274話 マイノリティーな強者たち リミナサイド
リミナとクロナの攻防は続く。
「ほ~ら、真っ赤に染めあがって、仕上がってきたわね」
遠隔操作魔法により、無数のナイフを高速回転させながらリミナを攻めるクロナ。
ハルバードで弾き落とすも、全方向からの不規則な攻撃に対応しきれず、やがてリミナは背後に深く刃を刻まれる。
「いっ……!」
斬られた反動でバランスを崩すも、歯を食いしばり踏み留まる。
「リミナ、今回復を……」
と、ルピナスが杖を構えると、リミナは何故か『待て』という手を向け、治癒魔法を拒否した。
ばっくりと割れた背に激痛走るが、呼吸を整え自身を鼓舞し。
彼女は着ていた服を脱ぎ捨てた。
「キャハハ、エロい恰好してどうしたの? っていうか、子供体系のツルペタおっぱいなのに胸当てしてたんだ」
「やかましい。服に無駄な血を吸わせたくなかったのよ。こっちのほうがやり易いしね」
すると、リミナは自身の血を操る魔法を使い。
全身に刻まれた切り傷から、無数の棘を模した血の結晶を生成する。
「でた、流血操作魔法。そのハリネズミモード、結構厄介なのよね~」
と言いながらも、クロナは笑みを崩さず幾本ものナイフをリミナに飛ばし。
リミナは鉄のように固い血の棘を駆使して、多方向から飛んでくるナイフを全身で受け止め弾き返していった。
「今度こそぶっ潰してやる!」
「アハハハハ!」
血みどろの殺し合いを、依然クロナは愉しみながら斬り結ぶ。
ギリギリの緊張感が快楽に似た興奮を覚え。
戦場こそが、彼女の唯一生きていると実感出来る瞬間だった。
一方、グラシエは。
「さっきから打たれてばっかだな! さては痛いのが気持ちよくてわざとオレの攻撃を食らってんだろ。えぇ? 変態露出筋肉だるま!」
「くっ……どんな神経してたらそんなに罵声の言葉が出てくるんだっ……!」
弱小メンタルのドルチェスを煽りに煽り、根本から戦意を削ぐ彼女。
「この棒で叩かれるのがいいんだろ? それともヒールで踏まれたいかよ!?」
「ぐぉっ……悔しい! 悔しいぃいいい!」
傍から見れば特殊なプレイをしているような光景で。
奥で戦うリミナとルピナスに一瞬ドン引きしたような視線を送られるも、これも戦いに勝つ為だと自分に言い聞かせ、他者の目をはばからずドルチェスを心身共に責め続ける。
「つーかいい加減倒れろよ! さっきから仲間の冷たい視線がチラチラ飛んでくるんだ!」
「ふっ、それすらもじきに快感へ変わる。ようやく貴様も俺と同じステージに立てるというわけだ」
「立ちたくねえわ! やっぱり変態じゃねえか!」
しきりに長身棍棒で滅多打ちにするが、未だ致命打にはならず。
自分よりもはるかに頑丈な肉体を持つドルチェスに、不死身なのではないかと一抹の不安がよぎった。
すると突然、ドルチェスは腰を深く下ろし、仁王の態勢を取る。
「すぅ……そろそろ頃合いだ」
そう呟きながら、初めて戦闘の構えを見せる彼の周囲から、ビリビリと重い空気が漂う。
「鬼人の娘よ、俺がただ攻撃を受ける度によがる変態だと思ったか?」
「うん」
即答で頷くグラシエ。
「ぐっ…………まぁいい、この痛みも、この屈辱も、全ては俺の力になるのだからな!」
だが、先程までとは明らかに別格の威圧が周囲から放たれ、一瞬彼女の背筋が震えた。
「いくぞっ! 【復讐の火】!」
ドルチェスが魔法を唱えた瞬間、彼の中心から凄まじい気が放出され。
そして拳を握り正拳の構えをグラシエに向ける。
「っっ! 『帝王蛇』!」
危機を察したルピナスは、途端に自身を守っていた大蛇の魔物に命令し、ドルチェスの元へ突進させた。
瞬間、ドルチェスが振るった拳から、魔導砲のような出力の波動が前方に放たれ。
軌道にいた大蛇は塵となって掻き消え、尚も勢いを残した波動がグラシエを襲う。
「【剛堅守】!」
グラシエは直前で全身を気で纏う防御スキルを発動するが。
その威力の前に、彼女の気は耐えきる事が出来ず。
重火器が直撃したように全身ボロボロになり、グラシエはその場で膝を付いた。
「がっ……か……」
「俺は自身を痛めつけられる度、屈辱を味わう度、己の力を増してゆく。さらにはオールドワンからの恩恵で、身体能力を大幅に向上させているのだ。貴様がいくら攻撃しようとも、それはただ俺の糧となるだけだ」
元々異常なまでに頑丈な体に加えて能力強化を施されたドルチェスに死角は無い。
グラシエ自身、その力は肌で感じていたが。
彼女は尚も立ち上がる。
ここで二人を食い止めなければ、仮にオールドワンを倒しても新たな脅威が生まれるだけだと。
彼女はずっと嫌っていた自分の体、合成生物に改造された呪われた体を見やり。
半身を分けた古代魔獣に、初めてその力を頼った。
ご覧頂き有難うございます。