26話 一方その頃攻略部隊【4】
リミナを筆頭に、冒険家達が前線し死神皇帝に応戦する。
そして国の兵士達はアルミスを囲むような陣形で守りに徹した。
魔導士や弓士の職を持つ冒険家は遠距離から総攻撃を仕掛け、怯んだ隙に剣士などの近距離型の者が畳み掛ける。
死神の大鎌を躱しながら連携を活かしてダメージを与えていくうちに、ようやくリーパーロードの動きが弱まった。
「次で終わらせる!」
と、リミナは天上まで飛び上がり、光属性の魔力を高め、武器に付与する。
「魔法はあまり得意じゃないけど、今のあんたならこれで十分」
ハルバードを真下に向け、重力の赴くまま下降した。
「【聖なる槍】!」
槍の先端を頭蓋骨に貫通させ、力の限り地面に叩きつける。
しかし致命傷には至らず、槍を押し付けるリミナごと上体を起こそうと悪あがきをするリーパーロード。
「こいつ……どんだけしぶといのよ!」
リミナと死神の力比べが始まる中、離れた位置で、アルミスが弓を構えながらリミナに叫ぶ。
「離れて下さい!」
弓矢の先端から神々しい光が溢れ出る光景を見ながら、リミナは武器を捨てリーパーロードから距離を取り。
それを合図に、アルミスは光の矢を解き放った。
「【天与の光!】」
光線のように放たれる一矢は、光り輝くレールを描きながらリーパーロードの体を貫通させ。
リーパーロードは開いた風穴から徐々に灰のように浄化していき、やがて消滅した。
強敵が消失したことにより、どっと疲れが出たリミナとアルミスはその場に腰をつく。
「……は~ヤバかった。アルミス、あんたのおかげよ」
「……いえ、お役に立てて何よりです」
と、自然と二人の間に友情らしきものが芽生える中。
「……そうだ、バルタ!」
ふと、休めていた体を起こし、もう一体の強敵の行方を目で追うと。
その瞬間、リミナの近くで突風のように吹き飛ばされるバルタの影が横切る。
「え……バルタ?」
激しい轟音と共に岩壁に叩きつけられ、ズルズルと地面に横たわるバルタ。
体はすでにボロボロであり、息も絶え絶えの瀕死の状態。
そんなバルタに駆け寄り、意識の確認を取る。
「ちょっと、あんたその傷……大丈夫なの?」
「はっ……これが、大丈夫に見えるか? さすがに多勢に無勢でよ……」
バルタの視線の先を見つめると、そこには全身剣のような棘を生やした千剣蜘蛛と、猛毒の霧を吐く猛毒蜘蛛の死骸が転がっていた。
「そっちに分散させないように俺に注意を向けさせてたんだが……さすがにしんどいな」
いずれも熟練者級であり、本来ならば一体相手に複数人で戦うべき魔物。
それを一人で相手取り、なおかつ女王蜘蛛の足止めも担っていた。
「無茶してんじゃないわよ。……アルミス、こいつ治療してあげて」
「はいっ!」
アルミスはバルタに駆け寄り治癒魔法を施す。
その間、リミナは地面に転がっているハルバードを手に取り。
「バトンタッチ。後は私がなんとかするから、あんたは休んでて」
と言って、奥で構えるアラクネに向かって走り出した。
そんな折、今の戦況を見たオーグレイはぼそりと呟く。
「統治者級との連戦、あの女はさすがに助からんか……」
そしてゴソゴソと懐からブローチのような物を取り出すと。
「従順なる部下達よ。全員俺と姫様の盾となれ」
オーグレイがそう言うと、兵士達はわけも分からず無意識に体が動き、アルミスとオーグレイの前に五人ずつ、庇うように集まった。
「え、体が勝手に?」
「オーグレイ様、これは一体……」
決して命令されたからではない。まるで操られたように体が動いたのだ。
ニヤリと笑うオーグレイは種明かしを始める。
「出発前、お前達に指輪を渡しただろ? 俺の部下である証拠であると同時に忠誠を誓う為の指輪だ。皆、馬鹿真面目に装着してくれたようで俺は嬉しいぞ」
「それが……一体」
