「おのれ……イズリス様の知識を……!」


 ただの器としか見ていなかったエルメルに、多大なる嫉妬心を燃やす。

 その知識は、自分にとって喉から手が出る程欲していたもの。

 イズリスの知識を得て、イズリスにより近づきたかった、孤独な魔人。

 女神を崇拝する、狂信的なかつての魔王。


「寄越せ! イズリス様の記憶を一片残らず寄越せ!!」


 狂ったようにエルメルへ襲いかかるオールドワンに。


 皆はそれぞれ、全霊をかけた技を以て彼に放った。


「【紅炎爆破プロミネンスフレア】!」

 バルタが。


「【絶空斬ぜっくうざん】!」

 レオテルスが。


「【絶氷地獄コキュートス】!」

 サイカが。


「【邪悪なる暴食(エビルグラトニー)】!」

 ルピナスが。


「【乱気流一閃(エディ―スワイプ)】!」

 リミナが。


「【朧幻影撃おぼろげんえいげき】!」

 グラシエが。


「【九尾の狐火(タマモ・ヒトボス)】!」

 リノが。


「【必殺両剣フィニッシャークロス】!」

 オニキスが。


 一斉に放ったスキルがオールドワンに直撃する。


「ぐっ……ああああ!!」


 我を見失った彼は、防御する事も忘れ、すべての攻撃を直に受けた。


 壁際に吹き飛ばされたオールドワンは、息も絶え絶えの中立ち上がると。


「よぉ、これで終わりにしてやるよ。オールドワン」


 前方に立つショウヤに、悔しさと怒りが混じった眼光を向け奥歯を噛み締める。

 ショウヤが手を掲げると、オールドワンの頭上に【空間の扉(ポータル)】が生まれ。



「天上界で裁かれろ! ……【星月の光(イシルディン)】!」



 極大の光の柱がオールドワンを包み込み。


「ああ……イズリス様! 申し訳――」


 眩い極光と共に、彼の肉体は跡形もなく消滅した。





ご覧頂き有難うございます。


明日、明後日は休載致します。

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