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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
最終章 星の楽園、偽神に抗う反逆者編
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282話 次元を貫く世界の柱


 魔鉱石連なる制御室で、オールドワンとの戦いは続く。

 サイカの剣は折られ、バルタは戦闘不能。


 そして、オールドワンは魔法を唱え、目の前にかがり火の如く静かに燃ゆる火球を生み出す。


「これより、十の聖約に従い行動する。意に反すればペナルティーを負う事になるぞ」


 と、オールドワンは言う。

 彼の唱えた【十戒の聖約(テンコマンドメンツ)】は、周囲に縛りルールを強いて行動を制限する魔法であり、それは時間と共に条件が増えてゆく。


「まず一つ。『地母神イズリス様を敬え』」


 サイカは呆れたように息を吐きながら、【氷晶の庭園(クリスタルガーデン)】によってフロアに生み出した氷剣を一本引き抜き、オールドワンに剣先を突き立てる。


「聖書の一文か? 貴様が偽りの神を信仰するのは勝手だが、望まぬ者に強要をするな!」


 と言った瞬間。

 突如、サイカの体に電流が走ったような激痛が起きる。


「っっ!? ぐぁぁあああああ!」


 たまらず彼女は膝をつき、口から溢れ出る血を噛み締める。


「サイカ!」


 隣で苦しむサイカにリノは治癒魔法をかけ、彼女を庇うようにオールドワンの視線に立つ。


「お前、サイカに何をした?」


「私は何もしていない。その女は聖約にそぐわぬ言葉を放ち、勝手にペナルティーを受けただけだ」


 そういうことか、と、リノは現状を察した。


 下手に行動すれば防御無視の攻撃を受ける。しかし時間をかければ、それだけ状況は不利になる。

 ここで攻めるべきかと、リノは短剣を構えると。


「二つ。『武器を捨てよ』」


 オールドワンが唱えると、周囲に浮遊する火球がまた一つ増え。

 同時に、剣を握っていたリノに、サイカ同様の激痛が走った。


「うぐぅっっ!」


 短剣が地面に落ちる金属音と共に、リノもその場で地に伏した。


「さて、拳闘士でもないお前達に、武器を使わずどこまで抗える?」


「……ずいぶんと余裕だな。時間がないと言っていなかったか?」


 負傷した体に鞭打って立ち上がり、サイカはオールドワンに問うと。


「ああ、もう大丈夫だ。ギリギリ間に合ったようだからな」


 そう言って壁際を指差す。

 その先には、連なる魔鉱石が共鳴し光り合い、一つ一つから魔力が溢れ出る様子が視認できた。


「今度は何をしたの?」


「準備が整ったのだ。次元を貫く世界の柱が」


 直後、周囲に強い揺れが起こる。


「っっ!?」


 空中の要塞全域に、地鳴りのような轟音が鳴り響き。

 そして、『エドゥルアンキ』は世界のマナを吸収し、天地を穿つ巨大な光線を放った。











 グリーフィル平原戦場跡地にて。


「タロス……『世界の支柱』が、また光り出したよ」


『ああ、だが今回は今までとは違うようだ……』


 空と海に同時発射された光線の柱を見つめるアンクロッサとタロス。

 遠目から窺うだけで、ざわざわと寒気を催すアンクロッサの手をタロスはそっと握り。


『大丈夫だ。あいつらは負けない。俺は皆を信じている』


 震える彼女を落ち着かせ。

 近くにいたミュレイヤも、静かに目を閉じ祈りを捧げる。

 渦中にいるであろうサイカとレオテルスに、一筋の希望を抱いて。













『エドゥルアンキ』から放たれる巨大な柱は、近辺にある国からも確認でき、皆が皆、恐怖にも似た胸騒ぎを感じていた。


「アニス様、あれは?」


「ああ、わらわも感じている。あれは……ちとまずいかも知れん」


 アルマパトリア、妖精の森にて。


 森を統べる領主、吸血妖精バーバンシーのアニスは、遥か彼方に見える光の柱に規格外のマナが集約されているのを肌で感じ、世界規模で危機的状況にあるのだと悟った。


「どれ、妖精達もザワついておるようだ。避難勧告でも出してみるか。逃げ場があるか分からんが……」


 その不安は世界中に広まってゆく。











 セシルグニム城にて。


「あなた……」


「大丈夫だ、リースライト。サイカが必ず娘達を救ってくれる。それに、ポロもいるのだ。彼らを信じよう」


 ロアルグ王とリースライト王妃は、互いに身を寄せ、城内から見える光を見つめる。


 幾度となく危機を救ってくれたポロに、二人は祈る。

 アルミスが姉のように慕う不屈の剣士、サイカに二人は祈る。


 娘達だけでなく、皆の無事を、切に願って。













 そして現在、『エドゥルアンキ』最深部に一番乗りで辿り着いたポロは。


 薄暗い通路の中央に見える祭壇のような広間に目を向けると。

 そこには、膝を付きながら静かに祈りを捧げるエルメルの姿があった。


「エルメルさん……」


 彼女の元へ近寄り、声をかけるが反応はなく……。

 ただ、彼女の全身から溢れ出る、白く輝く魔力の気に、ポロは不安を抱く。


 ――意識はある……僕の声を無視している様子でもない。ならこれは?


 などと思考していると。

 途端、エルメルは悶えるように苦しみ出した。


「おっ……ぐぁ……ああ……ああああああ!」


 ジタバタともがき嗚咽する彼女の背をポロは擦り落ち着かせる。


「エルメルさん! 大丈夫?」


「ご……ぅぅううう……」


 徐々に症状が弱まり、荒げていた呼吸も安定してくると。

 エルメルはゆっくりと目を開き、ポロをまじまじと窺う。


「大丈夫? 僕が見える?」


 呆けた様子で無言のまましばらく見つめ合っていると。


 ふと、彼女は笑みを浮かべてポロの頬を優しく撫でた。


「私を心配してくれるなんて……可愛い坊やね」


「っっ?」


 その妖艶な雰囲気に、ポロは違和感を覚えた。


 実際彼女と会話をしたことはない。『冥界の谷底』で見たのも一瞬だけ。

 しかし、何故か本人とは違うような、別の誰かと認識してしまう。


 そして、その感覚は正常だった。


「エルメル……さん?」


 小動物を愛でるように、頬からアゴへサワサワと撫でる彼女は、クスリと笑いながら立ち上がると。


「いいえ、私はイズリスよ。はじめまして、犬の坊や」


 ポロは言葉を失った。

 今一歩間に合わなかったと、呆然としながら彼女を見つめた。


「んん~……四肢が動く感覚、本当久しぶりだわ」


 間延びをしながら体をくねらせ、寝起きのストレッチのように清々しく躍動させる彼女。

 エルメルの体で、エルメルではない彼女。

 イズリスと名乗る彼女。


 ――この人が本当に神様なら……。


 ポロも静かに立ち上がり。

 言葉を選びながら、彼は神なる存在へ口を開いた。





ご覧頂き有難うございます。

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