「それは別名『奴隷の指輪』と言ってな、主人である俺の命令に絶対に逆らえないように特別な魔術を施してある。だから……」
と、説明している最中に、アラクネが新たに召喚したであろうソードスパイダーがオーグレイの元へと突進してきた。
「丁度いい。そこのお前、俺の身代わりとなれ」
「えっ、はっ?」
その巨大蜘蛛は剣のような前足を突き立て刺突を振るうと。
命令を受けた一人の兵士は、直前でオーグレイの前方へ立ち塞がり、蜘蛛の刃を直で受けた。
「がっ……かはっ!」
避けることもガードすることも許されず、無防備なまま盾として胴体を貫かれる。
「オ……オーグレイ、さま……」
「ほらっポーションだ、これを飲め」
重傷を負った兵士は、渡されたポーションをがぶりと飲むと。
突如、急激な体の発熱に見舞われる。
「こ、これは……まさか……」
「ああ、爆薬ポーションだ。直接投げてもいいが、体内で液体と混ざることによってより火力が上がる。間もなくお前の腹で爆薬が出来上がり、そこの蜘蛛を道連れにして爆ぜるんだよ」
「そん……な……」
「しかしちょっと火力が足りなそうだな。おい、お前も飲め」
そう言って、隣の兵士にもポーションを渡す。
「嫌だ、嫌だ!」
口では拒絶するが、体が言う事を聞かず、兵士は男の言われるがままポーションを飲み干し……。
「よし、じゃあお前達、俺達に被弾しないよう、蜘蛛を連れて離れろ」
言われるがまま、二人の兵士は巨大蜘蛛を体当たりで押しながら距離を取る。
「名誉ある死だ。ありがたく思え」
オーグレイは最後の言葉を残し、その場を離れる。
「ああああ、こんな、こんな死に方……!」
そして、二人の兵士は巨大蜘蛛諸共爆散した。
周囲にこだまする轟音は、その場にいた全ての者を凍り付かせた。
自分もああなると予感した兵士達は必死で指輪を引っ張るが、無理に外そうとすると体中に電流が流れるような激痛が走り、もはや抵抗は出来ないのだと絶望する。
壁際でその凄惨な光景を見たアルミスは、驚愕しながらオーグレイに問う。
「オーグレイ…………あなた、一体何を……」
隣にいたバルタも唾を吐きながらその男を睨んだ。
「反吐が出る……」
当のオーグレイは白々しく頭を下げながらアルミスに返す。
「あの者達は姫様をお守りする為、自らの命を擲ったのです。国の為の栄誉ある死、なんと勇敢なる者達でしょう」
「そんな……あなたは、なんてことを……」
ポロポロと涙を流すアルミスを横目に、フラつく足でバルタは立ち上がった。
「てめぇ、とうとう一線を越えやがったな……。言ったはずだぞ、俺の邪魔をしたら黒龍の餌にすると」
ゆっくりと近づくバルタを前に、オーグレイは電撃魔法を付与したグローブをはめる。
「お前は手前勝手に部隊の戦力を欠かした。その罪は償ってもら――」
そしてバルタが言い切る前に、オーグレイは彼の首元にグローブをあてがい、出力を最大にして電撃を浴びせた。
「あっ……がっっ!」
「少し黙っていろ、どうせその傷じゃあろくに戦えんだろ。お前こそアラクネの餌になり、少しでも注意を惹きつける役目を全うするんだな」
「くそ……がっ……」
口から煙を吐きながら、バルタはその場に倒れた。
「オーグレイ! どうして!」
アルミスは男の蛮行を受け止めきれず、腰を落とし泣き崩れる。
「さあ姫様、我々と共に参りましょう。おい、姫様をお連れしろ」
オーグレイが命令すると、兵士は無理やりアルミスの肩を持ち上げ奥へと進む。
「待って! まだ冒険家の方々がっ!」
「彼らがアラクネの相手をしている今が好機です。さあ」
「離して! 私も皆さんと戦います!」
しかし、アルミスの声は聞き届けられず、彼女を引っ張る兵士達は何度も謝罪をしながら、なすがままの体で連行する。
歪んだ男の精神は、もはや目先の欲にしか興味はなかった。
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