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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
最終章 星の楽園、偽神に抗う反逆者編
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294話 決戦、オールドワン 【3】


 ショウヤの放った一言にオールドワンは顔をしかめた。


「お前が……監視役? ……ならば、私の前に現れたのも、全ては探りを入れる為だったというのか?」


 鍔迫り合いの最中、オールドワンの剣先が震える。


「違う。俺自身知らなかったんだ。今まで自分のこと、適当に日常を満喫していたごく普通の学生だと思ってたよ。ずっとな」


「……ならば」


「天上界の住人が、感情が芽生える前の未熟な魂を選んで、適当な記憶を刷り込みこの世界に送ったんだとよ。俺も自分の事はよく分かってねえんだ」


 過去の記憶はあらかじめプログラミングされた作り物。

 シャロムの能力に適正のある魂を探して、急場しのぎで転生する事になった、人もどき。

 それがショウヤの正体だった。


「上の奴らが俺をどうするつもりだったのかは知らねえが、少なくとも俺に課せられた使命は、この世界でイズリスを復活させようとしてる者、つまりはお前とハジャに俺を接触させる事だった。俺の目を通して、天上界からシャロムが監視してたんだと」


 と、やけにあっさりとした表情で話すショウヤ。


「天上界の操り人形にされたわりに、ずいぶん冷静なのだな」


 魔剣同士の剣戟を繰り広げる中、二人の会話は続く。


「責めてもしょうがねえだろ。向こうも平和の為に俺という存在を生み出したんだろうから」


「……所詮は私もお前も、オーディエンスを湧かせる為の道化に過ぎなかったわけだ。お前も不運な男だな。せめて感情を持たずに転生していれば、浮世に苦しむ事もなかったろうに」


 ショウヤは息を吐き、否定する。


「そうでもねえよ。感情がなければ、それこそ生きる意味なんてないさ」


 目を背けたい現実もたしかにあって。

 寝て起きればすべてが夢だったと錯覚したい事もあって。

 それでも、生まれなければ出会えなかった者がこの世にいる。

 それがショウヤにとってかけがえのない、大切な記憶だった。


「感情があるから今この瞬間、仲間の為に戦える。ライラの為に体を張れる」


「青臭い正義感を……」


「老兵が若者のバイタリティーを否定すんなよ。地上の人族を否定するお前に、この世界をくれてやるつもりはねえからな!」


 ショウヤがそう言った瞬間。

 奥からサイカとレオテルスが接近し、オールドワンの体に刺突を放つ。


「っっ……しぶとい奴らめ!」


 オールドワンは多数の魔剣を操りサイカとレオテルスの剣を受け止めるが。

 その瞬間、オニキスが懐に潜り、二本の長剣をオールドワンの首元へ突き刺す。


「ぬぐぁあ!」


「あいにく、僕達は個人で戦っているわけじゃない。オールドワン、いくらあなたでもこれだけの人数相手に無傷でいられると思うな」


 そのまま両手を振り切り、オールドワンの首を斬り落とすと。

 瞬時にオールドワンの体はオニキスを蹴り飛ばし、落ちた首から無数の触手が伸び、再び自身の体と結合させる。


「羽虫共! 調子に乗るな!!」


 激高したオールドワンは、彼を取り囲む者達を回転斬りで薙ぎ払う。


「貴様らはイズリス様に害となる虫だ! ここで私が駆逐してくれる!」


 天上界に目を付けられていようとも。

 この先に未来はなかろうとも。

 オールドワンは夢を見続ける。

 自分の信じた女神を勝利に導く為に。


「イズリス様こそが、天上界の頂点に君臨されるべきお方だ!」


 魔剣を操作し、大剣を振り回し、向かい来る者達を片っ端から吹き飛ばす。


「貴様らが邪魔をするなぁあああ!!」


 サイカ達に続いて、リミナとリノ、グラシエにバルタも加わり。

 皆は総力を挙げてオールドワンの猛撃を食い止める。




 そんな彼らの様子を、ルピナスは腰を落とし虚無感に浸りながら見つめていた。


 ――私も、早く参戦しなくちゃ……。


 そう思いつつも、体は動かず。


 ――あれ、でも……私は何の為に戦えばいいの?


 自問自答が頭の中で繰り広げられる。


 ――ナナの為に戦えばいいじゃない。……でも、エルメルはもう、イズリスに取り込まれた……もう、あの子はいない。


 精神に異常をきたした彼女に戦う意志はなくなってゆく。


 ――またエルメルのいない世界で、私はこれからも生きていかなくちゃならないのなら、もう、いっそ……。


 そんなことを思っていた時。

 突然、最深部へ続く奥の扉から声がした。



「ユーカ!!」



 それは紛れもなく、エルメルの声であった。


「……エルメル?」


 一同が振り向く中、エルメルはただ一人、奥で腰を落とすルピナスに向け言い放つ。


「ユーカ、立って! まだ戦えるなら、私に力を貸して」


 イズリスが中にいるわけではない、素のエルメル。

 彼女自身が声を出しているのだと、ルピナスは一目で分かった。


「あ……ああ……エルメル……」


 同時に、ルピナスの瞳から涙が溢れる。

 彼女の無事に安堵して。





ご覧頂き有難うございます。

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