293話 決戦、オールドワン【2】
魔王化により、人族の限界を超えた能力を得たオールドワン。
彼に翻弄され、幾度となく薙ぎ倒される一同は、ルピナスの援護により辛うじて食らいついていた。
「【紅炎の不死鳥】、皆に治癒を。【審判者】、私達に手を貸しなさい」
二体の魔物を召喚したルピナスは、紅炎の不死鳥の力で即座に傷ついた者への治療を施し、審判者に戦況を有利に運ばせるよう命令する。
しかし、審判者に至ってはただ頭上を浮遊するのみで一切動こうとせず。
「この……気まぐれのポンコツめ!」
かの魔物は人の意志に呼応して恩恵を与える。
しかしその基準は敵味方関係なく公平であり、ルピナスの意志がオールドワンに劣るようならば審判者は反応しない。
言わば気持ちの持ちようで審判者に意を示すのだ。
そして今の彼女の精神状態は、万全ではなかった。
「ルピナス、お前は今、精神が乱れているな?」
オールドワンは言う。
「この制御室にお前の友がいないことに焦りを感じている。そうだろう?」
「……エルメルはどこにいるの?」
「もう手遅れだ。つい先程、イズリス様が復活なされたからな」
「っっ!?」
と、ルピナスの精神を煽る。
「つまりはもう、彼女の体はイズリス様と同期したのだ。お前がここへ来た理由の大半は露となって消えたわけだ」
「……そんな」
ルピナスは力なく手に持っていた杖を落とした。
間に合わなかったと、彼女は絶望した。
「その精神では審判者を制御出来まい。貴様らの力ではここにいるナナも、セシルグニムの王女も、何一つ救う事は出来んよ。これが貴様らの限界だ」
言いながら、オールドワンは戦意喪失したルピナスへ剣を向けると。
「【一閃空波】!」
「【一閃凍刃】!」
レオテルスとサイカは同時に地走る斬撃を飛ばし、オールドワンの攻撃を逸らした。
「下らん攻撃だ。まだ分からんか? 貴様らでは私に勝てぬと」
二人の斬撃を弾くと同時に、レオテルスとサイカは左右に別れ、二方面からの刺突を放つ。
「「【一点突飛】!」」
オールドワンはレオテルスの突きを大剣で防ぎ、サイカの突きを片腕で受け止めた。
「何度来ても無駄だ。私に傷一つ付けることは叶わん」
すると、オールドワンを抑える二人にオニキスも加わり。
「無駄ではないさ、オールドワン。僕達は何度打ちのめされても立ち上がる。そして、いつかはあなたに刃が届くよ」
先のゴーレム戦で得た白金の剣を両手に構え、オールドワンへ前進するオニキス。
さらにショウヤも【聖戦武器召喚】を唱え、複数の神器を操り追撃。
「ああ。たとえ死んでも俺がみんなを蘇らせる。てめえの体力が尽きるまでな!」
四人の剣士はオールドワンに一切の隙を与えず、ゴリ押しで攻め続ける。
手数で攻めてきたショウヤ達に対抗する為、オールドワンも魔法で剣を生み出し。
「時間の無駄だと言っている。【円卓の騎士】」
十二の魔剣を操作し四人へ飛ばした。
「イズリス様が復活された時点で貴様らは終わりなのだ。どうあがいても人が神に抗う事など出来ぬ!」
「それはどうだろうな!」
オールドワンの魔剣を自身の魔剣で防ぎながら、ショウヤは告げる。
「あいつは偽の神だろ? なら、人の身でも勝機はあるさ」
「イズリス様を愚弄するな!」
「てめえこそ、ポロを見くびるな!」
魔剣同士をぶつけ合い、二人は鍔迫り合いの中討論を交わす。
「あいつは負けねえんだ。何があってもな。……それに、追い詰められているのはお前らのほうだぞ?」
「……どういう意味だ?」
ふと、ショウヤの言葉に疑問を抱く。
「シャロム・ティターニア……その名前を知っているだろ?」
それは違和感に変わり。
「貴様……何故彼女の名を?」
「今俺の頭ん中にいるのはそいつだ」
やがて焦りに変わった。
「……何故、シャロムが……」
「天上界の住人が絡んでいるんだよ。シャロムも今はそっち側だ」
「っっ!? 馬鹿な!」
オールドワンに動揺が走る。
シャロムの名前が出た事に加え、天上界の住人というワードをショウヤが口にした事にも焦りが隠せなかった。
そして考察する。
ショウヤの話が真実だったとして、シャロムが常にこの場を見張っているのだとしたら……。
「……まさか天上界は、『エドゥルアンキ』を起動させる以前から、私のことを監視していたのか?」
そんな答えが導き出された。
「ああ、そうだよ。正確に言うと、俺がこの世界に転生してきた時からな」
シャロムから全てを聞かされたショウヤは、隠すことなくオールドワンに告げる。
「タケバ・ショウヤ、貴様は一体……」
ショウヤは真実を受け入れて。
靄のかかった記憶の隅を明かされて。
尚も彼は、自身の使命を全うする。
「俺は……天上界から送られた、お前らの監視役だ」
ご覧頂き有難うございます。
申し訳ございませんが、明日は休載させて頂きます。
代わりに明日はポロの過去編を投稿する予定でおりますので、よろしければ作者マイページからご閲覧頂けると幸いです。