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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
最終章 星の楽園、偽神に抗う反逆者編
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277話 クロナ戦、決着 リミナサイド


 リミナとクロナの戦いは佳境へ。

 クロナは無数のナイフを巧みに遠隔操作し、攻防一体の刃でリミナに猛襲。

 対するリミナはハルバードを振り回し、自身の血の結晶を体に纏わせそれを弾く。


「本当に勿体ない。あんた程の腕なら、どのギルドに行っても引っ張りだこだったでしょうに!」


「アハっ! 自分で言うのもなんだけど、殺戮愛好者をギルドが好きこのんで雇おうと思う?」


 一振り一振りが全力の一撃。

 そのさなかで、彼女達は言葉を交わし語らうのだ。


「なら、やめればいいじゃない!」


「やめろと言われてすぐにやめられる? 快楽依存を促す嗜好概念は、精神論で簡単に止まるものじゃない。そもそもやめる理由もないしね」


 新人とベテランの間柄だった時期はとうに過ぎ、今この瞬間、好敵手として互いの戦闘経験を競い合う。


「それじゃあ昔の仲間も、あんたの快楽を満たす為に殺されたのかしら!?」


「…………」


 クロナは答えず、代わりに動きが若干鋭くなる。


「死体は発見されなかったけど、あんたの経歴を鑑みたギルドの連中が、あんたの仕業なんじゃないかって噂していたわ」


「そりゃそうでしょ、一緒にクエストに行ったんだし。現に私が殺ったんだもん」


「けどもし、あんたの身勝手な快楽依存が理由なんだとしたら、どうしてドルチェスは殺さなかったの?」


 クロナに合わせてリミナもスピードを上げ対抗。


「さっきまで余裕なかったくせに、よく口が回るわね。リミナちゃん!」


「あの男に特別な思い入れでもあった?」


「あるわけないでしょ。私イケメン好きだから」


「だったら……あんたがした行為は、そうせざるを得ない状況だったから?」


 そこまで質問して、クロナはピタリと刃を止めた。


「よく頭が回ること……」


 静かな殺気、冷たい視線を見せながら。


「……リミナちゃん、人っていうのはね、欲に駆られた瞬間、悪魔に心を奪われるものなの」


「……クロナ」


「たとえば高価なレアアイテムが手に入るクエストに行ったとして、仲間内で喧嘩にならないよう、見つけたものが所有者になる取り決めを交わしたとして、実際現物を目の当たりにした瞬間、人は狂ったように豹変する。たとえそれが、長年パーティーを組んできた信頼出来る仲間だったとしても……ね」


 どこを見つめるでもなく、力無き瞳でクロナは続ける。


「私と一番仲が良かった女の子がね、家が建つほど値が付く希少な薬草を見つけたの。どんな難病も治す万能薬、『エリクシア』の原料となる薬草。その子には不治の病で寝たきりだった弟がいて、どうにかして弟に『エリクシア』を飲ませて元気にしてあげたかった」


 途中で結末の読めたリミナは、どういう顔をすればいいのか分からず、視線を逸らした。


「けど、他の仲間は彼女が薬草を見つけたと知るや、打ち合わせをしたかのように一斉に襲い掛かってね。……抵抗する間もなく死んじゃった」


 金ではなく弟の命を救う為に探した薬草は、天の導きか、欲無き少女の手に渡る。

 しかし、それは結局欲に目がくらんだ仲間達に奪われ、少女は無残にも散っていった。


「別行動をしていた私とドルチェスが戻った時には手遅れでね、彼女の死体に武器を突き刺したままにして、薬草を見ながらニヤついてる仲間達を見た瞬間、私の中で色々壊れちゃった。人っていうのは本当に醜くて意地汚い世界のうじだって、そう思うようになったわ」


