27話 合流する二人
オーグレイが最深部へ向かってから数時間。
ダンジョンの奥深く、取り残された冒険家達は目の前の魔物に苦戦を強いられていた。
「くっ……オーグレイ、アルミスをどうするつもりなの……」
リミナは無理やり連れていかれたアルミスの安否を気にしつつも、しかし女王蜘蛛の猛攻に手一杯で助けには行けない。
統治者級との連戦なうえ、気の張り詰めた長期戦で、すでに体は限界だった。
粘着質のある蜘蛛の糸を吐き、避けたところを蜘蛛の前足で一掻き。そして上半身の人型の口から吐く毒液のコンボでリミナは全く反撃出来ず防戦一方。
他の冒険家達も援護をするが、アラクネは自身が狙われる方向に頑丈なネットを展開し、遠距離攻撃をすべて防ぐ。
さらに隙あらば熟練者級の蜘蛛を召喚され、冒険家達はその相手をしなくてはならない。
――くそ、足元がフラつく……。もうどれくらい戦っているのか分からない。今が朝なのか夜なのかさえも……。
疲弊する意識の中、必死でこの場を乗り切る方法を考えるが、しかし戦況は悪化する一方である。
「うわあああ! 毒を食らった……誰か解毒薬を……」
「こっちも手が離せねえ、もう少し耐えてくれ…………ぐあっ!」
千剣蜘蛛と猛毒蜘蛛の攻撃に、Aランクの冒険家達は次々と深手を負ってゆく。
――バルタは、こんなのをたった一人で……。
奥で気絶するバルタに目を向けながら、リミナは実力不足な自分を嘆く。
しかしいくら悔やんでもアラクネの攻撃は止まず。
そして、一瞬リミナの気が緩んだ隙を突かれ、前足の尖った先端で胴を斬られてしまった。
「ぐっっ!」
一撃を食らったリミナはバランスを崩し、そのタイミングを見計らったアラクネは追撃で彼女に毒液を吐く。
「う……うあああああ!」
かろうじて直撃を避けたものの、片腕にかすった毒は煙を立たせながら皮膚を溶かしてゆく。
たまらず後ろによろめくと、いつの間にかアラクネに誘導されていたリミナは、背後に張られた巨大な蜘蛛の糸に捕らえられ、身動きを封じられてしまった。
「くそ……こんなところで……」
周りには熟練者級の蜘蛛が二体、そして眼前には統治者級の蜘蛛の女王。
――ああ、ダメだ、完全に詰んだわこれ……。
毒に侵され朦朧とする意識の中、彼女は死を悟った。
オーグレイと彼に操られた兵士は自分らを見捨てて先に進み、増援が来る見込みはない。
薄暗いダンジョンの奥地で散っていくのだと、そう思った。
「【螺旋の鉤爪】
その時、ぼやける視界の前方に、来るはずのない人物が目に映った。
それは、目にも止まらぬ速さでアラクネに突進し、女王の胸元を鉄の爪で貫きながら押し倒す獣人の姿。
「ポ……ロ……?」
言いながら、吐血する自分にいよいよ幻覚が見えたのだと錯覚した。
「リミナ、しっかりして! 助けに来たよ」
アラクネを怯ませ後退させたポロは、蜘蛛の糸に捕らわれたリミナに駆け寄り、爪で糸を切り裂き彼女を引き剥がす。
「毒を受けたの? 解毒薬持ってきたから飲んで」
と言ってリミナの口に解毒ポーションを含ませるが、もはや彼女は飲み込む力もなく。
その間、ソードスパイダーとポイズンスパイダーはポロを敵と判断し、彼に向けて猛進する。
と、その時。
「【氷晶の檻】!」
遅れてやってきたサイカが魔法を唱えると、二体の蜘蛛の足元から氷柱が飛び出し、それは檻のように連なり、蜘蛛達を投獄する。
「ぅぅうう気持ち悪い……なんで多足虫ばかり湧くんだこのダンジョンは。馬鹿なのか」
青ざめながらも二体の蜘蛛の動きを封じると、即座に倒れた冒険家の元へ向かい、回復ポーションを飲ませた。
サイカの迅速な対応により冒険家達は一命を取り留めたが、リミナは未だポーションを飲めず、体は徐々に衰退してゆく。
「リミナ…………口を開けて」
すると、一刻を争う事態だと判断したポロは解毒ポーションを自分の口に含み。
そのまま口移しで強制的にリミナの喉へ液体を流し込んだ。
「んん! ……んむ?」
即効性のある解毒薬がリミナの体に浸透すると、彼女の体はみるみる回復し、意識が覚醒してゆく。
「ぷはっ……はあ、はあ……ポロ……」
「よかった~、死んじゃうかと思ったよ~」
彼女の復帰にポロは安堵の息を吐く。その一方で、リミナは自分の唇を指でなぞり、頬を赤らめながら視線を逸らした。
「あ、ありがと……」
ぎこちない感謝の言葉に頷きで返すと、ポロはすくっと立ち上がりアラクネに目を向ける。
「あとは僕に任せて……」
「待って、なんであんたがここにいるのよ? 外はどうなっているの?」
色々と聞きたいリミナだが、ポロは小さく笑いかけながら。
「大丈夫、倒した後にちゃんと話すから」
そう言って、ポロはアラクネに飛びかかった。
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