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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
最終章 星の楽園、偽神に抗う反逆者編
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289話 失った者、残った者


『エドゥルアンキ』入口まで吹き飛ばされたポロ。

 イズリスに浮遊魔法で浮かせられながら、眼前に映る彼女を見やる。


「僕はあなたの部下にならない。あなたを止めて、僕達の世界を守らなきゃならないんだ」


「守るか……、目的は私も同じなのにね」


 ポロの言葉に、彼女は少し寂しそうな笑みを漏らす。


「あなたは多くの犠牲のうえで成り立つ世界だ。そんなのは認められないよ」


「大掃除をしてフラットにするのよ。複雑に絡み合う『人』の行動指針を私が示すの」


「それじゃあダメなんだ。みんなが幸せにならない」


 ポロは告げる。


「あなたは結局、人の行動を管理するのが面倒だからって、邪魔者を全部排除しようとしているだけさ。それは女神として、ただの職務怠慢だよ」


 ピクリと、イズリスは眉をしかめた。


「言うわね、坊や。けれど、今までずさんな管理の仕方だったからこそ、支配者が増長し弱者が虐げられる歴史が続いたのよ。赤子程度にしか人生を歩んでいない坊やには分からないでしょうけど」


「分からないよ。それでも――」


 ポロがそう言いかけた時。

 突如、奥から光の光線が飛んできた。


 それは真っ直ぐイズリス目がけ直進し。


「……くだらない」


 イズリスは光線を手の平で受け止めた。


 光線が飛んできた方向には、一機の魔導飛行船があり。

 その操縦席の窓から、メティアが視線を向ける。

 先の光線は、彼女が放ったものだった。


 メティアの攻撃により、ポロはイズリスの浮遊魔法から解放され、途端に後退して距離をとる。


 ――ポロ、今のうち。


 そう、メティアは目でポロに訴えていた。

 ポロは静かに頷き、イズリスに続きを語る。


「……それでも、人は互いに手を取り合えるんだ」


 自身の経験で、彼女に語る。


「嫌いな人同士でも、敵同士でも、分かり合えるきっかけはいくらでもある。転生者の人達だって、今はこうして世界を守るために協力している。だから、善悪で人は図れないんだよ」


 そう言うと、ポロはバハムートの力を借り、【次元渡り(ディメンションムーブ)】を発動。

 イズリスの前から姿を眩ませる。


「……さっきと同じ戦法ね。単調な動きじゃ簡単に見切れるわ」


 と、空間を移動するポロに言うと。

 直後、彼女の背後へ空間転移し、鋭利な刃を突き立て回転しながら突進した。


「【螺旋の鉤爪(スパイラル・タロン)】!」


「ほら、思った通り……」


 イズリスは手の平を向け、防御壁を展開すると。

 彼女の側面からも【空間の扉(ポータル)】が現れ、【幻影分身ファントムアバター】で生み出したもう一体のポロが刃を向ける。


「【双剣の鉤爪(クロス・タロン)】!」


「……分身体!?」


 イズリスはもう片方の手にも防御壁を生み出し分身体の攻撃を防ぐ。


 すると、今度は前方から本体のポロが【空間の扉(ポータル)】から飛び出し。

 そのタイミングで、本体と分身体のポロは同時に跳躍。

 そして、皆片腕に闇魔法で生成した猟犬の牙を付与し、イズリスに向けて飛びかかった。


「【三頭犬の牙(ケルベロスファング)】!」


 三体の同時攻撃を直で食らったイズリスは、体中に斬撃を浴びせられ、たちまち魔素粒子が分解される。


「……しくじったわ、やっぱり魔法で作った体だと反応が鈍いわね」


 言いながら、イズリスの体は空気中に溶け消滅した。



 だが、彼女の魂自体が現存している以上、これで終わりではない。

 またすぐに新しい体を作り反撃してくるだろうと予想し、ポロは武器を構えたまま待機する。


 そんな中、敵の消失を黙認したメティアは、魔導飛行船から降りポロの元へ駆け寄る。


「ポロっ……! 大丈夫?」


 心配そうに尋ねる彼女に、ポロは軽く頷くと。


「メティア、飛行船の中にいて。まだ終わりじゃないんだ」


 メティアを巻き込まないよう退避を促す。

 しかし、彼女は気まずそうにしながらその場を動かず。


「メティア?」


「ポロ……ごめん」


 ぽつりと、彼女はポロに謝罪した。


「ミーシェルが……」


 そこまで口にすると、メティアが何を言いたいのか察したポロは、目を閉じ静かに俯いた。


「分かった……。あとで詳細を聞くよ。他に犠牲者は?」


「フォルトさんと……ノーシスもやられた」


「…………」


「さっきショウヤがレオテルスと一緒に来て、あいつに蘇生術をお願いしたんだけど……間に合わなかった」


 皆命を懸ける覚悟はあった。

 だからこそ、生き残った者が憎しみや悲しみに心を支配されるのは今すべき事ではないと、ポロは自身に言い聞かせる。


「そう……分かったよ。メティアだけでも生き残ってくれてよかった」


「そんな……私なんていたところで足手まといにしかならないのに、私だけが生き残っちゃったのよ?」


 ポロは首を振った。


「自分を卑下しないで。これでも僕は今、すごく胸が痛いんだ。みんな大切な仲間だから。そのうえメティアまでいなくなったら、僕はきっと冷静じゃいられなかったよ」


 皆を上手くまとめ上げた、作戦の立案者であるフォルト。


 同じ飛行士の船長であり、彼の義理の弟の体を借りている自分を守ってくれたノーシス。


 姉の形見であり、自分をご主人と呼びいつも支えてくれたミーシェル。



 悲しくないわけがない。必死で押し殺しているだけだった。


「だからメティア、君は飛行船にいて、必要な時は僕を援護してほしい」


 このうえメティアまでも失いたくはない。


 今いる戦場で最も安全なのは、最高硬度をほこる、最新型戦闘機の中である。

 ポロは彼女に生きていてほしいと、切に願うのだ。


「君がいてくれるだけで、僕はまだ頑張れるから」


 その言葉に、メティアは申し訳なさを混ぜながら、そっと頷いた。


「そろそろ来るよ、メティア。操縦席で待機して」


「分かった」


 駆け足で魔導飛行船に戻るメティアと入れ替わるように。

 ポロの前に、再び魔法で体を生成したイズリスが現れた。


「坊や、さっきのような手はもう効かないわよ?」


 それは先程よりも魔力が増幅した、本来の力に近い器。

 おそらく残存する魔力をあるだけ使ったであろうその分身体を見て。


 彼女にも余裕がなく、それ程に本気なのだと、ポロはそう思った。





ご覧頂き有難うございます。


申し訳ございませんが、明日は休載します。

おそらく今月いっぱいまでは週4日ペースでの投稿となりそうです。大変ご不便をおかけして申し訳ございません。


代わりに明日はポロの過去編を投稿致します。よろしければそちらもご覧頂けると幸いです。

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