271話 戦闘後の虚無感 メティアサイド
空中に浮かぶ遺跡、『エドゥルアンキ』の入り口で、一人残されたメティアは膝を付き呟く。
「何よ……結局私だけが残ったの? 何の役にも立たない私だけが……」
無気力に、涙だけが、後から後から頬を伝う。
「フォルトさん……ノーシス……」
体の血液が足りず、頭も回らない中、純粋な悲しみだけが胸を締め付ける。
「……ミーシェル」
フォルトとミーシェルはこの場から消失。
あるのはただ、動かなくなったノーシスの遺体だけ。
そして魔力を使い果たした自分も、もはや立ち上がる力も残っていない。
戦いに勝利したはずなのに、そこに喜びなどなく、虚無感ばかりが押し寄せる。
――早く……私も、ポロの加勢に行かなきゃ……。
そう思いながらも、体は全く言う事を聞かず。
地面に伏したまま、わずかに上げる視線は虚空を映す。
その時、彼女の視界に一体の飛竜が目に入った。
「あれ……は……」
飛竜に騎乗する二つの人影。
レオテルスと、ショウヤだった。
「メティア!」
ショウヤは彼女の元へ駆け寄り、レオテルスはノーシスの元へ。
「ノーシス……」
そして、胴を貫かれ地に倒れるノーシスの姿を見て、レオテルスは静かに目を閉じる。
「しっかりしろ! 何があった?」
ショウヤはメティアに治癒魔法を施し、魔力回復ポーションを飲ませ応急処置を済ませると。
弱々しく、メティアはこの場で起こった経緯を話した。
「……ダメだ、【蘇生術】も効果がない……」
メティアから話を聞いたショウヤは、倒れるノーシスの蘇生を試みるも息を吹き返す事はなく……。
「ノーシスは自身の体に呪印を刻んでいる。蘇生が効かないのは、体の損傷による死ではなく、呪印の対価を払ったせいだろう」
と、レオテルスは告げる。
彼の呪印行使で消費するものは、己の寿命。
物理的要因で亡くなったわけではなく、生を許された時間の損失である為、蘇生術や死霊術を用いても決して蘇るものではなかった。
「同様に、フォルトという転生者と、猫妖精の彼女も物理的なものではない。消失したものを蘇らせる事は難しいだろうな」
「くそっ! 俺がもう少し早く来ていれば……」
「今更悔やんだところで、時は待ってはくれない。なら、今出来る事をするしかないだろう」
嘆くショウヤに、レオテルスは冷静に現状を捉えていた。
「この人、あんたの仲間だったんだろ? 悲しくないのかよ?」
「ノーシスが自身で決めた事だ。命を賭して、仲間の為に戦った証だ。その行為を悔やむのは、彼の侮辱に他ならない」
言いながら、レオテルスはノーシスの遺体を抱きかかえ、魔導飛行船へ運んでゆく。
「ただ……この戦いが終わったら彼を弔ってやりたい。メティア、戦闘後で疲弊しているだろうが、ノーシスを船に入れてくれないか? そして出来れば、君はここに残って船を守ってほしい」
「……でも私は」
自分が残ったところで、また同じレベルの敵が現れた際にはどうすることも出来ない。
彼女は自分を卑下しながら、言葉に迷うのだ。
「今ここにいる飛行士は君だけだ。君にしか頼めないんだ」
そんなメティアに、レオテルスは頭を下げる。
最後まで仲間を見守ってほしいと、皆が帰る場所を守ってほしいと。
それは他でもなく、メティアにしか出来ない事なのだと、レオテルスはそう告げる。
「いなくなった三人の覚悟を無下にしない為にも、俺は先に行くよ」
そして、彼は遺跡の中へと消えていった。
「おい、一人で行くんじゃねえよ」
了承を得ないまま一人で中に入るレオテルスを追いかけるショウヤ。
と、彼は途中でふと立ち止まり。
「メティア、中の事は俺達に任せろ。これ以上の犠牲は出させないし、ポロもちゃんと連れて帰る」
「ショウヤ……」
「だから、外のほうは頼むな」
そう言って、ショウヤもレオテルスの後を追い中へ入っていった。
彼女は思う。
立ち直れずにいる自分への、彼なりの気遣いなのだろうと。
「あんな若造に気を遣われるとはね……」
悲しみに暮れている場合ではない。自分にもまだ出来る事があると、二人は教えてくれた。
メティアは自身の両頬を叩き、くじけそうな心に喝を入れる。
きっと皆はこの船に戻ってくる。そう祈り、信じて。
操縦席に座り、いつ敵が現れてもいいようにと迎撃に備える。
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