28話 女王蜘蛛(アラクネ)
「まだ少し自信ないけど、彼女の力を織り交ぜてみようか」
そう呟きながら、女王蜘蛛の頭上まで跳躍したポロは、腕から黒い影を生み出すと。
「エキドナ、力を貸して」
自分の中に残存しているであろう半人半蛇獣の思念に了解をとる。
そしてそれは黒い鞭のように変形し、影をしならせながらアラクネの顔面に打ち付けた。
「【半人半蛇の尻尾】」
強力な鞭打でアラクネをよろめかせると、ポロはアラクネの体でバウンドしながら半回転し、頭上に展開した【暗黒障壁】を思い切り足で蹴り真下へ突進する。
「【直下強襲】」
障壁に触れたことによる闇魔法付与のブースターで、落下速度を高めた追撃。
人型の腹部を貫きながら地面に叩き付ける……が。
アラクネは爪を自身の腹に刺したまま両腕で抱き着きポロを拘束する。
そして口から毒液混じりの吐血を吐き、ポロに反撃を行うが。
「【半人半蛇の鱗】
瞬時に察したポロは、エキドナビーストの力を借り、状態異常を含めた一切の攻撃を防ぐ、鱗のようなベールを身に纏わせ毒液を弾いた。
己の奇襲が失敗するとアラクネは危機を覚え、仲間を増やそうと片腕を伸ばし、召喚魔法を使う動作をする。
「させるか…………【一閃凍牙】!」
しかし、寸前でサイカは居合の構えで剣を抜き、その衝撃で地走る冷気の刃をアラクネへ飛ばし、彼女の片腕を斬り落とした。
目を赤く光らせ、苦虫を嚙み潰したような表情を見せるアラクネは最後の抵抗とばかりに眼前にいるポロを蜘蛛の足で何度も突き出すが、エキドナの防御壁により傷をつけることは叶わず。
ポロは、必死で抗うアラクネを見つめ。
「ごめんね……あとでちゃんと浄化してあげるから、もう楽になって」
最期の言葉を残す。
すると、彼の一切の敵意ない表情を見たアラクネは、もはや抵抗を止め、穏やか顔を浮かべたままその身を預けた。
そしてポロは、アラクネの腹から爪を引き抜き、そのまま彼女の血を吸収すると、片腕に巨大な狼の顔を形成する。
「【鮮血の牙】
せめて痛みのない様、即死させるつもりで巨大な狼の牙をアラクネに叩き付け。
地面に流れる血にまみれ、アラクネは絶命した。
彼女の命が費えたことにより、召喚された巨大蜘蛛達も役目を終え、サイカの氷柱の檻に入っていた蜘蛛は静かにその場から消滅した。
「ポロ、あんた……」
彼の圧倒的な強さを垣間見たリミナは驚きと共に、何故これ程の力を持ちながら一介の飛行士に収まっているのか疑問が生まれる。
そんな時、魔力を消費し過ぎたポロは上体をふらつかせ、下敷きとなっていたアラクネの死骸にバタリと倒れた。
リミナは万全じゃない体でヨタヨタと近づき、血まみれの死骸からポロを引き上げる。
「ポロ、大丈夫?」
「うぇっ、口の中に血が……不味い」
「喋れるくらいなら大丈夫ね」
一安心しながら、リミナはタオルでポロの顔を拭き回復ポーションを飲ませる。
「ふぅ……ありがと、慣れない力を使うと消耗が激しい事が分かったよ」
「慣れない力?」
首を傾げるリミナに「こっちの話」と逸らすポロは。
「なんにせよ、これで浄化魔法が使える」
ふらつきながらも立ち上がり、目の前のアラクネに向け手を合わせる。
「あんたこんな時でも弔うの?」
「望んだ死じゃないだろうからね」
そう言って、ポロは目を閉じ、アラクネだけじゃなくその場に息絶えた兵士達の霊魂も含めて【霊魂浄化】を唱え、ポロの中へ霊魂を集約させ、天へ解き放つ。
そして例によって強烈な目眩を起こしたポロは、再びその場に倒れた。
「もう……起きたり倒れたり、忙しいわね」
結局外にいたはずのポロが何故この場に現れたのか聞けずじまい。
しかし絶体絶命の危機に駆け付けてくれたポロに感謝を示し。
「……ありがとう」
溜息を吐きながらも彼の寝顔に微笑を零して、自分の膝の上にポロの頭を乗せる。
ふと、リミナは周囲を見渡すサイカと目が合うと。
「おい、姫様はどこにいる?」
彼女の言葉でリミナは我に返り、最悪の現状を思い出す。
「そうだ、アルミス!」
尋常じゃなく慌てるリミナの様子に、サイカは嫌な予感を想像した。
「オーグレイに連れていかれたの! あいつ、魔道具で兵士を操って、アルミスを拘束しながら最深部に向かって行った」
「……なんだと?」
かくしてその予感は的中したのだ。
リミナから告げられる、オーグレイの裏切り。そして常軌を逸した彼の行動。
「オーグレイ……そこまで堕ちたか……」
「アタシも油断してたわ。統治者級に気を取られて助けることが出来なかった……ごめんなさい」
サイカは首を振る。
「お前のせいではない。むしろここまで被害が最小限に抑まったのは、お前達冒険家のおかげだ。……後は私がやろう」
そして、自分の荷物を手に取ると、最深部へ向けて歩き出す。
「責任者としての最後の務めを果たそう。裏切者のオーグレイに引導を渡してくる」
「アタシも行くわ」
と、やせ我慢で身を起こそうとする彼女に、サイカは待ったをかけた。
「いや、お前達は皆負傷している。もう少し体力を回復させてからのほうが良いだろう。それに……そこで寝ている犬が目覚めるまで、そいつを守ってやってほしい」
サイカはリミナの膝上で寝ているポロを見やり、彼女に託す。
「道中、そいつに助けられたからな。みすみす死なれると借りが返せなくなる」
不器用に気にかけるサイカを、リミナは呆れたように笑う。
「素直に心配だから守ってほしいとか言えばいいのに」
「別に心配はしていない! じゃあ私は先に行くぞ。回復薬はここに置いておくから、定期的に摂取するようにな!」
そして照れくさ半分で、サイカはその場を去って行った。
残ったリミナは、ポロの頭を撫でながら静かに語りかける。
「ねえポロ、この状況、あんたならどうにか出来る?」
返答のない彼に向けて、呟くように問う。
「アルミスを連れ戻して、魔鉱石を手に入れて、みんなでこのダンジョンから生還するの。ねえ、ポロ…………アタシ達を、助けて」
フルフルと身を震わせながら、自分の弱さに打ちひしがれる彼女。
それでも、恥を凌いででも、この状況を打開する可能性があるポロに懇願するのだ。
深い眠りにつく彼の頭を、リミナはそっと抱きしめた。
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