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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
最終章 星の楽園、偽神に抗う反逆者編
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284話 神の如き力


 意見の相違により対立するポロとイズリス。

 しかし未だ丸腰の彼女に、ポロは武器を構えながらもやり辛そうに静止していた。


「どうしたの、坊や。遠慮しないでかかってらっしゃい」


「だって……戦意がまるでないから気が引けるんだもん」


「素直で良い子ね。やっぱり私のそばに置いておきたいわ」


 言いながら、「けれど……」と、含みを帯びながら続ける。


「許容し難いことが二つあるの。一つは、あなたがハジャの魂を食べちゃったこと。もう一つは、忌々しい創造主の飼い魚を取り込んだこと」


 創造主の飼い魚とは、バハムートの事を指しているのだろうかと思い。


「二人とも、自ら望んだ事だよ。僕の中に、今も生き続けているんだ」


「それが気に入らないの。ハジャは元々地上人の思想に近い感情を持っていたから、私のやり方に後ろ向きな傾向にあったけれど、まさか自分が召喚した子に自らの命を捧げるなんて思わなかった」


 残念そうに、イズリスは語る。


「加えて、あなたの中にいる獣、天王バハムートは私の天敵よ。私が奈落に落とされたのも、その怪魚が奈落への次元を開いた所為だもの」


「それは、多くの人に危害を加えようとしたからでしょ? あなたがどれだけ慈愛を持って人を導こうとしたか僕には分からないけど、あなたに見限られた人が報われないのは、やっぱり可哀そうだよ」


 イズリスはポロの言葉を嘲笑するように鼻で笑いながら返す。


「なら坊やは、あなたの大切な人を奪った者に対しても同じ感情を持てるのかしら?」


 ポロは動揺した。

 もしも姉を、メティアを、自分の大切な仲間を奪った人物が目の前でイズリスに裁かれたとして、自分は今と同じことを言えるのか、と。


「自らの問答で迷うくらいなら、私の考えに異を唱えるのはやめなさい。何が正しいか、誰が正義か、その答えは私が決めてあげる。あなたはただ私に身を委ねて、楽になりなさい」


 されどポロは首を振る。


「それだけは出来ないよ。僕がここで思考を止めたら、みんなの努力が全て無意味になるから」


「そ。なら少し分からせてあげる」


 そう言いながら、突如イズリスは手をかざし、指を拳銃のような型にして、先をポロに向ける。

 直後、イズリスの指先が光り出し。


「【救済の弾丸(ソテリアボリヴァス)】」


 ポロに向けられた指先から光弾が放たれた。


「【暗黒障壁ダークプレート】」


 咄嗟にポロは前方に防御壁を生成するが。

 その光弾は、いとも容易く壁を撃ち抜きポロの胸に貫通した。


「かっ……ぐふ……!」


 まるで防御魔法が役目を果たさず、ポロは急所を撃ち抜かれその場に倒れる。


「はっ……かはっ……」


「苦しそうね、坊や。今私が撃った魔法は、触れただけで魂ごと天界へ還す即死魔法よ。本来あなたがまだ息をしているのがおかしいの。……やっぱりあなた、他にも色々取り込んでいるみたいね」


 苦しみ悶えるポロの、撃ち抜いた胸を見ながら。

 黒い蜘蛛糸が彼の体を瞬時に修復している様子に、イズリスは不服そうに息を吐く。


「ふ~ん、半人半蛇獣エキドナビースト女王蜘蛛アラクネ、それに六頭犬女帝スキュラエンプレスね……。よくもまあ女型魔人ばかり取り込んだこと。この女たらし」


 クスクスと笑うイズリスを見やり、ようやく体を再生させたポロは立ち上がる。


「……僕はみんなに助けられてきた。みんなが僕を生かそうとしてくれた。だから僕は、そんなみんなの気持ちに応えなけきゃならないんだ」


 そしてポロは、イズリスの足元から黒い蛇達を生成する。


「【毒蛇の急襲(ヒュドラレイド)】」


 彼女を拘束すると、続けてその周りに幾つもの【空間の扉(ポータル)】を生み出し。

 中から黒い猟犬の顔を模した波動の連弾をイズリスに食らわせる。


「【幻影の猟犬(ファントムハウンド)


 猟犬牙の乱れ撃ちが炸裂し、辺りが砂塵に包まれる。

 程なくしてポロの攻撃が止んだ頃、土埃から現れたイズリスは。


 まるで無傷のように、笑みを浮かべたままポロを見つめ立っていた。


「う~ん、毒攻撃プラス拘束の二重魔法に加えて、空間操作による魔弾の乱れ撃ち……複合魔法をよく使いこなせているわね。……けれど」


 そして彼女は自身に纏わりつく蛇達に視線を向け魔法を唱える。


「【完全浄化テリオスカサルシー


 途端、黒い蛇は溶けるようにして消えてなくなり、体に回った毒も解毒された。


「ダメよ、坊や。手加減なんてしたら」


 見破られたと、ポロは押し黙る。


「この子の体を心配しているのでしょうけど、情にほだされたら守るものも守れないわ」


 と、たしなめながら、イズリスは瞬時にしてポロへ距離を詰め。

 中指を親指で絞め、ポロの額でそれを弾いた。


「っっ!?」


 見かけは軽いデコピンのようなもの。

 しかしその威力は、ポロの頭蓋骨を砕きフロアの壁まで吹き飛ばす程の威力だった。


「ぐっ……あ……!」


 ポロは額を押さえながら、エキドナの再生能力を借りてジワジワと骨を修復してゆく。


「犬の坊や、私と対立する気なら、せめて本気を出しなさい。これじゃあ準備運動にもならないわ」


 再びポロへ接近したイズリスは、彼のアゴを持ち顔を近づけ。


「それともやっぱり私のものになる?」


 そっと額にキスをした。


 すると、ポロの砕けた頭蓋骨が瞬時に元通りに修復し、痛みも綺麗になくなる。


「これで動けるでしょ? 次は全力で来なさいな」


 ポロとの戦いをまるで幼子の遊びに付き合うかのように接するイズリス。


 生かすも殺すも己の気分次第だと、ポロに見せつけるかのようだった。





ご覧頂き有難うございます。

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