281話 神を信仰する魔人 サイカサイド
魔鉱石に囚われた『統一する者』達を救う為、偽神の降臨を目論む世界の敵、オールドワンに対峙するサイカ。
「死ぬ前に教えろ、ここにいる者達を解放する方法を!」
「馬鹿を言うな、今この瞬間こそが最も彼女らを必要とする。何せ地上と奈落を繋げる柱を開通せねばならぬのだからな」
限界まで高めた冷気の斬撃を振るいながら攻めるサイカに、オールドワンは大剣でその一切を受け止める。
しかし近接のスピードはサイカが勝っており、徐々にオールドワンの体に冷気の刃が斬り付けられてゆく。
その切り傷は一瞬にして凍り付き、彼の内部へ凍結が侵食する。
「しかし、こと剣戟においては貴様に一日の長があるようだ。その凍剣も厄介だな、一太刀浴びせられる度に私の細胞が凍り付き壊死してゆく」
言いながらも、オールドワンに焦りはなく、笑みを浮かべる余裕さえもあった。
「何がおかしい!」
「いや、『冥界の谷底』で見た時と比べて、まるで別人の動きをしていたものだからな」
不敵に笑いながら、オールドワンはサイカから距離を取ると。
「だが、お前達と戯れている時間はない。早々に退場願おうか」
手にしていた大剣を地面に突き刺し、魔法によってそれを分解する。
分解された大剣はそれぞれ十二本の剣となり、浮遊しながら、一斉に彼女へ襲い掛かった。
「【円卓の騎士】」
全ての魔剣がサイカに突き刺さろうとする直前。
「【氷晶の壁】!」
自身の周囲に氷塊の壁を作り身を防ぐ。
だが、オールドワンの放った魔剣はいとも容易く壁を破壊し、尚も彼女に接近。
サイカは柔軟な体を捻りながら魔剣を回避し、それでも躱せぬものは剣で叩き落とす。
「この程度で……私を止められると思うな!」
叩けど叩けど向かってくる魔剣に、やがてサイカは叩き落とした剣を氷漬けにし捕縛。
同様に残りの魔剣も弾いた拍子に地面へ凍結させ、オールドワンの攻撃を全て防いだ。
「ほう、私の剣を無力化するか……」
と、関心の目を向けるオールドワン。
直後、その背後からバルタは不意打ちで彼の首元目がけ手投げ斧を振るう。
「くたばれよ!」
刃は完全にオールドワンを捉えた。
しかし……。
「なっ……!」
「効かんよ。スキルでもないただの刃など」
オールドワンは首に刺さる刃を防御魔法もなく、生身の肉体でそれを受け止めた。
皮膚に微かな切り傷が残る程度。血も出ていない。
そして反撃とばかりに、オールドワンはバルタの顔を鷲掴みにし。
「【罪の烙印】」
痛みを復元させる魔法を唱え、生を受けてから今まで受けた全てのダメージを痛覚に呼び覚ます。
「がっああああああ!!」
幾度となく死の淵を越えてきたバルタにとって、そのダメージは計り知れない激痛であり。
途端、バルタは泡を吹いて気を失った。
「黒妖犬の少年でない限り、私にとって脅威にはなり得ない」
そう言って、オールドワンはバルタを壁際へ投げ飛ばした。
「舐めるな! 【一点突飛】!」
間髪入れずにサイカはオールドワンに刺突を放ち、彼の胴を貫くが。
オールドワンの表情は変わらず、手ごたえの無い一撃に危機感を覚えた。
一度距離を取る為、剣を引き抜こうと力を入れるが。
「っっ! 抜けない!?」
サイカがどれだけ力を入れても、オールドワンに突き刺さった剣はビクともせず。
その間、オールドワンはサイカの腕を掴み、もう片方の手は人差し指ををサイカに向け、指先から光る高濃度の魔力が彼女を照らす。
「ぐっ……!」
「消えろ、カザミの孫。【天与の光】」
そして指先から高出力の光線が放たれる瞬間。
「サイカっ!」
刹那、横から突進したリノによってサイカは拘束から解き放たれ、軌道から外れた光線は何もない壁へ衝突した。
オールドワンは鼻を鳴らしながら、腹部に突き刺さった剣を抜き取り、へし折った。
同時に治癒魔法を唱え、今まで受けた傷を治療すると。
「むやみに動くな。戯れている時間はないと言ったはずだ。手間をかけさせず大人しくしていろ。私はあの少年を追わねばならぬのだ」
と、サイカ達を放り出しポロが向かった先へ歩を向けるオールドワン。
だが、彼女らが止まる事は無い。
「【氷晶の庭園】!」
サイカはフロア全体に氷結魔法を唱え、地面から無数の氷剣を生み出し。
「【金毛九尾】!」
リノは強化魔法によって、姿の変化と共に能力を向上させる。
「行かせないよ。ポロのところへ行きたきゃ、あーしらを倒してからにしな」
「私らは脅威にならないと言ったな? その絵空事が事実となるか試してみろ」
そしてサイカは遠隔から、先程氷壁で塞いだ扉をさらに分厚い氷塊で上塗りし、決して先には行かせまいと二人は蹶起する。
「……愚者共が!」
依然として己の前に立つ二人を忌々しく思い。
突如オールドワンは魔法を唱え、周囲に紅炎輝く火の玉を生み出した。
「【十戒の聖約】」
自身に挑んだ事を後悔させるべく、全霊を以て二人を迎え討つ為。
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