「それが……あんたが暗殺の裏稼業に身を染めた理由?」


 リミナの問いに、鼻息混じりに笑う。


「やり甲斐あったな~。仕事だって割り切れたし、一人殺す度に、また少しだけ世界を綺麗にしてるんだって達成感もあった。そこにいつしか快楽を覚えて、私はもう……戻れなくなった」


 リミナはただ黙って見つめた。

 同情も、嫌悪感もなく、あるのは空白のピースが埋まった事への納得感。

 シンとした空気に、クロナは再び道化の如く笑った。


「……っていうのが今回のオチ~。どう、リミナちゃん、これで満足?」


「ええ、最後に聞けて良かったわ。もう休んでてもいいのよ?」


「んん~、どういう意味?」


 全身から流血するクロナを見やり。


「降参するなら、解毒薬をあげる。なんならそこに治癒魔法を使える人もいるし」


 命を取るか否かの選択を彼女に与えた。

 クロナは高笑いをして、直後、浮遊させていた無数のナイフを再び高速回転させる。


「アッハハハ! 舐められたものね! なに、さっきの話で情にほだされちゃった? 私の言葉が真実かも分かんないのに?」


 決してこの戦いを半端に終わらせる気は無いというクロナの意志を、リミナはひしひしと感じた。


「真実かどうかはこの際どうでもいい。アタシはただ、過去を追想したうえで、あんたがまだ生きたいかどうか確認したかっただけ。後悔残したままじゃ、死にきれないでしょ?」


「それが舐めてるって言ってんのよ!! 戦士に情けをかけるのは無礼だと知れ。リミナ・ハルチェット!」


 クロナの体に毒が侵食し、吐血しながら魔力を高める。


「キヒっ……やばい、この瀬戸際感、イキそう……」


 まともに体も動かない中、恍惚とした表情を浮かべながら。


 リミナも何も言わず、この一撃で終わらせようと、自身の血の結晶を持ち手からハルバードへ伝わせ、纏わせる。


「終わらせるわよ、クロナ・バゼラ」


 そして、リミナは足を軸にして回転し、遠心力で血の装飾を施したハルバードを振り回す。

 それは徐々に強力な風圧を巻き起こし、全身に風魔法の竜巻を付与した。


「キャハハ! 来なさい!!」


 対するクロナも、浮遊させている全てのナイフに炎魔法を付与し、炎剣の如き刃を高速回転させながら、自らも炎を纏い突進。


 そして、互いの攻撃がぶつかり合う。


「【乱気流一閃エディースワイプ】!」


「【無法者の放火(デスペラードアーソン)】!」


 竜巻と炎による熱風が辺りに爆散し、同時に二人は吹き飛んだ。

 岩壁に叩き付けられたリミナは、ハルバードを支えに立ち上がると。


「がはっ……かっ……ぐ……!」


 吐血しながら苦しむクロナの姿があり、リミナはゆっくりと彼女の元へ歩み寄った。

 もはや身をよじる事も出来ないクロナは、岩壁に背を預けたまま弱々しく震える。


「く……ふふ、リミナちゃんの……勝ち……」


 と、勝ちを譲るクロナだが、これは決して全力ではないとリミナは知っている。


「思うわけ、ないでしょ。そっちは毒で万全じゃないし……こっちは二人がかりだっつの……」


 苦い顔を浮かべて、勝ちとは言えない決着がついたリミナは、その場で倒れた。

 魔力切れを起こし、自身の血を結晶化していた魔法が解かれたのだ。


 大量の血が流れ、意識が薄れる中。


 ふと、クロナの手がリミナの口元に伸び、小瓶を無理やり突っ込まれる。


「んごっっ!?」


「安心して、毒じゃない」


 すると瞬く間に彼女の体についた切り傷が塞がり、痕も綺麗に無くなっていた。


「……クロナ、何を?」


 何故自分を助けたのか意味が分からず。

 弱々しく笑みを浮かべるクロナは、最期の瞬間まで陰気な顔はするまいと、無理やり口角を上げていた。





ご覧頂き有難うございます。

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