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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
最終章 星の楽園、偽神に抗う反逆者編
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273話 達人級の殺戮者 リミナサイド


『エドゥルアンキ』深部へと続く道の途中。


 敵の足止めを買って出たリミナとグラシエ、ルピナスは、通路を駆け回りながら激戦を繰り広げる。


「【爆散風ばくさんぷう】!」


「【幻影縮地げんえいしゅくち】」


 技を仕掛けるリミナとグラシエに、ルピナスは召喚した魔物に身を守ってもらいながら、離れた位置で補助魔法を唱える。


「【肉体強化レインフォースメント】【魔力向上ラジカルアップ・マナ】」


 身体能力と魔力を強化した二人に相対するはクロナとドルチェス。賞金稼ぎ(バウンティハンター)であり、元Sランク冒険家。


 その実力は、リミナが駆け出し冒険家の頃から知れ渡っていた。

 達人級の、殺戮者である。


「キャハハ! 当たらな~い」


「いや、攻撃とは躱すものではなく受けるものであって、古今東西いかなる場面においてもその流儀は変わらず――ぐあああああああ!!」


 言い切る前に、グラシエの長身棍棒スタッフメイスによる一突きで壁際に吹き飛ばされるドルチェス。


 しかし岩盤に叩き付けられたにもかかわらず、まるで怯んだ様子もなく。


「――しかし近年ではそういった風習も廃れており、ヒットアンドアウェイが主流となっている現実に思うところあれど、だが考えてみれば女性は男性よりも筋肉量が少ない為、それを補う戦法を良しとする面も否めず……」


 砂埃を掃いながら続きを語りだしていた。

 グラシエは舌打ちをしながらドルチェスへ飛びかかり。


「うるさいんだよさっきから!」


 拳を握り、渾身の一撃を頬に食らわせた。


 再び壁に叩き付けられるドルチェスだが、グラシエ自身、その打撃に手ごたえの無さを感じていた。


「ふむ、だが鬼人オーガの娘、お前の肉体は素晴らしい。女性らしい細身の体系でありながら、繰り出される攻撃はどれも重みある一撃だ。敵でなければ、肉体構造と筋力トレーニングの好みについて三日三晩語り合いたいものだが……」


 拳を頬にめり込ませながら平然と喋るドルチェスに苛立ちを覚えるグラシエ。


「筋肉談義で三日も語らえるかっ!!」


 と、グラシエは激高しながら長身棍棒スタッフメイスを地に突き刺し。

 全身に『練気』を纏わせ、怒りのままに拳と足技の連撃を食らわせる。


「ぬぅ~尊い……」


 対するドルチェスは、グラシエのラッシュを受け続けながらも悦楽したような表情を浮かべていた。


「気持ち悪ぃなこの変態!!」


「え……変態? ごはっぁああああ!」


 だがグラシエの放った一言で、一瞬ドルチェスを纏う『練気』が緩み。

 強烈な回し蹴りが彼の頭に直撃し、地をバウンドしながら倒れた。


 ――手ごたえ、あった?


 初めて明確なダメージを与えられたグラシエは、地に伏すドルチェスをまじまじと見つめる。


「ぐっ……俺は、変態なんかじゃない……筋肉愛好家なら皆同じ反応をするはずだ!」


「筋肉愛好家に謝れ」


 弱々しく口にするドルチェスをツッコミながら。


 ――え、こいつ、意外にメンタル弱い?


 複雑な心境ながらも、思いもせぬ弱点に活路を見いだしたグラシエ。

 彼女は「ンン」と喉を慣らすと。


「……いつまで床にキスしてんだ? ハリボテ肉壁野郎。負け犬にはお似合いだなぁ!」


「なっ……! なんて酷いことを……」


 罵詈雑言で相手の抵抗力を削ぎながら、彼女は休む暇を与えずひたすらに攻撃を続ける。


 ――……何これ?


 ルピナスは若干引き気味で、彼女の戦闘を見守っていた。








 一方で、リミナとクロナは刃交える攻防戦、死と隣り合わせの死闘を繰り広げていた。


「へぇ~、前よりキレッキレじゃない?」


 ハルバードを振り回し、演舞のように舞いながら攻め続けるリミナ。


 クロナはそれを手投剣(スローナイフ)で軽く受け流し、ブーツの先端に仕込んだ短剣を剥き出しに彼女へ応戦する。


 着衣に隠し持った無数のナイフを巧みに操り、いかなる方向からの攻撃も防ぎ反撃出来る反応速度。


 全身凶器と化すその動きに、攻めに転じているはずのリミナは逆に翻弄されていた。


「さすがに動きを読まれちゃうか~。全然斬らせてもらえないなぁ」


「あんたと戦って一度死線を彷徨ったからね。嫌でも動きは覚えるわよ」


「なるほどぉ、それじゃあ、ちょっとだけ本気だそっかな~」


 そう言うと、クロナは突然無数のナイフを宙に投げ。

 彼女が手を掲げると同時に、全てのナイフが空中でピタリと止まる。


「……浮遊魔法?」


「ううん、遠隔操作魔法」


 すると、宙で滞空していたナイフが急速に回転し始め。


「そういえば私、あの時は一度もリミナちゃんにスキルを使わなかったわね」


「っっ!」


「舐めてたわけじゃないけど、あの時は純粋な斬り合いが楽しかったから使うの忘れてた」


 そして、高速回転したナイフは、一斉にリミナに向けて襲い掛かる。


「【殺戮舞踏会スローターボール】」


 不規則に飛び交うナイフの群れに、リミナは斬撃をさばき切れず幾度も皮膚をかすめた。


「ぐっ……!」


 バルタの【炎斬乱舞ブレイズアトラクター】、もしくはショウヤの【神話武器召喚セイクリッドデバイス】にも似た、遠隔から放たれる斬撃の嵐。


 弾き落とそうとも、何度でも浮き上がり、再びリミナに向かってくる刃。

 銃弾も躱せるリミナの反射神経を以てしても、全てを回避する事は出来なかった。


「やっぱりリミナちゃんは血にまみれてるほうが魅力的ね。もっと可愛くしてあげるから待っててね」


 さらにクロナはナイフを増やし、リミナに集中投擲する。


 ――今までは本気じゃなかったの? だとしたら……アタシはどうやってこいつに勝つ?


 防戦一方の中、リミナはただ冷静に、彼女に勝つ手段を模索する。





ご覧頂き有難うございます。


明日、明後日は休載致します。

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